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間違いで求婚された令嬢は三人の夫(候補)とデートする  作者: 海のくらげ


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第一話 グレイグ様とのデート

# 第一話 グレイグ様とのデート


間違いで求婚された私は手紙を返しに行く途中で出会ったヴェルナー伯爵家の子息三人から求婚されてしまったの。

とても嬉しいけれど一人になんて決められない。

どうして三人の夫に愛される事が叶わないのかしら。

一年間の花嫁修行の名目で三人を見極めるというアリア伯爵夫人の提案を受ける事になった。



それなのに。

もう三日もグレイグ様とお会いしてない。

お忙しいのは分かる。

でも会ったのは求婚された日の朝だけ。

会えない人とは結婚なんて出来るはずないでしょ。

日記には毎日失格と書いてある。


アリアさまからはお茶のお誘いもあるし街のステキなお店の事も紹介して頂ける。

それはとても嬉しいのだけど、グレイグ様の手柄ではない。

「会えない方とは一緒に歩けません」

アリア様のお茶が終わる頃つい漏れてしまった。



尖塔は遠いところまで見えるから好き。

ダナン様とノール様がお勤めしてらっしゃる検閲所や史書館も見える。

礼拝堂の鐘が鳴ったので皆帰宅の途についているはずだけどきっとグレイグ様は遅いはず。


三人に求婚されて有頂天になってた頃が懐かしい。

ダナン様とノール様の馬が見えたので塔を降りる。

途中ダナン様と会い並んで食堂に入る。

「シェリル、今日も真ん中にお座り」

グリス・ヴェルナー伯爵は私を食卓の花にしてくれるので精一杯の笑顔で席に着く。

グレイグ様以外の皆が揃うとステキな料理が次々と運ばれて来る。

ダナン様は前菜を口に入れながら

「ヴェルナー領では採れないラピスラズリが持ち込まれたんですよ」

と嬉しそうにおっしゃる。


どれもこれも美味しいし皆様との会話も楽しいけれどほんの少し味気ない。

物足りなさの原因はグレイグ様がいらっしゃらない事への不満だ。

早々に食堂を辞すると自室に戻った。


このまま無為に過ごしても何も進展しないに決まっている。

どうすればいいか。

もちろん自分で動くしかない。

手紙を書いて祈りを込めて尖塔の上で指笛を吹くと近くの森からルース兄さまのホークが飛んで来た。

脚に丸めた手紙を留め、守備隊の詰め所に向けて飛ばした。

運が良ければグレイグ様に手紙が届くでしょう。



夜遅くに帰って来たグレイグ様は、私を起こさないようにドアの隙間から手紙を差し込んでくれる。

「おかえりなさい。遅くまでお疲れさまでした」

ドアを開けてご挨拶すると少し驚き、そしてはにかんで「ただいま」とだけおっしゃる。


抱きしめられたらどうしようとドキドキしていたけれど、グレイグ様はそのまま去って行こうとされる。

不器用すぎる。

「まだ食事もされてないのでしょう?食事に付き合わせてください」

一人だけの食事は寂しすぎる。

テーブルに向かい合わせになり、簡素な食事を食べる間、私はカップを手にしてグレイグ様を見つめていた。


相変わらず不器用だけれど、手紙が効いたのか朝食の時間はご一緒出来るようになった。

夕方の鐘の音が鳴ると私は尖塔に昇る。

そこでグレイグ様のレイから手紙を受け取る。



親愛なるシェリル

今日は平和だ、急いで帰るよ

グレイグ



私はその手紙を抱きしめた。

レイにお礼を言って、グレイグ様の姿が見えるまで風を感じていた。



「あれ、今日は何かあるんですか?」

いつもより豪華な気がしてシェフに言ってから食堂に入る。

「特に何もありませんよ。それよりもシェリルちゃんの方がいい事があったみたいね」

嬉しさが漏れていたのはアリアさまにはお見通しだ。

それじゃあグレイグ様が早く帰る事が嬉しくてすべてキラキラして見える乙女じゃない!

・・・まだ帰る時間の伝達しかしてない間柄ですよ?


