↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/108

44.悪の手先 その十六 GET AWAY

-湖南農業高校 文化祭-


 熊野にもらったチケットを使って正門をくぐる。


 えっと、確か…1-Cだっけか?


 正門でもらったパンフレットを見ながら、慣れない校舎を進む。 


 高等学校と一口に言っても、校舎も生徒も感じが違うな。


 どん!


 余所見していた性で人にぶつかってしまった。


 『すみません。』


 顔を上げると、熊野が目の前にいた。


 相変わらず、煙草の匂いが微かにする。


 『一人で来たんだ。』


 僕の周りを確認し、熊野が話す。


 『誰と来ると思ってたんだよ?』


 『宇梶。』


 『あのなぁ、前も言ったけど、なんもないよ。』


 僕は、肩をすくめ弁解する。


 『まぁ、ええわ。ほれ。』


 熊野は、そば飯の入ったプラスチックのタッパーを投げてくる。


 『うわっ。食べ物を投げるな!


  親から言われなかったか?どんな教育受けてんだよ!』

 

 僕は、そばめしをなんとかキャッチし、抗議する。


 周りで他の生徒が笑っている。


 『ここ煙草吸われんし、外行こ。』


 熊野が僕の手を掴む。


 『普通、外でも吸わないんだよ!』


 僕の指摘を無視し、熊野は僕の手を引き摺っていく。




-屋上-


 『ほんまに来たんやね。』


 煙草に火をつけながら、熊野が笑う。


 『誘ったのは、熊野だろ?後、煙草吸うんじゃねぇ、食事中よ。』


 『神経質!』


 『健康的だと言ってもらいたい。』


 僕は、煙草の煙を手で払いながらそば飯を食べ始める。


 学生が作ったにしては、まともな味だ。

 

 『他に渡す奴おらんかったし。暇な奴、丁度見つけたから。』


 『こう見えても僕、ケッコー忙しいんですよ。』


 そば飯から視線は上げず、僕は反論する。


 『あのさ、私、黒連の人間やん。』


 『知ってますよ。僕も元・黒連ですし。』


 『宇梶とあんたは似合わんよ。』


 『だから、付き合ってないってば。』


 箸で熊野を指し、再度、否定する。


 『………』


 『何だよ。急に黙るなよ。怖いやんけ。』


 『……白鞘って、知ってる?』


 !!


 こいつ、急になんだ。


 あまり、僕の事は知られてないはずだが…


 スパイ稼業は、ごまかすか?


 『何ソレ?』


 『あんた見たいな下っ端は知らんか。』


 熊野が笑う。


 『下っ端言うな!』

 

 『なら、ええわ。けど、宇梶には近づかん方がいいよ。あんたとは違うから。』


 『さっきからなんなんだ。宇梶とは知り合いなのか?』


 『知り合いっちゃ、知り合い。でも、知らない事の方が多いけど。』


 同業者である事は互いに知っていると言う事か…


 まぁ、僕は、知らない振りをしていた方が賢明だな。


 『なんか、まわりくどいな。普通のクラスメイトじゃいかんのか?』


 『そのままなら、ええよ。多分、そのままの方がええよ。』


 『何?なんか悪い噂でもあるの?気になるやん。』


 『別に知らんでええって。』


 それっきり、熊野は向こうを向いてしまった。


 『ピピピッ!』


 急に電子音がなった。


 熊野の携帯のようだ。


 熊野は、僕から少し距離を取り電話に出る。


 『………』


 『あんた、誰?』


 『…………』


 『間違いじゃないですか?』


 『………』


 相手の声は聞こえないが、熊野の顔が青ざめる。 


 何かあったのだろうか?


 僕は、そば飯を食べ終え、空になったタッパーを持って立ち上がる。


 『動いたらアカン!』


 熊野が叫ぶ。


 ガンッ!


 僕の右手にあったタッパーが何かの衝撃で吹き飛ばされた。


 吹き飛ばされた際、タッパーは粉々に砕けた。


 これは…なんだ?


 じわりと右手に血がにじむ。


 『こいつは関係ないです。私とは関係ないです。』


 『…………』


 どうやら電話口の相手からの攻撃らしい。


 気配を探るが、近くではなさそうだ。


 屋上には僕と熊野しかいない。


 となると、どこか別の場所からの遠距離攻撃か。


 僕は、ともかく、熊野は戦闘タイプではないだろう。


 下手に動けない。マズイ。


 グロックは、腰にあるが、先程の攻撃は僕の後ろからだ。


 振り向いての反撃は…難しいな。


 『…………』


 『そんな事、話せません。』


 『………』


 『…今すぐには分かりません。…時間を下さい。』


 『…………』


 『………分かりました。はい、待って下さい。』


 電話を終えたのか、熊野は携帯を下ろす。 


 ゆっくりと僕に近付いてくる。


 『どういう事?』


 僕は、左手で右手を押さえ熊野に尋ねる。


 『ごめん、話せん。今日は、帰って。ごめん。』


 熊野は、今にも泣きそうな顔で僕に懇願する。


 『その…普通じゃないだろ?どういう…』


 『ごめん、帰って。』


 僕の質問を熊野は遮る。


 恐らく、脅迫されているのだろう。


 黒連側の熊野を脅すという事は、白鞘の人間か?


