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第14話 働けば食べられる

翌朝。


ノルディア辺境

中央広場には、

珍しく人が集まっていた。


吹雪の合間。


灰色の空の下で、

領民たちがざわついている。


「なんだ?」

「また貴族の演説か?」

「どうせ税金の話だろ」


誰も期待していない。


そんな空気だった。


広場前方には、

簡易机と大量の書類。


そして。


黒いコートを纏った

エレノア・ヴァレンシュタイン

が立っていた。


彼女は集まった領民を見渡し、

淡々と口を開く。


「本日より、

公共整備事業を開始します」


静まり返る広場。


エレノアは続ける。


「対象業務は以下」


「道路修復」

「除雪」

「倉庫整備」

「河川清掃」


役人が資料を配り始める。


領民たちは怪訝そうな顔だ。


その一人が聞く。


「……つまりタダ働きか?」


周囲から苦笑が漏れる。


だが。


エレノアは即座に否定した。


「違います」


彼女は机の上へ革袋を置く。


重い音。


中には銀貨。


「賃金を支払います」


空気が止まった。


領民たちが目を見開く。


「は?」


「日当制です」


淡々と説明が続く。


「労働時間に応じて支給」

「怪我人には補償」

「作業具はこちらで貸与」


誰も理解できない。


いや、

理解できるからこそ信じられなかった。


この辺境では、

“働いても報酬が出ない”のが普通だった。


領主や役人が中抜きし、

約束は破られる。


だから皆、

貴族を信用しない。


痩せた男が鼻で笑う。


「どうせ払う気ねぇんだろ」


別の男も吐き捨てる。


「最初だけだ」


その反応に、

エレノアは一切感情を動かさなかった。


「信用は自由です」


冷静な声。


「ですが冬は待ちません」


その言葉に、

広場が静まる。


確かにそうだ。


疑っていても腹は膨れない。


結局。


数人が恐る恐る名簿へ名前を書いた。


「……除雪班、応募します」


「倉庫整備やれるぞ」


少しずつ人数が増えていく。


その様子を、

エレノアは静かに見ていた。


午後。


作業は即日始まった。


雪を掻く。


崩れた道を直す。


倉庫を整理する。


最初は皆、

半信半疑だった。


どうせ途中で打ち切られる。


金など出ない。


そう思っていた。


だが。


日が沈む頃。


作業終了と同時に、

役人が机を出した。


「番号札を持って並べ!」


領民たちがざわつく。


そして。


一人目へ銀貨が渡される。


「……え?」


男は固まった。


役人が無愛想に言う。


「本日分の日当だ」


本物の銀貨。


偽物じゃない。


次々と支払われていく。


広場が静まり返る。


誰も喋らない。


まるで理解が追いついていない。


老人が震える手で銀貨を握る。


「本当に……払った……」


女たちは呆然としている。


若者たちは互いの顔を見合った。


この辺境で。


約束通り金が支払われた。


たったそれだけのことが、

奇跡みたいだった。


少し離れた場所。


レオン・グレイハルト

レオン・グレイハルト

が腕を組みながら笑う。


「随分簡単に懐柔するな」


エレノアは書類を確認したまま答える。


「違います」


「ん?」


「対価を払っているだけです」


即答だった。


施しではない。


慈善でもない。


労働には報酬が必要。


彼女にとっては、

それが当たり前だった。


その夜。


酒場。


疲れた労働者たちが、

信じられないものを見る顔で銀貨を机に置いていた。


誰かが小さく呟く。


「……給料、出たぞ」

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