第11話 王都暴動
最初に石を投げたのは、
空腹の子供だった。
王都
ルクスバリア
中央市場。
配給所の前には、
朝から長蛇の列ができていた。
だが。
「本日の配給は終了です!」
兵士の叫びに、
群衆が凍りつく。
そして次の瞬間。
「ふざけるな!」
「まだ何も貰ってねぇぞ!」
「子供がいるんだ!」
怒号が爆発した。
誰かが柵を押す。
兵士が制止する。
押し返される。
悲鳴。
罵声。
石が飛ぶ。
配給台が倒れる。
――暴動だった。
王都各地で同時多発的に混乱が起きていた。
食糧不足。
失業。
物価高騰。
積み重なった不満が、
ついに限界を超えたのだ。
商店は扉を閉ざし、
貴族街では警備兵が増員される。
鐘が鳴る。
怒鳴り声が響く。
かつて繁栄の象徴だった王都は、
今や巨大な火薬庫になっていた。
王城でも怒号が飛び交っていた。
「西区で暴徒化!」
「南門倉庫が襲撃されています!」
「近衛騎士団を投入しろ!」
会議室の空気は最悪だった。
王太子
ユリウス・アルヴェイン
は顔面蒼白で立ち尽くしている。
「なぜこうなる……」
誰も答えない。
いや、
答えられない。
グランツ宰相
グランツ宰相
だけが静かに報告書を読んでいた。
「北部穀物輸送、完全停止」
「南部商会、王都撤退」
「地方税収、崩壊状態」
淡々と読み上げられる現実。
ユリウスは頭を抱えた。
理解できなかった。
いや。
理解したくなかった。
「あの女は……」
掠れた声が漏れる。
エレノア・ヴァレンシュタイン
。
冷酷で。
傲慢で。
数字しか見ていない女。
そう思っていた。
だが今、
彼女がいなくなっただけで、
王国は崩壊しかけている。
ユリウスは震える声で呟いた。
「エレノアは……何をしていたんだ……?」
その問いに、
誰も答えなかった。
答えが重すぎたからだ。
その頃。
遥か北方、
ノルディア辺境
。
外では雪が降っていた。
暖炉の火が静かに揺れる。
領主館の食堂では、
夕食の匂いが漂っていた。
「今日のスープ、悪くないですね」
エレノアが淡々と言う。
向かいに座る
レオン・グレイハルト
が呆れた顔をした。
「お前、本当に平常運転だな」
テーブルには質素な料理。
黒パン。
シチュー。
干し肉。
王都の豪華な晩餐とは比べ物にならない。
だが空気は穏やかだった。
側近たちも、
どこか安心した顔で食事している。
今日一日で。
道路修復計画。
倉庫整理。
労働登録。
その全てが動き始めていた。
辺境は貧しい。
だが、
少なくとも前に進んでいる。
レオンはワインを飲みながら聞く。
「王都、今頃酷いことになってるぞ」
エレノアはスープを口に運ぶ。
「でしょうね」
「気にならんのか?」
少しだけ沈黙。
暖炉の薪が爆ぜる音。
やがてエレノアは静かに答えた。
「崩壊とは、
突然起きるものではありません」
その銀色の瞳は揺れない。
「限界を放置した結果、
表面化するだけです」
淡々とした口調。
まるで自然現象の説明だった。
レオンは苦笑する。
「怖ぇ女だ」
エレノアは首を傾げる。
「そうでしょうか?」
その頃、
王都では炎が上がっていた。




