42.悪の手先 その十五 UNDER SHAFT
-学校-
昼休み、高橋に呼び出され、進路相談室に行く。
貴重な貴重な昼休みが!なんて事しやがる。
憩いの時間だぞ。手当て出しやがれこの野郎。
『何すか?』
機嫌が悪いのを隠しもせず、ぶっきらぼうに僕は高橋に話しかける。
『悪いニュースと良いニュースだ。』
『良いニュースだけ聞きたいお。』
僕は、ふざけて耳を塞ぐ真似をする。
『では、良いニュースから。
遠藤が死んだ。』
『黒連のメンバーがやった?』
不謹慎だが、僕は、目を輝かせてしまった。
『いや、別件で追っていた能力者との戦闘で死んだ。』
別件?能力者?
おいおい、中国人以外にもまだいるのかよ…頭痛い。
僕は、輝かせていた目を瞑り、下を向く。
『いい意味で敵同士の共倒れですか?』
『おそらくな。相手の死体が上がってないのが気になるが…
現場の血痕、血の量から生存はないだろう。
遠藤の死体は回収した。柊の言っていた装置も確認した。
使用方法等は現在、解析中だ。』
『…悪いニュースは?』
『…門脇が死んだ。』
一呼吸置いて、ポツリと高橋が言った。
『!?』
マジかよ。僕は、絶句する。
『そんな?あの…嘘だ…』
『柊、落ち着け。暗殺じゃない。交通事故だ。
不運な交通事故だ。』
『”プレパ・レイド”は?』
『街中、人ごみの中だったんで油断したんだろうな。
トラックの飲酒運転だ。門脇の他にも何人か亡くなられたよ。
ごくごく普通の一般人だ。加害者も被害者もな。
殺気もなんもないからかな。巻き込まれちまった。』
高橋が寂しそうに外の景色を見る。
僕より付き合いが長いのだろう。
『その…あの…ご冥福を。』
僕は、頭を下げる。
『親族とは縁を切っているらしいんで、京都の共同墓地に埋葬する事になったよ。
柊は気づいてないかもしれんが、アイツはお前を気に入っていたよ。
見込みのある男だ。是非、組みたい。背中を預けたいってな。
”プレパ・レイド”もお前に継承させる気だったようだ。
いくつか遺産がある。良ければ使ってやってくれ。』
使い古された小さな革のショルダーバックを高橋が渡してくる。
『その、僕なんかじゃなくて、その、光田先生にこそ…』
バッグを受け取りながらも僕は戸惑う。
『俺は、もういっぱいもらったよ。次に託したい。
こんな場所に送りこんだ俺じゃあ、信用できないかもしれんが…
柊、お前は死ぬな。
昼休みにわざわざスマンな。ありがとう。』
高橋の目が潤んでいる。
気不味くて、居づらくて、逃げるように僕は、進路相談室を出た。
-その夜 自宅-
自室でもらったバッグを開ける。
腕時計と太い煙草が一本入っている。葉巻だろうか。
腕時計は古いG-SHOCKだが、針を進めるのをやめてしまっている。
色は、言っちゃ悪いが趣味の悪いピンクだ。ゲイかよ。
門脇が愛煙家だったなんて、そんな事すら僕は知らなかった。
嫌味な奴ぐらいしか…
もっと、いろいろ話す機会があれば印象も変わったのだろうか。
もう、機会なんてない。
急に死という概念が現実味を帯びてきた。
今までは、なんとかやってきたが、本当に運が良かっただけなんじゃないか?
恐怖で鳥肌が立ってきた。
大蛇の時だって…遠藤の時だって、騎士の時だって、涙で視界が歪む。
涙を腕で乱暴に拭う。
ん?
葉巻にはシールが張ってあるが、一度剥がしたような跡がある。
葉巻ってそういう風に吸うのか?
違う!
僕は、引き出しからカッターを取り出し、丁寧にシールを剥がす。
ゆっくりと広げると、中に文字が…門脇からの手紙だ!
