50.正義の味方 その十九 月吼
『チェストォォォ!』
銀色の塊が、男を吹き飛ばす。
『ぐぉぉぉっ!』
油断していたのか、男は直撃を喰らい、10m先まで転がる。
見上げると、あの騎士が、僕を殺しに来た騎士が僕の前に現れた。
『取りあえず、サンクス。どういう意図か知らんが。』
僕は、立ち上がり、”慈恩”で回復、百鬼夜行の男に向かって構える。
『俺の名前は、”月影”だ。
後で”サシ”で勝負しろよ。それでチャラだ。』
騎士は、僕の方を見て話す。
『やれやれ、これまた珍妙な奴が来たな。
まぁ、いい。テストと行こう!
百鬼夜行 一本だたら!』
男が立ち上がり、叫ぶと左手が形状を変える。
黒い筒状の…マズイ。
これは…銃撃系!
『月影!』
僕が叫ぶも轟音とともに月影は吹き飛ばされる。
ゴルフ場の芝生が燃え上がる。
『こいつはいい!次は、お前だ!』
黒い筒が僕に向けられる。
なんとか近くの樹木を遮蔽物にするも、その樹ごとなぎ倒される。
『ぐあぁっ!』
吹き飛ばされ、粉砕した木片が体の所々に刺さる。
くそっ、なんだこの火力。チートすぎる。
横転しながら男との距離を稼ぐ。
『ネタ切れか?柊!セイィィッ!』
月影が早くも立ち直り、男の黒筒を蹴り飛ばす。
『ちぃっ!なんなんだ、お前は!』
男は、苛立ち気味に言い放つ。
『正義の味方だ!』
月影が大声で怒鳴る。
『こんなところまでご苦労なこった!オラァッ』
『見切った!』
男の砲撃を紙一重で月影が避ける。
砲弾は、後方の林に着弾し、爆音を上げた。
『月影っ、ナァッコォォ!』
月影の体重の乗った撃ち下ろしが男を直撃する。
『ぐふっ!
お前は後回しだ!
まずは、手前ぇだ。汚ねぇ花火をぶちまけろ!オラァッ!』
男が月影と距離を取り、僕に怒りの矛先を向ける。
『舐めんな!!”プレパ・レェェィイド”!!』
『ゴギャギャギャッ!』
紅い壁が耳を覆いたくなる摩擦音と共に男の放った砲弾を止める。
『ちぃっ、マジか!』
男が舌打ちをする。
『月影!!』
『応よ!”アクセル・ライダー”!!』
月影が隙を見逃さず、残像と共に男との距離を一気に詰める。
『噴っ!』
月影の高速ボディブローが男の脇腹に突き刺さる。
『ぐぅううっ。』
一瞬、男の動きが完全に止まった。
もらったぁ!
『”鋭針装”!これじゃ避けられんだろ!』
僕は突進し、自身の右手を男の黒筒の中に突っ込み、叫ぶ!
『”流れる白光、薙ぎ払え、雷吼鞭!”』
耳を劈く音と共に雷撃は、男を吹き飛ばした。
あいにくの天気で暗闇に吹き飛ばされた男は見えない。
しかし、妖気は消えている。
逃げたか、死んだのだろう。
追う必要はない、平田の安否の方が心配だ。
『柊、お前、極悪な隠し玉持ってやがったな。』
月影がゆっくりと僕に近づき話しかける。
『ふぅー、はぁー、あんたのその鎧よりかは、ナンボか常識的だろ。』
体に刺さった木片を引き抜き、息は切れたままだが、なんとか軽口を返す。
内心、もう、無理だ。術はおろか動くのもつらい。
『それとあんた、うちのクラスの”南”だろ?』
『!!!』
月影がビクンと反応する。
『み、な…み?なんの事だ?』
『その反応で確信したよ。
授業中、僕をちら見しすぎだぜ。
鎧は、結構だが、ちったぁ、尾行の仕方を学べよ。』
『よく分からんなぁ、言ってる事が…』
『生身の時、”雷吼鞭”をお前にぶっ放すぜ。』
『ちっ、勉強はできない癖に!勘はいいんだな。』
月影は観念すると、左手で右手を触った。
すると、緑色の光りに包まれ、”南”が現れた。
腹が立つ事に僕を襲った時と同じパーカーを着てやがった。
『いつ、気付いた?』
南が悔しそうに僕に尋ねる。
『結構、前からだよ。
変身前の声は変えてないだろ。
確か、数学の授業の時だったかな。一回、僕を呼んだよな。
それでピンときた。
その後、注意すれば、言った通り、ちら見が多いんで気付いた。』
『くそっ、助けるんじゃなかった。』
南は、足元の芝生を蹴りながら毒づく。
『援護してくれた事には感謝してる。この事は誰にも言わない。』
『そうしてくれ。言った通り、いずれお前とは決着をつける。
まぁ、今日はお疲れ。じゃあな。』
そういうと南は走って行った。
『…次はないよ。僕の勝ち逃げだ。』
僕は、一人呟き、苦笑いする。
『ブブブ。』
スマホが振動する。宇梶だ。
『柊君?大丈夫?』
『なんとかね。平田さんは?』
『大丈夫。命に別状はないって。
男が一人走って行ったけど、ホントに大丈夫なの?』
『あぁ、大丈夫だよ。』
『その…ね、あの……。』
『分かってる。逃げないし、説明するよ。
今からそっちに向かう。』
僕は、スマホを切り、まだ痛みの残る左足を引き摺り歩く。
右手の”赤銅の篭手”はボロボロだ。
はは、また、怒られるな。
いろんな事があり過ぎた一日だ、長かった。
そして、明日は、もっと激動の日になるだろう。
僕の審判の日だ。
『バシャ、バシャ、バシャ!』
水音とともに何者かがゴルフ場の池から這い出る。
男は、濡れた前髪を右手で掻き揚げ、愚痴る。
『くそっ!また、火傷かよ!左手が千切れちまいそうだ。』




