28.悪の手先 アナザー3 HEATS
-香川県 高松市-
『続いて、神隠し事件の続報です。
今月に入り、被害者は、17名になりました。
依然として、目撃情報、有力な情報がなく、
捜査は難航している模様です。
香川県警は、夜間の一人での外出は…。ブチン。』
濵口は、テレビのスイッチを切る。
最近は、警察も頻繁に夜間をパトロールしている。
『ふぅ~。流石にやりすぎたな。
そろそろ、場所変えた方がいいかな。』
ソファにゆっくりと腰をかける。
戦利品で買った自慢の欧州製だ。
バルセロナチェアと言う。
『力を手に入れて、この短期間でこれだけ人を殺めるのは稀ですな。』
自らの左手が話しだす。
最初に手入れた力、百鬼夜行 赤マントだ。
『それは褒め言葉?』
『もちろんです。主よ。私も鼻が高い。』
『そりゃ、サンクス。RX-7も来たし、遠征でもして狩りするかな。』
『それは、重畳。私は、西をお勧めします。』
『ん?なんで?』
『西の方が魚介類が美味しゅうございます。』
『あれ?魚食べるの?』
『いえいえ、魚介を多く食べる”人間”の方が好みという意味です。』
『なるほどね。
あんたの力に不満はないが、オタクの僕としては、更に力を集めたくなるな。
なんかさ、知り合いとかいないの?』
『筑前か筑後に”ぬりかべ”と”首なし騎馬衆”がいると聞いた事がございます。』
『筑前…?福岡か!行ってみるか!』
『長門にも是非、お寄り下さい。ふぐが美味しゅうございますよ。』
『やっぱり、魚も食べんじゃん!いいぜ!行こう!』
濵口は、立ち上がり、RX-7の鍵を指で回した。
-福岡県-
『英彦山、英彦山と…』
濵口は、RX-7のカーナビゲーションを操作する。
『おぉ~ぅ、結構、距離あんな~。』
コンビニで購入したコーヒーをすすりながらルートを確認する。
しかも、田舎道。
『ガス、満タンにしとくか。ここまで燃費が悪いとは。』
愛機 黄色のハレンチなRX-7 燃費4km/L。
以前の金欠大学生だったら死んでるところだ。
『主が”えこうんてん”とやらをせず、飛ばす性では?』
左手から冷静なツッコミが入る。
『うぐっ、痛い所を突くね。つーか、エコ運転なんていつ知ったの?』
『”てれび”より、知見として収集致しました。』
『そりゃ、勉強家で何より。それより英彦山であってる?』
『波動も感知しております。出会えるかどうかは別として。場所に違いはないかと。』
『OK!日が落ちる前に、腹ごしらえして、英彦山突入だ。』
『承知!』
-英彦山-
陽がとっぷりと暮れた頃、英彦山麓に到着する。
ここまでくると僕でも、気配、波動が感知できる。
『いるね。会えるといいが。』
『私を顕現させたまま、移動なさればよいかと。』
『そだね。あっちも見つけやすいだろうし、
百鬼夜行 赤マント!』
左手がドス黒く光り、赤い布が左手に巻きつく。
『ブオン!』
RX-7を吹かし、山道を走り出す。
好都合な事に車もいない。
しばらく、走っていると、
『コァン!コアン!コァン!!』
後ろからバイクのマフラー音が聞こえた。
くそっ、走り屋か。面倒臭い。
”首無し騎馬集”の前に食べちまうか。
目撃されるのも都合が悪いしな。
車の窓を開け、左手を構える。
『ヒャッハーッ!珍しい客が来たもんだぜ。
僕ちゃん何者よ!』
『ん?』
濵口は、サイドミラーを確認する。
こいつ、首が…ない!
『まさか、こいつが…』
『”首無し騎馬衆”ですな。』
”赤マント”が冷静に話す。
『騎馬じゃないじゃん、衆でもないし。一人やん。』
”首無し騎馬集”改め、”首無しライダー”は、僕に追いつき並走する。
『どーしたんだい、坊や。こんな所に何か用かい?』
『あんたを探してた。あんたの力を借りたくてね。』
『なるほど、パンピーじゃないってワケね。』
”首なしライダー”は、僕の左手を見て話す。
首がないからなんとなくの仕草だが。
そもそも、どっから発声してんだ?
