55.正義の味方 その二十二 鏡よ、鏡
-学校-
『柊、たまには、一緒に飯食おうぜ。』
昼休みに珍しく南が誘ってきた。
『あぁ、いいよ。行こう。』
僕は、鞄から財布を取り出し、南と売店に向かう。
混雑する売店で、チョココロネとメロンパン、ライフガードを買い、屋上へ。
天気もいい性か、屋上には、人がまばらにいた。
少し前までは、不眠症気味で人前に出るのが怖かったが、
あの”暴露”以来、なんだか吹っ切れた。
今では、こうして堂々と人前に出られる。
変わらず、スパイなんだが…なんだか可笑しいな。
僕と南は、少し離れた場所に陣取り、食事を取り始める。
『怪我はもういいのか?』
南が手すりに寄りかかりながら、僕の左足を指す。
『お陰様で。知ってると思うが、術者なんでね。
ある程度の治癒、治療はできる。』
『そりゃ、良かった。』
『悪いが、学校でリベンヂマッチは断るぞ。』
僕は、チョココロネをほお張りつつ、忠告する。
『僕は、正義の味方だぞ。一般人は巻き込まん。』
南は、カレーパンをかじり、宣言する。
『そりゃ、助かる。』
『僕の事、誰にも話してないよな?』
『当たり前だ。口は堅い方なんだ。』
『彼女にも話すなよ。』
『彼女なんかおらん!』
僕は、チョココロネをライフガードで流し込む。
『えっ?草津校の、あの女と付き合ってんじゃないの?』
『付き合ってない!』
『わざわざ、正門まで迎えに来てたじゃないか。』
南が意外そうな顔をする。
『話すとややこしくなるが、彼女ではない。その…バイト先の先輩だ。』
僕は、適当にごまかす。
『ふ~ん、まぁ、いいさ。
話は変わるが、柊って、黒連の人間なんだろ?』
『あまりデカイ声で話すな。
詳しくは言えんがね。まぁ、遠からず、近からずだ。』
『…”黒陽”って知ってるか?』
『う~ん、知らないな。
名前から察するに、南の”月影”と関係有りそうだが…』
僕は、南の右手を指す。
『鋭い。僕の”月影”と兄弟機と言えばいいのかな。
だが、聞くにはあまりよろしくない相手みたいだ。
もしかすると、柊、お前も狙われるかもしれん。』
『マジか…”月影”みたいにデタラメな性能のヤツが?
頭痛いな。』
僕は、肩をすくめる。
『心配するな。僕程、強くない。けど、数が多い。』
南は、笑って胸を張る。
『なんか情報があいまいだな。詳しく教えてくれよ。』
『僕だって、まだ、会った事がない。聞いただけだ。
だが、見過ごせない相手だ。
事、”黒陽”については、共同戦線といかないか?』
『共同戦線はいいが、人相とか形の予想とかさ…。
どんなヤツか分からないんじゃ、連絡しようもないだろ?』
『姿は、見た事ないんだって。僕と同タイプの装着型ぐらいしか分かんない。
色は、その名の通り、ブラック。』
『同タイプねぇ。』
僕は、草津市の景色を眺めながら少し考える。
『スマホのナンバー教えてくれ。もし、対峙、目撃したら連絡するよ。
話し方から、”南”の手で決着付けたいんだろ?』
『おっ、いいねぇ。分かってくれちゃう?
090-XXXX-XXXX。ワンコしてちょ。』
南は、とぼけてスマホを見せる。
僕は、すぐさま、電話する。
『♪~』
『OK。確認した。ひとまずは休戦だ。
”黒陽”とケリつくまで。』
『あぁ。』
僕は、南の番号を登録しながら笑う。
『性もないヤツに倒されるなよ。』
『お互いにな。』
昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り、僕らは教室に戻った。
-放課後 白鞘のマンション-
『さて、今日の目標は、”紫の鏡”よ。』
御門野が僕達に話し始めた。
『よく噂で聞いた事あるでしょ?
