29.正義の味方 その十一 take take awaken
-911号室-
『あぁー!何なんのよ!もう!
訳わかんない男は襲ってくるし!
上は、無茶苦茶、言うし!!
車、ぶつけるし、生理酷いし!』
御門野がキレて、ソファのクッションを床に叩きつけている。
羽毛が舞う。
宇梶も新堂も平田も、誰も何も言わない。見て見ぬ振りだ。
言える雰囲気でもないが。
先日、コートの男(遠藤)に宇梶と僕は襲われ、辛くも撃退した。
しかし、白鞘の別グループも襲われており、かなりの被害を被ったようだ。
そのつけが僕達のチームにきている。
先週に引き続き、今週も討伐作戦だ。
しかも、先週の討伐は空振りに終わり、この惨状。
平田曰く、
『御門野さん、生理の時、めっちゃ、機嫌悪くなるから口出しするな。』
との事。
直で見るとヒクな。
ここまで荒れるか…。
『2週連続で出撃申し訳ないんだけど、新ちゃん、指揮よろしく!』
『分かりました。』
新堂が返事をすると、僕ら4人はさっと部屋を出た。
ドアの向こうは、相変わらず、クッションが舞い、怒声が聞こえる。
触らぬ神にたたりなし。
怖えぇ。
-ミニバン内-
新堂が作戦について説明し始めた。
『今回の作戦は、先週と同じく”テケテケ”の捜索及び討伐です。
可能であれば捕縛しろと指令が出ています。
また、情報があいまいの為、チームを二つに分けて捜査範囲を広げましょう。
陽子と柊君、私とあみの2チームで。
陽子は霊剣がまだ直ってません。深追い、単独行動は厳禁です。
柊君、しっかり、サポート願います。』
『了解。』
-草津線 沿線-
僕は、ワルサーをポケットに隠してまわりを伺う。
”テケテケ”は、踏み切り付近での目撃情報のみ。
踏み切りと言ってもかなりの数がある。
出現時刻にもバラつきがあり、なかなか見つからない。
『あ、あのさ…』
捜索中、不意に宇梶が話し掛けてくる。
何故か落ち着かない様子だ。
こいつも生理で荒れるんじゃないだろうな。
勘弁してくれよ。
極力、やわらかに聞き返す。
『ん?何?』
『こないだ…』
『ん?』
『この間は、そ、その、あ、ありがとう。』
『この間?あぁ、気にすんなよ。』
『その、すぐに、来てくれたじゃん。』
『あんな電話受けたら、すぐ行くに決まってるだろ!
仲間なんだし。』
『そ、そう!仲間だしね…』
しばしの沈黙。何故か気まずい。
『強く…、なったよね。柊君。』
『そりゃ、少しわね。でも、門脇には逃げられたし。
あのコートの男も倒してない。まだまだだよ。
宇梶さんにもまだ敵わないよ。』
『そりゃ、私は、生まれてずっと訓練してるし…』
『ずっと、この仕事してるの?』
『そうだよ。どちらかと言えば、柊君の方がイレギュラー。
御門野さんも新堂さんも平田さんもずっと。
家柄が…家系がそういう家系なの。
あの…熊野って、女も多分そう、恐らく黒連派だろうけど。』
『熊野が!?まさか!』
僕は、大げさに驚いた振りをする。
『直系の術者の家系じゃないと思うけど…』
『戦う必要はない…よな?』
僕は、恐る恐る確認する。
『うん、多分。でも、柊君が白鞘である事は言わないで。』
『…わかった。でも、その、先輩の知り合いだから、付き合い上、
遊んだり、一緒にいたりするのはいいのかな…』
『うん、今まで通り、普通にして。』
『了解。』
『でも、あまり…その、付き合いは控えて。
その、前回みたく、いきなり戦闘になるかもしれないし。』
『そうだな、巻き込むのは気が引ける。』
『わ、私なら…、私達なら大丈夫だけど。』
『宇梶さんでも怪我すんのは見たくないよ。』
『もう、あんな、無様に負けないから。』
『勝つとか負けるとかじゃなくって、怪我してほしくないんだよ。』
『ご、ごめん。』
『いや、その、怒っている訳じゃないんだけど…その為の僕の”力”だろ。』
『うん、頼りにしてる。』
『あぁ、頼ってくれ。』
その時、
『キィン!』
なにか違和感がする。宇梶も同様に何かを感じたようだ。
『”テケテケ”か?』
『分かんない。けど、この沿線上に何かいる。』
『OK!行こうぜ。新堂さん達にもメールしておくぜ。』
僕達は、沿線上を走る。
-草津線 とある踏み切り-
違和感を追って、僕と宇梶は、薄暗い踏み切りに着いた。
人通りはなく、遮断機も随分とくたびれている。
『ここか?』
僕が、宇梶に尋ねると、
『来る!』
宇梶が叫ぶ。
踏み切りの真ん中に黒い渦ができ、人が、女が出てくる。
顔は髪の長い女だが、異様に手が長い。
骨と皮だけでガリガリ、昆虫の節くれを思わせる。
そして、上半身だけ。下半身は、ない。
どうなってんだ?
