第39話 工場の灯
夜の工業区は明るかった。
雪国とは思えないほど。
工場の窓から漏れる魔力灯。
蒸気。
人の声。
鉄を打つ音。
ノルディア辺境
では、
夜に働くことが“普通”になり始めていた。
そして今。
その景色を変えているのは、
女性たちだった。
工場区画。
防寒布加工場。
作業台へ並ぶ女性職員たちが、
慣れた手つきで魔導繊維を扱っている。
「次ロット流します!」
「温度調整お願い!」
動きが速い。
しかも正確。
管理責任者の男が感心した顔をする。
「男より丁寧だな……」
最初。
反発は凄まじかった。
「女に仕事を?」
「家にいろ」
「学問など不要」
王都貴族はもちろん。
辺境内部ですら、
そういう声は多かった。
だが。
現実が全部ひっくり返した。
女性雇用で、
生産量が増えた。
世帯収入が増えた。
飢餓率が減った。
数字が結果を証明してしまった。
だからもう、
否定しづらい。
工場二階。
研究区画。
若い女性技師が、
魔導機関の分解整備をしている。
油で汚れた手。
真剣な目。
周囲には男性研究者もいるが、
誰も彼女を馬鹿にしない。
実力を知っているからだ。
「出力低下の原因、
ここです」
彼女は機関内部を指差した。
「熱循環が悪い」
技師長が眉を上げる。
「改善できるか?」
女性技師は図面を書き始める。
魔力流路。
冷却術式。
構造変更。
数分後。
工房全員が黙った。
「……おい」
「これ、
効率上がるぞ」
実験。
起動。
低い駆動音。
そして。
機関出力が跳ね上がった。
「成功だ!!」
歓声。
工房が沸く。
女性技師は呆然としていた。
自分の改善案が、
正式採用された。
かつてならあり得ない。
平民。
しかも女。
そんな存在が、
技術開発に関わるなど。
だが今。
辺境では、
結果を出した人間が評価される。
それだけだった。
見学通路。
エレノア・ヴァレンシュタイン
がその様子を見ている。
隣には、
シャルロッテ
。
シャルロッテは少し笑った。
「変わりましたね」
エレノアは静かに頷く。
「労働力不足でしたので」
相変わらず合理的だった。
思想ではない。
必要だから使った。
だが。
結果として、
社会そのものが変わり始めている。
一方。
王都では反発が激化していた。
中央議会。
老貴族が顔を真っ赤にして叫ぶ。
「女が研究職だと!?」
「工場勤務など破廉恥だ!」
「家を守るのが役目だろう!」
しかし。
若手官僚が小さく呟く。
「……でも辺境は成長しています」
空気が凍る。
誰も反論できない。
王都は理解し始めていた。
もう。
“古い常識”だけでは勝てない。
その頃。
辺境技術学校。
夜間教室。
小さな少女が、
真剣な顔で魔導式を書いていた。
手は少し荒れている。
昼は工場勤務。
夜は勉強。
それでも彼女の目は輝いていた。
教師が優しく聞く。
「疲れてないか?」
少女は首を横に振る。
そして。
まっすぐ前を見て言った。
「私、
研究者になります」
教室が静かになる。
昔なら、
笑われた夢。
だが今。
この辺境では、
誰も笑わなかった。




