49.正義の味方 その十八 百鬼夜行vs百鬼夜行
『止めを刺されると困るなぁ~。』
何者かの声が聞こえた後、
『パァァァン!』
乾いた音がゴルフ場に響く。
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
その後、ゆっくりと倒れこむ平田を見て、僕は事態を悟った。
『平田ぁぁぁ!』
平田の先の木陰から男がゆっくりと現れる。
ロンゲの優男。
だが、異様で異常な妖気を纏い、右手には銃。
こいつが…
こいつが、平田を…
『てめぇえ!』
怒りに我を忘れ、僕は、男に向かって発砲しながら突進する。
『柊君!!』
咄嗟に新堂が援護射撃を行う。
その瞬間、男が叫ぶ!
『百鬼夜行 赤マント!』
男の左手が変形、巨大化し盾になる。
弾丸は全て阻まれてしまう。
こいつ…百鬼夜行か!
僕は、我に返り、近くの木の陰に慌てて、身を隠す。
男は、左手で身を隠し、ゆっくりと”一本だたら”に近づいていく。
僕らの銃では全く歯が立たない。
契約する気だ。
阻止しないと…”雷吼鞭”か?
でも、平田の治療を…
『私が行きます!柊君、平田さんを!』
宇梶が男に刀の切っ先を向け、突っ込む。
『サンキュー、宇梶!”鋭針装”!』
自身に術をかけ、僕は、平田に向かって走る。
”鋭針装”をかけているのに、自身が遅く感じる。
早くしないと平田が…早く。
なんとか、平田の側に駆け寄り、傷を”慈恩”で塞ぐ。
意識が戻らない。顔色が悪い。出血しすぎている。
『ギャリィン!』
宇梶の剣戟を左手で軽々と吹き飛ばし、男が笑う。
『んっん~、そいつは、無謀すぎるだろ。』
男は、陽気な声で左手を僕と平田に向ける。
赤い邪悪な左手は、巨大化し僕らを飲み込もうとする。
『柊君!』
宇梶の悲痛な声が聞こえる。
どうする?
”スパイ…
バレても…。
戻れなくなる…。
仲間を…。”
迷ってる場合じゃねぇ!
『”プレパ・レェェェェィド”!』
僕は、吼えた。
門脇から譲り受けた淡い紅色の壁が男の左手を拒絶する。
『な!なんで、お前が!?』
男が始めて驚きの表情を見せる。
『柊君?…なんで?』
新堂、宇梶も驚き、戸惑っている。
『悪いが、説明してる暇はねぇ。
平田さんを早く!』
『柊君も…』
『早く運んでくれ!!僕がこいつを食い止める!』
食い下がる宇梶を払いのけ、僕は、男と真正面から対峙する。
『なるほど…なるほど…少し、お前に興味が沸いてきたぜ。』
『悪いが、僕にその気はなくてね。お引取り願おうか。』
”プレパ・レイド”を挟み、僕と男は睨み合う。
『百鬼夜行 口裂け女!』
『百鬼夜行 テケテケ!』
男は、左手に巨大な鋏を、僕は、左手に鎌を携える。
『ほぉ~、やっぱ、同類か。』
男は、アゴに手をやり、ニヤニヤ笑っている。
同類…でも、場数では恐らくあっちの方が上。
構えからして、カナリできる。
腹をくくれ!覚悟を決めろ!仲間を守れ!!
『おおおおおおおっ!』
僕は、鎌を両手で構え男に斬りかかる。
『ギッィィィン!』
『ガン!』
『キィィン!』
金属音がゴルフ場に響き、鋏と鎌が月明かりで妖しく光る。
『同じ百鬼夜行でもこんなに違うんだな。』
男は、巨大な鋏を器用に振り回し、愉快そうに話す。
くそっ、こちらの鎌が圧倒的に不利だ。
相手との力量があるにしても、近接戦闘向けじゃない。
かといって、距離も取れない。”雷吼鞭”が…使えない。
憎たらしいが、相手は手を抜いているのに押されっぱなしだ。
全力、全速で鎌を振り降ろすが、相手は左手一本で受け止め、サバキやがる。
『まぁ、百鬼夜行を喰った事がないから、新鮮ではあるな。』
そう言い男は、”右手”で鎌を受け止め、鋏で僕の左足に突き刺し、払う。
『ぐあァッ!』
地面に叩きつけられ、足の激痛ですぐに立ち上がれない。
『”プレパ・レっ!』
僕の頭を男が足蹴にする。
『おっと。危ない危ない。
柊君だったかな?まぁ、どうでもいいが。』
くそっ、こんなところで死ねないのに。
悔しさで涙が出る。
『じゃあな~。』
男は、なんの感慨もなく捨て台詞を吐くと鋏を振り下ろす。
くそっ。
僕は、目を瞑り、覚悟を決めた。
『チェストォォォォ!』
耳障りな機械音声とともに僕の頭にあった圧迫感が消えた。
『こんなところで勝手に死なれちゃ困るんだよ!!』
目を開けると、僕の目の前には…あの騎士が居た!
僕を殺しに来たあの騎士が!