「ただいま戻りました」

「グレイグ様、お帰りなさい。今日もお仕事お疲れさまでした」

それでもご挨拶は真っ先にしたい。



グレイグ様が席に着くとやはりヴェルナー伯爵が嬉しそうに乾杯のグラスを掲げる。

守備隊の任務は戦地ほどは危険はないとはいえ、無事に帰って来られるのが何よりだ。

それにしてもグレイグ様は本当に不器用だ。

夜、食べるのを見ているのは邪魔しないだけ、今は会話を楽しむ時間でしょ。

何度かグレイグ様を見ているとようやく視線に気付く。

「あれ?何か付いてるか?」

「はい、右の口元にスープが」

指で自分の口の右端を指さした。

これでナプキンで口を拭えば立派な母親になれるわ。

「守備隊はゆっくり食事を楽しむ事も出来んのだろう。勘弁してやってくれ」

ヴェルナー伯爵がフォローを入れる。

グレイグ様だけ唇を指さした意味を勘違いしているらしく耳まで赤い。

少し可愛いと思った自分、ちょろい。



親愛なるグレイグ様

今夜は満月なので庭園で月を見ています

シェリ



庭園は花の香りが充満して心が落ち着く。

それなのに馬の蹄の音がすると鼓動が打つのが分かるのは何故かしら。

グレイグ様は着替える間も惜しんで庭園に来てくださった。

もちろん私は気付かないフリをする。


不器用で鈍感で気の利かない背の高い男はテーブルの向かいの席に腰を降ろした。

「おかえりなさい。今日も遅くまでお疲れさまです」

聖女様が羨ましい。

聖女様は癒しの力を持ってらっしゃるとか。

私はせめて精一杯の笑顔を作ってご挨拶する。


「ただいま、シェリ」

愛称で呼ぶだけなのにグレイグ様の耳も顔も真っ赤になって、頭から煙が出るのを感じた。

不器用で鈍感で気の利かない背の高い男は精一杯の勇気を振り絞っている。

「グレイグ様、月が綺麗ですね」

「ああ、月はいい。どんなに遠く離れていても一緒の月を見ることが出来る」

「グレイグ様と同じ事を考えていて嬉しいです」

月明かりの下で見るグレイグ様は普段より二割増しくらいでかっこよく感じた。



少しずつ、少しずつだけどグレイグ様との距離は縮まってる。

不器用で鈍感で気が利かないから、少しずつ手探りで進んでいる。

その証拠に二人きりの時には「シェリ」と呼ばれるようになり、

遅くても「おかえりなさい」を言うために寝ないで待っているようになり、

領内の見回るルートもだいたい分かるようなった。

かくれんぼのように毎日違う場所で待ってグレイグ様に探させたり、

礼拝堂で今日も無事でありますようにと女神様にお祈りしていたら、

嬉しそうに「ただいま、シェリ」とおっしゃった。


「守備隊の仕事もあと半年もすれば卒業だ。そうしたらもっと長い時間シェリと一緒にいられる」

ある時そうおっしゃった。

グレイグ様は伯爵を継ぐ身。

一介の守備隊長に身を置かれているのは人の上に立つ前に現場を知るためだとか。

今日は尖塔に昇ってグレイグ様を待った。

もう「不合格」と思うこともない。

鐘が鳴り礼拝堂から人々が帰っていくのを見ていると、ダナン様とノール様が馬に乗って帰って来られる。

皆と一緒に食事をするのも楽しいし、グレイグ様が一人食べるのを見ているのも楽しい。

少しずつ進めばいい。

だって不器用で鈍感で気が利かない背の高い男なんだから。



「シェリ、ただいま」

いつだって不器用な笑顔を見せていたグレイグ様は今日に限って後ろから私の事を抱きしめる。

「次の休みの日に街に出掛けよう。一日シェリと二人で過ごしたい」

後ろからで良かった。

自分がどんな顔をしているのか分からないから。


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#一話 あとがき



シェリルの日記



本当は三日目で不合格を叩きつけて

口も聞いてあげないと思っていたけれど、

不器用すぎる性格に免じて仮で合格をあげる。


あー、それより何より階段。

グレイグさまは二段くらい下がちょうどいい。

きゃー。


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