こいつが”テケテケ”か!
『ひひひ、ひとぉ~つ、ふたぁ~つ。若いねぇ~、いいねぇ~。
女もいるねぇ、足があるねぇ。きれいな足だねぇ。ひひひ。』
”テケテケ”が笑う。
しゃべれるのか。しかし!
有無を言わさず、僕は、即座に発砲する。
『ブシュッ、ブシュッ!ブシュッ!』
”テケテケ”は体勢を低くし、手だけとは思えぬスピードで移動する。
『おやおや~、あんたら、普通じゃないねぇ~。』
『あんたに言われたくないな!』
『ブシュッ、ブシュッ!ブシュッ!』
2発当たるも”テケテケ”は、全く意に介さない。
『痛いねぇ~。憎いねぇ~。ひひひ。』
相変わらず信じられない動きをしている。
『柊君!私が!!』
宇梶が”椿”を抜刀し、飛び出す。
『”鋭針装”!』
阿吽の呼吸で宇梶に術を施す。
『ギィン!』
宇梶の”椿”が”テケテケ”を襲う。
が、”椿”を”テケテケ”は歯で受け止めている。
『ひひひひひひひひひ。』
歯で刀を受け止め、”テケテケ”はまだ笑っている。
左手で体を支え、右手で宇梶の足を掴む。
『うらやましいねぇ~、欲しいねぇ~。』
『うっ!』
宇梶の顔が苦痛で歪む。
野郎!
『”鋭針装”!』
自らの術で加速し、霊剣 ククリで”テケテケ”の左手を薙ぐ!
『きひぃ!』
不気味な声を発し、”テケテケ”は、宇梶を解放する。
しかし、霊剣 ククリの2撃目は、かわされてしまった。
『コキッゴキッ!』
僕達と距離を取り、”テケテケ”は伸びをし、
背骨らしきものを鳴らす。
『おや、術者だったのかい。あんたもおいしそうだねぇ~。』
ニタニタと気持ちの悪い笑みを”テケテケ”は崩さない。
『柊君、新堂さん達と合流しましょう。』
宇梶が、こちらを見てウィンクする。
『そうした方がよさそうだな。』
僕達は、”テケテケ”に背を向けて走り出す。
『ひひひ、逃がさないよぉ~。』
”テケテケ”は猛スピードで追いかけてくる。
阿呆が!
振り向きざまに僕は、術を放つ!
『”紅紡ぎ、貫け我が剣、炎刃!”』
真っ直ぐに僕らを追いかけてきた”テケテケ”に直撃する。
『あぎぃぃぃぃ~!』
炎に包まれ、”テケテケ”が絶叫する。
『はっ!』
宇梶が、”テケテケ”の右肩に”椿”を突き刺し、地面に縫い付ける。
『いぎゃああああああ~!』
炎を消す事も”椿”を抜くことも叶わず、”テケテケ”は、もがき続ける。
『ありがと、合図、気付いてくれて。』
『付き合いは、短くとも、いっしょに死線をくぐってきたろ。』
今度は、僕がウィンクする。
『新堂さんに連絡したいんだが、電波が悪い。
こいつのせいかな?
