9.正義の味方 その一 リ・ライト
-放課後-
例のマンションに向かう。
確か、911号室だったな。
インターホンを押す。
『ピンポーン。』
『はい。』
『あの、柊と言います。その、宇梶さんの紹介で…』
『どうぞ。開いてるから、中に入って。』
『お邪魔します。』
中に入ると、以前に会った御門野と宇梶の他にもう一人女性がいた。
制服を着ているという事は学生か。
この近辺では見ない服だ。
『立ち話もなんだし、座って。あ、そのお菓子食べちゃっていいわよ。
おいしいから。』
御門野が僕にソファを勧める。
『どーも。』
僕は、ソファに座り、お菓子を口に放り込む。
『うちの新ちゃんとは初対面よね。』
そう言って、御門野は、制服の女性を指した。
『あ、はい。』
『新堂 エミと言います。よろしくお願いします。』
『柊です。柊 恭一です。こちらこそよろしくお願いします。』
『じゃあ、早速、新ちゃん、準備して。』
『はい。』
そう言って、新堂は、テーブルの上にあった箱の中から注射器を出した。
『えっ?ちょっと!』
僕は立ち上がる。
『痛いのは最初だけ、チクっとするだけ。』
御門野が笑う。
『そういう問題じゃない。どーいう事ですか。』
『術者として、まず、体内の細胞を活性化させる為、
特殊な薬剤を体内へ注入します。大丈夫です。副作用はありません。』
新堂が代わりに説明した。
僕は、しぶしぶ右手を新堂に差し出す。
注射は嫌いなので極力見ないようにする。
『じゃあ、説明を続けるわね。
柊君には、新ちゃんと陽子と3人でチームを組んでもらいます。
サポート役として、術を学んでもらうわ。
陰陽術、テレビとかで聞いた事あるでしょ?
1つ目が、”慈恩”。怪我を治す。治癒、回復用。
2つ目が、”硬針装”。対象を硬化させる物。補助系ね。
3つ目が、”鋭針装”。対象の反応速度、瞬発力、知覚を高めるもの。
この3つを行使できるようになってから、
チームメンバーとして同行してもらいます。』
”鋭針装”。
あの時、遠藤の攻撃がかすりもしなかったのは、こいつの効果という訳か。
筋力の量から考えて、遠藤の方が有利なはずなのにおかしいと思った。
『分かりました。どうすれば使えるようになるんですか。』
『注射後、2時間程度寝てもらってそれからね。そこの部屋を使って。』
そう言って、御門野は、窓側の部屋を寝室を指した。
『じゃあ、お借りします。』
僕は、部屋にある布団にもぐった。
『寝た?』
『はい、完全に寝ています。茶菓子に睡眠薬を入れましたから。』
『血液検査が出ました。かなりの数値です。』
『陽子がバケ犬を迎撃した時の目撃者も彼なんでしょ?』
『後ろ姿だけなので、断言はできませんが…』
『陽子の戦闘を目撃、それが引き金となって、能力が開花。
ない話ではないわね。』
『しかし、検査結果を見る限り、彼の適性は”黒”。
大丈夫でしょうか。』
『それはこれからの教育次第でしょ。
貴重な能力者。大事に育てましょ。
新ちゃん、ヨロシクね。
黒連なぞに取られてたまるものですか!』
『これから激しくなりますからね。』
『彼には働いてもらわないと。
この一年で黒連の力、根こそぎ奪ってやるわ。
忙しくなるわよ。』
やれやれ。僕は狸寝入りを続けながら、一人ため息をつく。
やっぱり、一回目の戦闘はバレていたか。女は怖い。
だが、一応、潜り込む事には成功したようだ。
しかし、こう聞くと、黒連、白鞘どちらも信用できんな。
自分の身は自分で守らんと。
僕は、口の中に含んでいたお菓子を食べ、今度はちゃんと寝る事にした。