53.悪の手先 アナザー9 Calling
-兵庫県 神戸市-
今夜は、星がきれいだ。
天気も悪くない。よく見える。
月と星の配置もいいな。
門脇は、Tシャツに短パンでマンションのベランダに出る。
神戸も意外に星が見えるな。
『カド、星見るの多い。好きか?』
春風が、門脇の後ろから声をかける。
『あぁ、好きだよ。悪い、起こしちまったか。』
門脇は、ゆっくりと振り返り答える。
『大丈夫。』
春風が微笑む。
『カド、春がいない。』
寝ていた門脇の服を月が引っ張る。
『ん?どういう事だ。南京街じゃないのか?』
門脇が、寝癖頭を掻きながら聞き返す。
『違う。いない。いないの。』
月の顔が真剣だ。
門脇は、一気に布団から飛び起きる。
『翁には言ったか?』
『翁から言われた。春に連絡できあい、カドにって。』
できあい?あぁ、”できない”か。
どういう事だ。
春風だって戦闘員だ。
むざむざヤラレルとは思えないが…
誰だ?
………濵口か?いや、違うな。
生きていたと”仮定”しても、
あいつなら妖気が”だだ漏れ”ですぐ分かる。
春風だって、近づかせないし、恐らく近づかないだろう。
僕に連絡しない、できないって事は拉致されたか…まさか…
嫌な予感が門脇の頭をよぎる。
『月、翁の所に行くぞ。』
グロックを腰に隠し、
レガシイの鍵を取り、門脇は、玄関を出る。
『あい。』
泣きそうな顔で門脇の後を月がついてくる。
『ブブブ。』
携帯に着信だ。
”非通知”
門脇は、周囲を一瞥、再び、部屋に戻る。
グロックを抜き、月に合図する。
『月、ベランダの方にいろ。
何かあったら、翁の所にすぐ行け。いいな。』
月は、黙ってうなづく。
月がベランダに移動したのを確認して、門脇は電話に出た。
『もしもし?』
『びっくりだ。まだ、この番号使っていたんだね。』
男の声が聞こえる。
この声…。
『………ミナトか?』
『覚えていてくれたんだ。ちょっとうれしい。』
『悪いが、今、立て込んでる。
後で折り返す、番号を教えてくれ。』
『また、大人の事情か?
それなら、仕方ない。
僕も”チャイニーズ”とワルツでも踊っていよう。』
『!!!』
『どうした?
調子でも悪い?
バファリンやろうか?』
『…随分、下衆な真似をするようになったな。』
『あんたがそれを言うか?
こっちは、左手が疼きっぱなしだ。』
『春風は、生きているんだろうな。』
『春風?あぁ、名前か。
もちろん、殺しちゃいない。
僕は、”あんた”と違う。
だまし討ちはなしだ。
あの時の借りを返してもらおうと思ってね。』
『声を……聞かしてくれ。』
『ど~した?随分、弱気じゃないか。
あんなに強くて、汚くて、
むちゃくちゃだったあんたらしくもない。』
『僕だって…、年を取る。』
『そうか…そうだな。いいだろう。
ほ~ら、しゃべりな。ダーリンだよ。』
『カド、ごめん。』
春風の声が聞こえる。
『無事だな?気にするな。すぐ助ける!』
『はっはっは、”すぐ助ける!”
いいねぇ。シビレル!』
すぐに電話は、ミナトに変わった。
『要求は?』
『おっ、調子戻って来たか?
いいぜ、そのあんたじゃないと意味がない!
次の満月の晩、あの場所で待ってる。
”ジャイロ・ボーラー”と”マグナム”を持ってこい!
リターン・マッチだ。
”サシ”でやろうぜ。』
『今は、”ジャイロ・ビリヤード”つーんだよ、小僧!』
『知ってるさ。
でも、僕達の間では、”ジャイロ・ボーラー”の方が
しっくりくる。そうだろ?』
『次は、ドタマ吹き飛ばしてやるぜ、小僧!』
『今のあんたじゃあ~、はたしてどうかな?
老眼で見えないとか言うなよ。
満月だ、ボケて日付間違えんな、ロートル!!』
『ブチン!』
電話は、切れた。
門脇は、手で月を呼ぶ。
『春風は無事だ。まず、翁のところに行くぜ。』
『カドォ…』
心配そうに月が門脇を見る。
『大丈夫。春風は僕が守ってみせる。必ずだ。』
月の頭をゆっくりとなで、門脇は自らに言い聞かせるように言った。