『これが読まれるって事は僕は死んだか拉致かなんかで連絡不能なんだろうな。
そんな事があって欲しくはないが。
まぁ、仕方ない。こんなご時勢だ、仕方ない。
願わくば、これを読むのが光田でありますように。
アイツは、僕が煙草なんて吸わないのを知ってるからな。
さて、本題。
中国人グループのアジト、本部を見つけた。
ありきたりだが、横浜の中華街 黒喰黒という店だ。
店自体は、小さくてぼろい。閉店になってる。
だが、そこを入り口に地下にいける。地下がメインだ。
本当にありきたりで拍子抜けだ。
だが、マズイのは、中華街の住人全員が組織の人間である事。
その八割方がなんらかの能力を保持している事。
気をつけろ、普通の店員が術、ぶっ放してくるぜ。
僕達の陰陽術に似た術を使う奴、気孔と呼ばれる格闘術を使う奴、
戦闘タイプ以外にも通信、連絡を途絶させる呪法を使う奴もいる。
困った事にコイツに引っかかっちまった。
だから、この手紙は、僕が一定のダメージを受けるか、
死ぬかしないと読めないだろう。
しかも、遠藤がデコイだった。
堪らんよ。シビレルだろ。
白鞘と手打ちが済むまで、中国人と争うべきじゃない。
黒連で踏み込む時は、僕クラスの”プレパ・レイド”を使える奴が必須だ。
一番候補は柊だ。
光田、コレを呼んだら、この葉巻を元に戻し、柊に渡してくれ。
これが読まれた時、柊がいなかったら…そん時は、捨ててくれ。
知ってると思うが、僕は親族と縁を切ってる。知らせる必要はないよ。
今までいろいろサンクス。
P.R.
しまった、P.S.
もう無理なんだろうけど、また、昔みたいに馬鹿やりたいなぁ。
覚えてっか?
お前が、パチスロ負けて、確か、ガメラだったっけ?
罰ゲームで
全裸ダッシュしたよな。8時間、
カラオケアニソン縛りもやったな。
お互い、いろいろあってこんなんなっちまった。
本当に仕方ない。
お前が教師になれたのには少し嫉妬してる。
本当は正義の味方になりたかった男、門脇より』
本当に…本当にダチだったんだな。
手紙を読み、少し涙ぐむ。
待て、肝心の”プレパ・レイド”はどうやって継承するつもりだ。
これだけじゃ分からんぜ。
考えろ、考えろ。
手紙をくまなく確認するが他には何も見つからない。
となると、このG-SHOCKか?
電池切れか時刻は、8時で止まっている。
一応、ストップ/スタートのスイッチをいじってみる。
『ピッ!』
アラーム音がなり、時計が動き始めた。
壊れてなかったのか。
ん?なんかおかしいぞ。
時刻が進んでいない。巻き戻っていく。
今、7時59分。
僕は、急いで手紙を読み返す。
普通の文脈だが…2つおかしい、読み違えそうなところがある。
書き直せばいいのに、直していない。
あえてだ。
”P.R.”
”全裸ダッシュしたよな。8時間、”
マジか…マジか~。
門脇アイツ、頭おかしいじゃねぇの?
さっきまでの厚い友情への敬意と感動が台無しだ。
僕は、頭をかかえる。
もう一度、ピンクのG-SHOCKを操作すると時間はきっかり8時に戻った。
完全に、認めたくないがビンゴだ。
確かにこんな方法、普通の人間ならやらない。
僕も”プレパ・レイド”の効果を間に当たりにしてなければ悩まない。
覚悟を決めなければならない。
どうする?
8時間も全裸でダッシュなんてできるのか?
体力的に、と言うよりも倫理的に。
どこで?
琵琶湖の湖岸道路を真夜中ならば…
どうする?
今の状況ならば、切り札の一つになる。
ええいっ!
僕は、G-SHOCKを左手に付け、家を出る。
『門脇のボケェー!!』
夜の琵琶湖に僕の声が響く。
フルツィン、失礼。
素っ裸で走り続けて、夜が明け始めた頃。
『ピピピ!時間です。YOU、使っちゃいなよ!』
おどけた門脇の声と共にG-SHOCKが壊れた。
はぁ~、はぁ~。
痛い、肺もだが、足の裏も。
そして何より、僕の心が。
精神的にも肉体的にも疲れた。
ふらふらになりながら、僕は、物影に隠れ服を着る。
『これで…はぁ~。これで。』
自販機でジュースを買い、一息つく。
自己ベストだ。
今の僕なら、ホノルルマラソンだって走りきれるだろう。
湖岸で一目がない事を確認し、僕は、力を込めた言の葉を放つ!
『”プレパ・レイド”!!』
キィン!
目の前に淡いピンク色の壁が出現する。
僕の羞恥心と引き換えに僕は、切り札を手に入れた。
しかし、門脇は許さない。絶対にだ。




