第33話 特使来訪
白い息が空へ溶ける。
ノルディア辺境
中央駅。
巨大な魔導時計の下で、
多くの人々が行き交っていた。
荷車。
商人。
技術者。
労働者。
雪国とは思えない熱量。
その光景を見ながら、
一人の女性が静かに目を細める。
ソフィア・ルーメル
。
ルーメル王国
主席外交官。
彼女は今、
正式特使として辺境へ来ていた。
だが。
駅へ降り立った瞬間から、
予想が崩れている。
「……人が多い」
側近が戸惑った声を出す。
「辺境とは思えません」
ソフィアは答えない。
代わりに周囲を観察する。
列車到着時間。
荷物積載効率。
人流整理。
全部が異常に整っている。
王都より合理的だった。
その時。
ホームへ滑り込む魔導列車。
蒸気。
魔力光。
轟音。
ソフィアは視線を止める。
「本当に量産運用している……」
報告書では読んでいた。
だが実物は別。
国家級技術だった。
しかも。
ちゃんと稼働している。
そこへ黒いコート姿が現れる。
エレノア・ヴァレンシュタイン
。
表情は相変わらず静か。
ソフィアは一礼した。
「お招きありがとうございます」
「こちらこそ」
短い。
だが無駄がない。
そのまま視察が始まった。
最初は技術学校。
広い教室。
平民の若者たちが、
真剣な顔で計算式を書いている。
別室では魔導整備実習。
さらに別棟では経営講義。
ソフィアは完全に固まっていた。
「平民へ、
ここまで教育を?」
教師が頷く。
「人材不足ですので」
当たり前みたいに言う。
ソフィアは理解した。
この辺境。
“未来へ投資”している。
だから強い。
次は鉱山。
そこでも驚愕が続く。
採掘効率。
輸送管理。
労災補償。
全部が制度化されている。
労働者の表情まで違った。
誰も死んだ目をしていない。
最後は市場。
ここで。
ソフィアは完全に言葉を失った。
広い通り。
大量の商品。
商人の叫び声。
笑う子供。
熱気。
活気。
雪国なのに、
経済が生きている。
しかも。
王都以上に。
ソフィアは思わず呟いた。
「……王都より発展してません?」
周囲が静まる。
外交問題にもなりかねない発言。
だが。
エレノアは全く気にしなかった。
彼女は市場を見ながら、
淡々と言う。
「効率化しただけです」
ソフィアは絶句した。
“だけ”。
この女は、
国家改革規模の変化を。
本気でそう思っている。
そこが恐ろしい。
視察中、
エレノアは一度も自慢しなかった。
誇らなかった。
全部、
当然みたいに進めている。
だから逆に分かる。
この人にとって、
これは通過点だ。
ソフィアは静かに息を吐く。
「……本当に化物ですね」
聞こえないほど小さい声だった。
その頃。
ルクスバリア
王城では、
緊急会議が開かれていた。
外交部。
財務院。
軍部。
全員の顔色が悪い。
「ルーメル特使、
既に辺境到着」
「正式視察中です」
空気が凍る。
老貴族が震える声を出した。
「まずい……」
最悪の展開だった。
もし隣国が辺境側へ付けば。
王都の経済封鎖は崩壊する。
いや。
もっと悪い。
国際的に、
辺境経済圏が正式承認される。
それはつまり。
王都だけが、
時代から取り残されるということだった。