 『分かった。』


 うつむく熊野を屋上に置き去りにし、僕はその場を後にした。





-帰路-


 右手を”慈恩”で治し、さっきの事を振り返る。


 場所は屋上だった。僕は、座っていた状態から立ち上がった、


 その瞬間に攻撃された。


 僕の状態が見えるという事は、あの屋上より高い位置からの攻撃という事になる。


 高い位置……特定できんな。


 方法は、…銃で狙撃か?


 いや、なんらかの術で…


 くそっ、わからん。


 負傷した事よりも人質にされた事に腹が立つ。


 タッパーだけを最初に攻撃したが、相手にその気があれば僕を殺す事もできたというワケだ。


 くそっ。


 熊野に何かを調べさせようとしていたな。


 アイツが何を知っているんだ。


 黒連からしたら、アイツも一構成員にすぎないんじゃないのか?


 何か特別な物を知っているのか?


 相手は誰だ?


 白鞘か…噂の中国人か……


 白鞘だと僕を攻撃するのはおかしい………


いや、攻撃する素振りだったとしたら?


 だから、あえてタッパーのみを攻撃した。


 僕が身内なのを知っているから。


 いやいや、待てよ。


 相手が白鞘の人間ならなんで最初に熊野は電話に出たんだ?


 知り合いだと思った、もしくは、アドレス帳に登録されているから


 電話に出たんじゃないのか?


 ところが相手が違った。


 ちっ、分かりそうで分からん。


 宇梶や御門野に連絡してみるか…


 鞄から、スマホを取り出すと、電話が来た。


 ”非通知”。


 誰だ?もしかして、さっきの件か?


 僕は、意を決して電話に出る。 


 『もしもし。柊です。』


 『始めまして。いきなり、電話してごめんね。』


 若い男の声だ。


 『誰だ?あんた?』


 『名前は、秘密。』


 『ふざけるなら切るぜ。』


 『僕は君の味方だよ。』


 『あんたは、名乗らない人間を信用できるのか?』

 

 『おっと、一本取られたな、ははは。』


 『おしゃべり相手なら他を当たれ。こっちは忙しいんだ、じゃあな。』


 『”スパイ”が忙しいのは、当たり前だな。』


 『!!!』


 こいつ!


 沈黙はマズイ。何か話さないと!


 『なんの話だ?スパイ?誰かと勘違いしていないか?』


 『とっさにしては、いい芝居だ。


  君の事が好きになりそうだよ。


  嘘つき坊や(ライヤー)。


  黒連にも白鞘にも気に入られる訳だ。』


 こいつ、確実に僕を知ってやがる。


 もう、とぼけても無駄か、直球で行こう。


 『なんの用だ?』


 『立ち直りが早いね。いいね、質問だ。』


 『まともに答えるとでも?』


 『今の状況で不利なのはどっちかな?』


 『ちっ、僕の味方じゃないのかよ。』


 『味方さ。黒連や白鞘よりは、君の事が分かるよ。』


 『何を根拠に…』


 『僕はね……君の前任者だよ。


  まぁ、正確には、前々任者かもしれないし、もっと前かもしれない。』


 『!!!!』


 『公式上は、死んだ事になってるし、誰に聞いても答えてはくれないだろう。


  白鞘も黒連もね。


  では、こちらの質問だ。門脇は元気かい?』


 『……亡くなったよ。つい、先日だ。葬儀には立ち会ってないが。』


 『死んだ?…本当に?』


 『前任者なら、黒連の知り合いにでも確認したらいいだろ?』

 

 『そうか…なるほど…』


 『僕の番だ。なんの用だ。』


 『警告だ。君の事は、もう白鞘にバレてる。そして、黒連もそれに気付いている。


  早めのトンズラを勧めるよ。』


 『まさか!?』


 『”御門野”や”鳥谷”を信用しているのか?


  それとも抱いたのかい?


  残念ながら、アイツラは笑って人を殺す。


  僕もそうされた。


  生きているのは、まぁなんだ、神様のイタズラかな。』


 『…なぜ、それを僕に伝える。』


 『シンパシーだよ。同じ境遇で同じ結末を辿ろうとしている。


  直接は無理でも”トカゲのしっぽ”になるのはやめさせたい。』


 『………』


 『警告はしたよ。行動するのは君の自由だ。神のご加護を。』


 電話は切れた。


 ばれてるバレテル。


 まさか…


 スマホを持つ右手の痛みがいつの間にか消えていた。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。