20歳までにこの言葉を忘れないと不幸になるとか。』
『都市伝説じゃなかったんですか?』
『なかなか、噂だけで目撃がなかったんだけどね。
今回、発見できたのよ。
じゃあ、張り切って出撃しちゃいましょう!』
出撃準備中、平田が話し掛けてくる。
『なぁ、柊?』
『何すか?』
ワルサーのマガジンを確認しながら僕は聞き返す。
『嘘、もう、ないな?』
『あんだけ、ゲロったじゃないですか。
御門野さんにはバレテるんでしょうけど、
黒連のメンバーについては、まだ、話せません。
その…白鞘と黒連の協定みたいな物が結ばれたのなら
ちゃんと紹介しますけど…』
『違う違う!あんた自身の秘密や。』
『僕にだって、秘密の一つや二つぐらい…』
『グゥーで顔、殴るで。』
『秘密にしている”能力”がありまして。』
『あはははははっ、お、お腹痛い。』
『ぷふっ!』
『意思、弱っ!』
御門野、新堂と宇梶が顔を抑え、笑う。
『殴られるのが嫌な訳じゃない!』
僕は、必死に弁明する。
『えぇよ。何?言って。』
『百鬼夜行と言いましてですね。
その…妖怪達の力を借りる事ができるんですよ。
まだ、一人、というか一匹なんですけど…』
『はぁあっ?』
御門野が一際、大きな声を上げる。
『柊君、それって、あなた、”化物語り”って事?』
『え、えぇ。そういう呼び方もあるみたいですね。』
『ちょっ、あなた、どれだけ、レアなの?』
『えっ?そんなにですか?
この間、”一本だたら”戦後に対峙した男も百鬼夜行でしたけど…』
『本当に?』
御門野が信じられないと言った顔で僕を見る。
『見間違いないです。相手も僕が同類だと認識してました。
悔しい事に相手の方が数段、上手でしたけど…』
『でも、退けたじゃない。大した物よ。』
『そうですよ。柊君、たった一人で。』
御門野と新堂が僕を褒める。
しまった。”月影”の事、言ってねぇ。つーか、言えねぇ。
どう…言い訳するかな?
『一つは、”プレパ・レイド”のお陰です。
もう一つは、相手が完全に僕を舐めていた事。
最初から、殺す気で来られたら結末は変わっていたかもしれません。
その、食べる?捕食するつもりだったみたいなんで手加減してました。
お世辞抜きで今まで一番、凶悪でデタラメに強かった。』
『止めは?』
『”雷吼鞭”で一時的に吹き飛ばすので精一杯でした。
気配は消えたけど、生きているかもしれない。
それと”一本だたら”の力を取り込んで、左手が大砲に変形します。
威力、射程共に半端ないです。
次、対峙したら、僕が前線で”プレパ・レイド”を張ります。
平田さんと宇梶にカウンターを、
新堂さんは、援護射撃をお願いします。
最初に前には、”絶対”出ないで下さい。
ワルサーやベレッタじゃあ、多分、倒せないです。』
『これまた、やっかいな相手ねぇ~。』
御門野が頭を抱える。
『新ちゃんにバズーカ持たせる訳にはいかないし…
柊君、その男って、見た目は手ぶらなの?』
『えぇ。見た目は普通の優男で丸腰に見えます。
あぁ、見せた方が早いですね。
百鬼夜行 テケテケ。』
僕の左手がどす黒く光り、大鎌が出現する。
先の死線を潜り抜けた性か更に妖しく光っている。
『『『うわっ!』』』
新堂、平田、宇梶が驚き、一歩後ずさる。
『実物は、初めて見た。こんなに詠唱時間短いの?』
御門野がマジマジと僕の鎌を見る。
『あの男は更に何種類か所持していて、発動も早かった。
僕は、ご存知の通り、近距離の戦闘タイプではないし。
この鎌も使いこなしているとは言えません。
でも、発動までの時間で言えば、御門野さんの槍だって早いじゃないですか。』
『柊君、あのね。
私は、二十数年、使ってこのレベルなの。
あなた、この”テケテケ”は、この間、取得したんじゃないの?』
『そうですね。白鞘の任務時です。』
『嬉しいような、悲しいような、ちょっと腹が立つわ。
となると、これから討伐する”紫の鏡”も入手できるの?』
『それは…どーでしょう?
