21.悪の手先 アナザー2 黒い青春
-神戸市 南京街-
門脇は、コインパーキングに車を止め、歩きだす。
『何度来ても迷うんだよなぁ。』
方向音痴な自分を恨みつつ、
そんなに広くない南京街を20~30分ぐるぐる歩き、
やっと路地裏の目的の店に着く。
『門脇だ。翁は?』
店番の中国人は、無言で奥を指す。
やれやれ、愛想の悪い事だ。
門脇は、肩をすくめる。
やたら、荷物が積んである細い道を通り、
奥の部屋に入ると中国人の女、”春風”が座っていた。
『遅い。10分オクレタ。』
開口一番に遅刻を非難する。細かいやつだ。
中国人だろ、もっと大らかになれよ。
『迷ったんだよ。入り組んでいるだろ、ここ?
次からは、南京街の入り口で待ち合わせしようぜ。』
愚痴りながら、門脇は、テーブルを挟んだ春風の対面に座る。
テーブルにあった菓子を勝手にほおばっていると、
初老の中国人と若い中国人が入ってきた。
『先日は、よくやった。報酬だ。』
若い中国人が封筒と紙袋をテーブルに置いた。
『どうも。』
中をさっと確認し、
門脇は、それらをジャケットの内ポケットに入れた。
『新しい術者の件はどうなった?』
初老の中国人が尋ねる。
『今、訓練中だよ。順調だ。』
門脇は、笑って答える。
『あっ、そうそう。1個、頼みがあるんだけどさ。』
『……何だ?』
初老の中国人は、間を置いて聞き返す。
『”丹華”を2個支給してほしい。』
『どうする気だ?我々にとっても貴重な物だ。そう簡単にはやれん。』
『見所があるヤツが追加で見つかった。戦力は多いにこした事ないだろ?』
『人選は確かなのか?発現しても制御できんようでは困る。』
『一人は僕と血縁者だから高確率で術者になり得るよ。
万が一、暴走してもあんたらの手は煩わせんよ。』
『いいだろう。』
初老の中国人は、胸ポケットから白い小さな紙袋を出し、門脇に渡した。
『代わりと言ってはなんだが、又、仕事を依頼したい。』
『急ぎじゃなければ。』
渡された紙袋を手遊びしながら、門脇は答える。
『春風。』
『あい。』
春風が封筒を出す。
『その場所を指定時に破壊しろ。春風を使っていい。頼むぞ。』
『了解。』
門脇の返事を聞くと、
初老の中国人は、若い中国人を連れて部屋を出て行った。
『さて、僕らも行きますか。』
門脇も春風とともに部屋を出た。
『”丹華”、誰に使うか?』
店を出て、車に戻る途中、春風が尋ねてくる。
『ん?遠藤と僕のいとこに使うよ。』
事もなげに門脇は答える。
『遠藤、術者、違くないか?』
春風が首を傾げる。
『遠藤の場合、術者にしたい訳じゃあない。
ちっと、試したい事があるんだよ。(術者にならない事は想定済だよん)』
『何、使うか?』
尚も食い下がる春風。面倒なやつだな。
『ヒミツ。』
門脇は、悪戯っぽく笑った。
『三田にアウトレットできた。』
春風が助手席に座るなり、話を切り出す。
『らしいね。』
鍵を差込み、車のエンジンをかけながら、そっけなく、門脇が答える。
『行きたい。』
『三田じゃ、滋賀と逆方向だろうが。』
『なら、竜王のアウトレットでいい。』
『なんで行く事が前提なんだ。』
『最近、仕事ばっか。
せっかく、リーベン(日本)来たのに。』
『愚痴は、じいさんに言いなさい。』
『翁、言ったら、怒る。』
『なら諦めなさい。』
ギアを『D』に入れて、門脇は、車をパーキングから出す。
『カドだけ、お金一杯もらう。でも、私、少し。』
『お金の事も、じいさんに直接言いなさい。』
『……おかしい。』
『そんなもんですよ。』
門脇は、笑ってステアリングを切る。
『ズルイ!ズルイ!ズルイ!』
『うぉ!暴れるな!事故るだろが!』
右手でステアリングを保持し、左手で春風を押さえる。
『買い物したい!遊びたい!+*‘‘#%$!!』
ついには、中国語で騒ぎ始めた。
うぜぇえ…、ボンドカーみたく助手席ごと、射出したろか。
『分かった、分かった。
前回も頑張ってくれましたし、三田に行きましょう。』
『ホントか!?』
春風の目が輝く。
爆破技術やら戦闘術を叩き込まれても、中身は、年頃の女か。
『はいはい、行きますよ。』
仕方なく、門脇は、来た道をUターンする。
満面の笑みの春風が一言、
『カド、中国では、男が金出すよ。』
『たかるんじゃねぇ!!』
レガシィの中で門脇の怒声が響く。
-病院-
201号、201号、あった。遠藤様と。
『よぉ、ケガの具合はどうよ?』
門脇はおどけて尋ねる。
『良くはねえよ。』
ベッドの上で不機嫌そうに遠藤が答える。
『リベンジマッチと行かない?』
『見たら分かるだろ。いけねぇよ。』
『そこをなんとかできそうだから来たんすよ。』
『術か?薬か?』
遠藤が体を起こす。
『両方。ほれっ!』
門脇は、紙袋を遠藤に投げつける。
『大丈夫なのかよ?』
遠藤が不審がる。
『効果確認済み。』
門脇がウィンクする。
『いつやる?』
遠藤が乗ってくる。
『来週とかどうすか?
もちろん、準備は僕がします。じゃあまた、来ますね。』
そう言って、門脇は病室を出て行く。
遠藤程、ガタイが良ければ、初期段階の副作用はでないだろう。
暴走込みで30分くらいかな。
門脇は、頭の中でそろばんを弾いた。
-香川県 高松市-
『ひぃぃっ!』
若い女性が雨の中、傘もささずに地べたを這っている。
その後ろに同じく、傘もささず、一人の青年が立っている。
パーカーのフードを被っているその顔は、笑っているようにも見えた。
青年の手には、赤い布切れのような物が握られており、
ゆらゆらと動き、赤い液体が滴っている。
『百鬼夜行赤マント。』
青年が、つぶやくと、赤い布はまるで意思を持ったかのように
女性に襲い掛かった。
『きゃぁあっ、ぐっ、うひっ、ゴキッ、ペキィ、バキリ、ゴリッ。』
悲鳴と不気味な音は、すぐに止み、その場は静かになった。
青年は、携帯を出し電話を始めた。
『あっ?門脇さんですか?
高松の濵口です。濵口 浩志です。
門脇さんの言った通りにしたら、僕にもできました。
初めては緊張しましたが、今日で4人目です。
大分慣れましたよ。』
『おっ!マジで?
ハイペースだな。嬉しい誤算だわ。
一度、飯でも食おうよ。今後の事を話したい。
そうそう、お金!
口座を教えてくれたら約束の謝礼、振り込むよ。』
『あっ、お金は大丈夫です。
2人目が金持ちで、現金かなり手に入りましたから。
念願のRX-7も買えそうです。
場所、指定してくれたら、僕から行きます。
初愛車でw。』
『頼もしいねぇ~。
よしっ、車が来たら、また連絡して。
場所を指定するわ。』
『分かりました。では、また。』
ピッ!
ふふふ。
さすがは、僕のいとこ。
見る目は正しかったな。
純粋な悪意、この上ない。
門脇は、蒔いた種が着実に実っていく事にほくそ笑んだ。