僕が見張ってるから、宇梶さん頼める?』
『分かった。もし、”椿”抜かれたら、退却してね。』
『あぁ、分かってる。無理はしない。』
宇梶は市街の方に走って行った。
宇梶が走り去って数分後、
『あんたぁ~、黒連の人間だね。』
虫の息の”テケテケ”が話し掛けてくる。
『なんでそれを?つーか、しゃべんな。』
僕は何とか動揺を隠し、小声で答える。
宇梶が連絡している内にとどめを刺すべきか。
気付かれぬ様、後ろ手でワルサーの引き金に指をかける。
『殺さないでほしいねぇ。』
『僕だってそうしてやりたいが、白鞘の人間の目をごまかし切れん。』
『それは問題ないさね。あんた、陰陽士なんかじゃないよ。
百鬼夜行さね。』
『どういう事だ?』
『我々と共存、我々の力を行使できる”化け物の語りべ”の事さね。』
『つまり?』
『あんたに従う代わりに殺すなって事さね。』
『方法は?』
”テケテケ”が笑う。
『私の左手を踏み、こう唱えな。
カタシハヤ、エカセニクリニ、タメルサケ、テエヒ、アシエヒ、ワレシコニケリ。』
僕は、ワルサーの引き金に指をかけたまま、ゆっくりと”テケテケ”の左手を踏む。
『カタシハヤ、エカセニクリニ、タメルサケ、テエヒ、アシエヒ、ワレシコニケリ。』
『びぃぃぃぃぃぃ~っ!』
”テケテケ”が絶叫する。
僕はすぐさまワルサーを向けるが、
”テケテケ”は白い粉、灰のような物になってしまった。
『どうしたの!?』
宇梶が走って近づいてくる。
『いや、急に叫んで、こーなった。』
『撃ったの?』
『いや、何もしてない。見てただけ。』
僕は嘘をついた。
『どーしたん?倒した?』
新堂と平田も合流する。
僕は、宇梶と二人で”テケテケ”を倒した事、
倒した後、捕獲していたらこうなった事をかいつまんで説明した。
『”ブルマおばさん”は泡やったけど、今度は灰?
つくづく、妖怪はわからんね。』
平田が首を傾げる。
『灰、回収します?』
僕は、一応、新堂に確認する。
そうこうしている内に風で灰は少しづつ散っていく。
『これでは回収できませんね。
退治できただけで良しとしましょう。
御門野さんへの報告は陽子、お願いします。』
『了解。』
その日は、それで解散になった。
-自宅-
家に戻りシャワーを浴びながら体を確認する。
契約とやらをしたようだが別段、異常はない。
『あんたの体が変わるわけじゃないさね。』
頭の中に声が響く。
直接、頭の中にだ。
『契約する時、もしかしたらと思ったが、やっぱり、童貞かい。』
『妖怪風情に僕の性経験をどーこー言われる筋合いはない!
童貞はステータスだ!希少価値だ!』
『ひひひ、そういう意味じゃないさね。
契約した物の怪、化け物、妖怪は私が初めてって事さね。』
『そうか。ところで契約したら、あんたの力が使えると言っていたな。』
『あぁ、あんたの力と引き換えだがね。』
『寿命が削られたりするのか?』
『いんや、あんたらが使う陰陽術の力さ。』
『方法は?』
『簡単さ。私の姿を思い私の名をこう呼びな。
百鬼夜行 テケテケ。』
『百鬼夜行 テケテケ。』
僕の左手がどす黒く光り、鎌が出現した。
刃先が錆びており、なんだか貧弱だ。武器になり得るのか?
『これだけ?』
『駆け出しの童貞坊やにゃ、その程度でも立派さね。
おしめが取れたら更なる力を貸してやるよ。ひひひ。』
『鎌を戻す方法は?』
『念じりゃ消えるよ。』
消えろ!
ふっと、鎌は消えた。左手に違和感もない。
『どうすれば、能力が上がる?』
『戦闘を繰り返すんだね。
人を殺すか、化け物を殺せば、自然に力は上がるさね。』
今まで通り、白鞘に居れば戦闘には事かかないな。
さて、この事を黒連や白鞘に話すべきか。
いや、やめておこう。
遠藤の件もある。
僕は空になった左手を眺め、しばし黙考した。
僕の切り札になり得るか?




