51.正義の味方 その二十 さよなら傷だらけの日々よ
-911号室-
白鞘の召集がかかり、僕は、あのマンションの一室に向かう。
部屋には、僕を除く全てのメンバーがいた。
『じゃあ、柊君、そこ座って。』
御門野がソファを指差す。
僕は、鞄を降ろし、黙って従う。
『まぁ、一応、仲間だったわけだし。
薬とか拷問とかしたくないの。
自主的に話してくれると助かるんだけど…』
御門野は、テーブルを指で叩きながら、ゆっくりと僕を諭す。
『分かってます。
話します。
その、僕が知ってる事、僕が関わった事。
それで信用できなかったら、薬でも何でも使って下さい。』
新堂、平田、宇梶は沈黙したままだった。
僕は、事の始まりから今までの事の”一部”を話した。
宇梶の戦闘を見た事、黒連に誘われた事、術を習った事、
宇梶を襲撃した事、白鞘に誘われた事、
スパイを命じられた事、門脇を逃がした事、
遠藤が裏切った事、遠藤、門脇が死んだ事、
門脇から”プレパ・レイド”を継承した事。
前任者と呼ばれる人間から逃亡を勧められた事。
ほんのささやかな抵抗かもしれないが、
”高橋”、”大阪”、”吉野”、”熊野”、”鳥谷”、”南”
”百鬼夜行”
の事は伏せておいた。
僕にだって、その、少しは意地がある。
”仲間”を裏切ったけど、その、これ以上、”仲間”を裏切りたくなかった。
矛盾しているけど、僕の本心だ。
僕が話している間、誰も口を挟まなかった。
『なるほどねぇ~。
最初の術適応が高いのにも、うなづけるわ。
でも、解せないのがいくつか。
大蛇の時なんで瀕死のダメージを負ったの?
白鞘の救助が遅れたら、あなた死んでたわよ?
それも見越して計算していたなら、大した玉だけど。』
御門野が頬杖をつきながら僕に尋ねる。
『僕の事は、一部の人間にしか知らされてなかった。
だから、殺されかけた。
その後もそれは変わらなかった。
だから、毎度狙われるし、その…死にかける。』
『連絡は、その”犬”からの一方通行?』
『はい、不定期に僕の所に来ます。
僕からは、連絡が取れません。』
『ちっ、動物憑きか…身元は探りづらい…不明という訳ね。
さしずめ、柊君は”とかげの尻尾”。
いつでも切れるわけね。』
御門野が指で首を切る仕草をして、意地悪く笑う。
『そうそう、実は、あなたがスパイなんじゃないかって
一度、考えた事があってね。こんな事もしたのよ。』
御門野は、僕に何かを投げる。
僕と同じ型のスマホだ…
あら、壁紙まで一緒。違う!僕のスマホだ!
『なっ、いつ!?』
僕は、驚き、立ち上がり声を上げる。
『座って下さい。』
新堂がワルサーを僕に向け、指示する。
いつもとは違う。冷徹な顔している。
気付けば、宇梶、平田も武装している。
僕は、ゆっくりと指示に従う。
『あの”大男”の時よ。あっ、”遠藤”ね。
陽子にスマホ渡したでしょ。
その時にすり替えたのよ。』
マズイ!盗聴器とかあったら、全部洩れる!
僕は、背中に汗が吹き出るのを感じた。
『時間なかったから、取りあえず、データ入れ替え、すり替えて。
発信、着信履歴、電話帳、全~部見せてもらいました。
授業中にゲームするのは頂けないわよw。
まぁ、残念な事にろくな情報なかったけど。』
『ちょっ、プライバシーの侵害だ!』
『スパイが何を言うのよ。や~ね~。』
御門野は、笑う。
『では、最後の質問。
言い残す事は?』
御門野は、目で新堂に合図する。
新堂は、ワルサーに消音器をつけ、僕に向ける。
僕は、両手を挙げ、ゆっくりと立ち上がる。
『ワルサー、篭手は、僕の鞄の中に入ってます。
両親には、交通事故か何かで死んだ事にして下さい。
お世話になりました。』
『釈明…せえへの?死ぬの怖ないの?』
平田がゆっくりと話す。
『………』
『私達を騙して!”私”を騙し続けて!
どれだけ心配したと思っているんですか!!』
新堂が、大きな声で叫ぶ。
『………』
僕は、何も言えない。
言っても信用してくれないだろうけど、何も言えない。
『残念やね。あんた、嫌いじゃなかったのに。』
『…さよなら。』
平田と宇梶が僕に声をかける。
『ごめんなさい。ありがとう。』
僕は、一度、頭を下げ、目を閉じる。
裏切ったのは僕なのに、涙が出てきた。
本当にいろいろあったなぁ。
決して楽じゃなかったけど、うん…楽しかった。
不謹慎かな…
『ブシュッ!』
ワルサーの発射音が聞こえた。