”ブルマおばさん”は無理でしたし、何か条件があるのかもしれません。』
僕は、首を捻り、少し考えて答える。
『まぁ、無理しなくていいわ。できたら儲け物。討伐を優先して頂戴。』
『了解しました。』
僕は、鎌を戻す。
『新ちゃん、あみ、陽子、ちょっと、こっち来て。』
御門野が女性陣のみ手招きする。
『あんたら、絶対、”この子”を逃すな。
いいわね。”最優先事項”よ。』
-栗東市 小さな廃病院-
”紫の鏡”の目撃情報がある場所に着く。
夕暮れ時のせいで病院が更に不気味さを増している。
おっかねぇ、バイオハザードみたい。
『今回、どないしよ?』
平田が新堂に作戦を聞く。
『”紫の鏡”は、呪いをもたらすという事しか分からないわ。
近距離系なのか遠距離系なのかも不明、数も不明。
病院の見取り図を確認したけど、それ程大きくはないわ。
4人で移動しましょう。
あみ、陽子、気配は掴める?』
『わからんね。』
『同じく。』
平田と宇梶が首を振る。
ん?なんだ?左手で疼く、チクチクするというか。
静電気?じゃないな。
なんと言うか…これは…
『あの…多分、います。
僕の左手に反応がある、来ていると言えばいいのかな?
感覚論、距離感ですけど、恐らく、3階、このホール辺り。』
僕は、左手で新堂が広げている見取り図を指す。
『そんな事、分かるんですか?』
新堂が驚き、目を丸める。
『あくまで、感覚なんで外れてたら、ごめんなさい。』
僕は、両手を合わせ、片目をつぶる。
『えぇやん。当てずっぽうよりよっほどええわ。
まず、そこ行こうや。』
『賛成です。
私達の気配察知が役に立たない以上、柊君に。』
平田と宇梶が僕を支持してくれる。
『私も異論ありません。では、いつもの陣形で行きましょう。』
新堂が見取り図をしまい、僕らをうながす。
僕らは、病院のエントランスをこじ開け、3階に進む。
病院内は、廃棄されてから随分たつのかボロボロで、蛍光灯は垂れ下がり、
壁のコンクリートが剥がれている箇所もある。
ところどころにホームレスが住んでいる、もしくは住んでいたのか
カップラーメンの容器、毛布が捨ててあった。
目的のホールは、位置が奥まった所にあり、夕日が入らない。
そして、ホールの真ん中に髪の長い女性が居た。
髪はぼさぼさ、身なりも失礼だが、ホームレスに見える。
手には紫色の手鏡を持っている。
こいつが、”紫の鏡”。
『ビンゴやね。』
平田が手甲を構え、一歩、前に出る。
『新堂さん、柊君の保護をお願いします。』
宇梶は、霊剣を二振り、抜刀し平田に続き、歩を進める。
『ぎゃあぁぁぁぁっぁぁぁぁ!!』
いきなり、”紫の鏡”を持つ女性が絶叫した。
僕らは、不意の大声に驚き、つい”紫の鏡”を凝視してしまう。
『ノロイ、アレ。』
今度は、女性とは思えないほど低く、響く声が聞こえる。
『『『『!!!!』』』』
いきなり、”紫の鏡”を持った女性は膝を付き、前のめりに倒れた。
『えっ?何?』
ベレッタを構えた新堂が思わず、声を漏らす。
『平田さん!』
宇梶の声で、僕と新堂は視線を平田に移す。
なぜか、”平田”が宇梶に襲い掛かっている。
動きが無茶苦茶だ。明らかに様子が…
『平田さん!』
宇梶が声をかけ続けるが、平田は、宇梶を攻撃し続けている。
もしかして…呪いって…嘘だろ!?
『様子が…あみが乗っ取られた!?』
新堂は、驚きを口にする。
『ぐぅぅぅぅ!』
平田の目は血走り、口から泡を吹き始めた。
『陽子、峰打ちであみを封じて!』
『そんな!無茶です。手加減できない。』
平田の連打をなんとか霊剣で弾きながら、新堂の指示を宇梶が突っぱねる。
『仕方ないわ。足を撃ちます。陽子下がって!』
新堂がベレッタで平田に狙いを定める。
『タン!タン!タン!』
3発の内、2発が平田の足に当たり、平田はその場で座り込むように倒れた。
『柊君、あみの治療をお願いします。』
『了解。』
僕は、ワルサーを腰に仕舞い、平田に駆け寄る。
『柊君!左!!』
宇梶の声に従い、とっさに左を向く。
”紫の鏡”が、その本体と思われる女性が僕に飛びかかってきた。
『くそっ!”プレパ・レイド”!』
淡い紅色の壁が女性と僕を分かつ。
『があぁぁっ!』
女性は、一心不乱に、”プレパ・レイド”を引っかき、噛み付こうとする。
ふぃ~、あぶねぇ。嫌な汗が背中をつたう。
だが、腕力、膂力は低いのか女性では”プレパ・レイド”に歯が立たない。
その事を悟ったのか、女性は攻撃するのを止め、息を大きく吸い込む。
これって、さっきの…
僕は、とっさに耳を塞ぐ。
『ノロイ、アレ!』
ん?僕に、自分自身の体に異常は感じられず、ゆっくりと耳から指を外す。
『柊君!』
新堂の悲鳴と同時に焼けるような痛みが背中を襲う。
『ぐぃっぅぅぅ!』
首をなんとか捻ると、宇梶に斬られていた。
今度は宇梶かよ!
