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第49話 北から来る列車

それは、

音から始まった。


遠く。


雪原の向こう。


低い振動。


やがて地面が揺れる。


ノルディア辺境

北部鉄道線。


魔導エンジンが唸りを上げる。


白銀の大地を切り裂くように、

一筋の光が走っていた。


魔導列車。


その先頭車両には、

封印された補給魔導炉が搭載されている。


通常運用ではない。


戦時輸送規格。


完全な国家緊急仕様。


列車は止まらない。


雪を吹き飛ばしながら進む。


そして。


その目的地はただ一つ。


崩壊した王都。


ルクスバリア

外縁部。


まだ火の手が残る街。


人々はその日、

飢えと混乱の中にいた。


そこへ。


最初に気づいたのは子供だった。


「……あれ、光?」


大人たちが振り返る。


遠く。


雪原の向こう。


黒い影が近づいてくる。


最初は誰も理解できなかった。


馬車ではない。


軍でもない。


そして。


その正体に気づいた瞬間、

空気が変わった。


「……列車?」


「こんな状況で?」


「北から……?」


やがて轟音。


地鳴り。


そして。


巨大な魔導鉄道列車が、

王都外縁に突入した。


止まらない。


圧倒的な存在感。


人々は言葉を失う。


列車が停車すると、

扉が一斉に開く。


中から出てくるのは。


食糧。


医薬品。


毛布。


水。


そして専門技術者たち。


さらに後続車両からは、

治安維持部隊が降りる。


整然とした動き。


混乱とは真逆の秩序。


それを見た王都民は、

ただ呟く。


「……本当に」


「助けに来たのか」


誰かが泣き出す。


誰かが膝をつく。


誰かが笑う。


それは絶望の街に落ちた、

最初の“回復”だった。


列車の最後尾が開く。


そこから降りてくる一人の女性。


エレノア・ヴァレンシュタイン


黒い外套。


雪を踏む音。


その姿を見た瞬間。


周囲の空気が変わる。


かつて王都から追放された令嬢。


かつて「悪女」と呼ばれた存在。


今は。


王都を支える側に立っている。


民衆は道を開ける。


自然と。


誰かが命じたわけでもない。


圧倒的な存在感。


そして事実。


この列車が、

この食糧が、

この秩序が、


すべて彼女の判断で動いている。


誰かが震え声で言う。


「……貴族、なのに」


「俺たちを助けてる」


エレノアは立ち止まらない。


ただ前を見る。


彼女の視線の先には、

崩壊した王都の中心がある。


そしてその背後から、

レオン・グレイハルト

レオン・グレイハルト

が静かに降りてくる。


「相変わらずだな」


「何がです」


「英雄みたいになってる」


エレノアは否定しない。


「違います」


即答。


「ただの物流です」


レオンは笑う。


だがその笑いには、

少しだけ敬意が混じっていた。


王都の民衆はまだ知らない。


この列車が、

単なる救援ではなく。


“新しい支配構造”そのものだということを。

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