第12話 国家再建を始めましょう
雪が降っていた。
静かな雪だった。
空を埋める灰色の雲。
果てしなく続く白銀の大地。
ノルディア辺境
の朝は、
王都とはまるで別世界のように静かだった。
吐く息が白い。
冷気が肺を刺す。
そんな中、
エレノア・ヴァレンシュタイン
は一人、
雪原を見渡していた。
隣には
レオン・グレイハルト
。
護衛たちは少し離れた場所で待機している。
今日は辺境視察だった。
だが普通の貴族の視察とは違う。
エレノアは景色を“観光”していない。
計測していた。
「河川流量は?」
「春先なら今の三倍だ」
「凍結期間は」
「およそ四ヶ月」
彼女は手帳へ書き込む。
視線は遠くの山脈へ向いた。
「鉱脈位置はあちらですか」
「ああ。だが採算が取れなくて放置された」
「輸送路が原因ですね」
即答。
レオンが片眉を上げる。
「見ただけで分かるのか?」
「地形的に大型輸送に向いていません」
エレノアは雪原へ視線を落とす。
「ですが小規模分散輸送なら成立します」
また始まった。
周囲の役人たちは半ば呆れていた。
この女は景色を見ると、
まず経済効率を考える。
普通の人間とは脳の作りが違う。
やがてエレノアは歩みを止めた。
広大な白銀世界。
吹雪。
荒れた土地。
王都貴族なら、
誰もが“終わった土地”と判断する場所。
だが。
彼女の瞳には、
別の景色が見えていた。
開発されていない森林資源。
未使用鉱脈。
巨大河川。
安価な土地。
利権の少ない市場。
つまり。
“これから伸びる場所”。
エレノアは静かに口を開く。
「資源あり」
雪原へ視線を向ける。
「水あり」
遠くの森林を見る。
「土地あり」
そして少しだけ考え、
「人材不足のみ」
結論を出した。
周囲が沈黙する。
普通なら絶望する条件だ。
だが彼女は違う。
むしろ。
嬉しそうだった。
レオンが低く笑う。
「普通はこの景色見て絶望するんだがな」
「理解できません」
エレノアは本気で不思議そうに首を傾げた。
「問題が明確ということは、
解決方法も明確ということです」
さらりと言う。
簡単みたいに。
その姿を見ながら、
レオンは思う。
なるほど。
確かに王都の連中には扱えない女だ。
有能すぎる。
冷静すぎる。
そして何より、
前を向きすぎている。
その時。
強い風が吹いた。
雪が舞い上がる。
白銀の世界の中で、
エレノアの黒いコートだけが鮮明に浮かび上がる。
彼女は王都の方向を振り返らなかった。
未練がないわけではない。
だが、
もう終わった場所だった。
代わりに彼女は、
目の前の未来を見る。
この辺境を。
新しい街を。
新しい国を。
やがて。
エレノア・ヴァレンシュタイン
はほんの僅かに微笑んだ。
それは舞踏会で浮かべていた社交用の笑みではない。
心からの、
楽しそうな笑みだった。
吹雪の中。
彼女は静かに告げる。
「さて――国家再建を始めましょう」