『くそっ!』
僕は、膝を着き、悪態をつく。
尚も、宇梶が僕に迫る。
なんとか距離を…
『”鋭針装”!』
自分自身に術を施し、見た目は悪いが、前方に高速で転がる。
うう、やべえ、背中、めっちゃ痛い。
『タン!タン!ギャリン!!』
新堂が宇梶に発砲するも、狙いは外れ、逆に窮地に追い込まれてしまう。
斬りかかる宇梶の霊剣をベレッタでなんとか受け止めている新堂。
だが、切っ先が少しづつ新堂に向かっていく。
正気ではないのか、宇梶は片振り捨てて、一本の剣を両手持ちしている。
『柊君、ごめん!助けて!』
額に汗を滲ませながら、新堂が僕を呼ぶ。
”雷吼鞭”?宇梶、新堂ともに吹き飛ばしてしまう。ダメだ。
”炎刃”、も同じく不可。
”紫音”、距離が遠すぎる。近づいても宇梶に迎撃される。
ワルサー…転がった際に落としちまった。ついてねぇ。
そもそも、宇梶を倒しても…
そうか!
『おめぇが本体だ!
カタシハヤ、エカセニクリニ、タメルサケ、テエヒ、アシエヒ、ワレシコニケリ!』
僕は、倒れた女性の”紫の鏡”を左足で踏み、唱える。
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!』
女性が絶叫し、”紫の鏡”は割れた。
宇梶も急に脱力し、新堂に覆いかぶさるように倒れる。
『大丈夫ですか?新堂さん?』
『な、なんとか。怖かった。』
『”慈恩”』
僕は、背中の傷を塞ぎ、新堂の元に駆け寄る。
『すっごい機転だった。』
まだ、息は荒いが、新堂が笑みをこぼす。
『こんな能力があるなんて…
今までとは違ったパターンで肝っ玉冷やした。
耐刃ジャケットじゃなきゃ…死んでました。』
切られたジャケットを見ながら僕は、改めて宇梶の強さを思い知る。
『でも、紙一重で致命傷を避けてる。すごいね。』
『そんな、偶然ですよ。』
気を失っている平田の傷を治療しながら、僕は答える。
『どんどん、敵、強くなっていくね。
白鞘、私達を最前線に送る気なんだ…』
宇梶を背中に抱え、新堂が気を落とす。
『僕らだって、強くなってる。絶対、守ってみせます。
その為の、僕の力なんです。』
僕は、平田を担ぎ、力強く答える。
『ありがと。』
新堂は、汗で顔に張り付いた髪を払い、少し照れたように笑った。
-帰還する車内-
平田は、自分の足をさすり、首、肩を確かめている。
『助けてくれたん、礼言うけど、変な事してへんよね?』
『おいっ!命の恩人ですよ!』
平田の疑いの目に僕は、猛抗議する。
『いや、だって、”紫の鏡”入手したんやろ?』
『まだ、試してないから、分からないですよ。』
タオルで汗を拭いながら、僕は、自分の左手を見る。
『あんたがその気になったら、エミ一人、どうとでもなるやろ?
うちらにやりたい放題違うん?』
『『!!!!』』
宇梶と新堂がこっちを同時に見る。
『ちょ、ちょっと!なんつー事、言うんですか!
新堂さんもフォローして下さいよ。何もなかったでしょ!』
『私も操られたの!?』
新堂が大げさに胸を隠す素振りをする。
『ちょっ、新堂さん、シャレなんねぇ!』
『あとで体、よく見よ。なんかしとったら、覚悟しいや。』
『…最低。』
平田と宇梶が冷たい視線を僕に向ける。
『踏んだり蹴ったりだ。こんな苦しい目に会ったのに…』
僕は、天を仰ぐ。
『フフフ。』
新堂が笑っている。酷いよ。