『OK。ついて来な。条件がある。この先の駐車場で待ってるぜ。』
そう言うと、”首無しライダー”は加速していく。
左手の”赤マント”を解除し、ギアを下げ、RX-7も加速する。
-駐車場-
駐車場に車を止め、降りると一台のバイクがぽつんと止まっていた。
ライトは割れ、塗装も落ち、年代を感じさせる。
濵口がバイクに近づくと、ふっと”首無しライダー”が現れた。
『僕ちゃんのリクエストはよ~くわかった。』
『力を貸してくれるのか?』
『まぁ、そう急ぐなよ。BABYちゃん。条件があるって言ったろ。』
『あぁ、言ってたな。』
『条件は簡単、ダウンヒルだ。俺が先行してあんたが追いかける。
麓まで追走しきったら、あんたの勝ちでいいぜ。』
『ん?追い越したらでなく?』
濵口は、首を傾げる。
『ははは。
いくらあんたが、凄腕ドライバーだったとしても、2輪対4輪。
で、ここはオイラの地元だ。
ハンデはやるよ。それに…あんた、かな~り人をバラしてるね。
左手からビンビン”力”を感じる。
力比べではあんたに分がある。どうだい?互いに譲りあうって事で。』
『分かった。』
意外なヤツと意外なバトルに。
互いに愛機に乗る。
『行くぜ!ついてきな!!』
”首無しライダー”は来た道を下っていく。
『応よ!』
RX-7のアクセルを踏み、濵口は答える。
2台は妖気を放ちながら、山道を下っていく。
-山道-
『譲りあうと言ってもこちらに分があるような気がする。』
車の中で一人つぶやく。
”首なしライダー”のペースもついて行けないものでもない。
なんか引っかかる。念には念を入れておくか。
『百鬼夜行 赤マント。』
『主よ。いい判断です。言の葉を鵜呑みにするべきではありません。』
左カーブの後、ブラインドの右カーブだ。シフトダウンし、ステアリングを切る。
『!!!』
来た時にはなかった水溜りがある。
ヤバイ!スピードが出すぎている。
ブレーキを踏むが、時すでに遅し、RX-7はケツを振ってしまう。
『おおおおおっ!』
必死にカウンターを当てるが、その時、濵口は、気付く。
ない!あったはずのガードレールがない。
ガケ直行!!落ちる!
『くっそ!』
とっさに左手で窓を割る。
『”赤マント!”』
左手から放たれた赤い布が山道の樹木に絡みつく。
『ミシィッ』
左手から嫌な音が鳴る。痛てぇ。
『ギャギャギャッ』
タイヤの悲鳴が響き、
ガケに片輪落としながらも、なんとかRX-7は持ちこたえた。
『あの野郎…狡い真似しやがって!
殺す!愛車分、ボコッて殺す!』
自分でも分かる。怒りで体中のアドレナリンが出まくっている。
『野郎ぉぉぉ!』
今度は、両方の窓を全開にして下り始める。
2度と同じ手を食ってたまるか。
-英彦山 麓-
『今回も俺様の勝利というわけだ。』
”首無しライダー”が笑う。
RX-7は来ない。
2重3重にトラップを仕掛けておいたからな。
しかし、若い”化物語り”だったな。
昔、見たやつはじじいだったが。
”首無しライダー”が思い出に浸っていると…
『ドゴォッ!!』
傷だらけのRX-7が”首無しライダー”を跳ね飛ばした。
Uターンして再度、轢きにくる。
『待てっ!待てって!!』
”首なしライダー”が手を上げるが、濵口は、アクセルを離さない。
『ドゴォ!!』
再び、”首無しライダー”は跳ね飛ばされる。
痙攣して倒れている”首無しライダー”の元に”赤マント”を顕現させた
濵口が近づいてくる。
『首の次はどこ、飛ばしてやろうか?あぁん?』
髪の毛が逆立ち、青筋ひくつき、
体からは、妖気が噴出している。
『分かった!ス、スマン!お前の勝ちだ!な、な!』
『………』
濵口は、無言で近づいていく。
『契約だ、契約だろっ。待て、殺すな!』
『違う”首無し”探すわ。』
『待て待て、俺っち、結構、金あんのよ。車は直る!』
”首無しライダー”は後ずさる。
『………』
『この通りだ。さぁ、左手を踏め、契約を。』
”首無しライダー”が左手を地面につける。
『…なんでお前が金を持ってるんだよ。』
『さっきみたいなバトルで事故ったヤツの金を密かに集めてるんよ。
渡す、全部だ。』
『はした金で話しになるか!』
『百万は下らん!全てあんたの物だ。』
『………』
『本当だ。』
『嘘だったら、契約解除して、殺すからな。』
『分かってる。』
濵口は、”首無しライダー”の左手を踏み、唱える。
『カタシハヤ、エカセニクリニ、タメルサケ、テエヒ、アシエヒ、ワレシコニケリ。』
”首無しライダー”は、灰になっていく。
『金は?』
濵口は、自らの左手に問いかける。
『ふぃー、一番最初のトラップを仕掛けた場所だ。
ガケ下に落ちてる白いソアラのグローブボックスの中だ。』
再び英彦山を登り、指定地に車を止める。
下を除くと、確かに白いソアラがある。
『ところで、あんたの”力”は?』
”首無しライダー”は、無言で応える。
濵口の左手がドス黒く光り、左手に釣り道具のリール様なものが出現する。
『ワイヤーだ。
2種類あってな、持ち上げ、巻き上げる等の甲式、
あんたぐらいの体重なら持ち上げられる。
あと、切り裂き用の乙式だ。』
『甲式。』
『了解した。』
手近な樹木にワイヤーの先端を巻きつけ、濵口は、ガケを降りる。
白いソアラ内には、まだ死体があり、異臭がする。
『くっせぇな、おい。』
鼻を押さえ、グローブボックスを開く。
『ん?おい!』
確かにいくらか金が入っているが、今の通貨じゃないものがある。
『百万いくかぁ~?これ。』
濵口は、顔をしかめる。
『当時の価値ならいくはずだが…』
『お前、いい性格してんな!』
『よろしく頼むぜ、だんな!』
”首無しライダー”の調子のいい声が聞こえた。
『愛機の板金代用に4、5人襲ってから、高松帰るか…』
濵口は、ワイヤーを巻き上げながら一人つぶやいた。




