最終話
これで完結です。
目が覚めた。ユズは飛び起きて、ここがどこかも分からずに扉を開けて部屋から出る。
「ユズ!」
「アレク!」
部屋から出たらあの城全体を見渡せるリビングで、ユズはジェイドの部屋に寝ていたらしかった。リビングにはアレクシスがいて、飛び出してきたユズは力いっぱい抱きしめられた。
「三日、三日起きなかった。もう、帰ってこないかもしれないって」
アレクシスは泣いているらしかった。
三日・・・そういえば身体がいつもよりだるくて重い気がする。三日も寝ていたら身体はなまるし、ご飯を食べないと、力が出ない。
「おなか減った」
「・・・空気を読め、お前も俺に会いたかったというところだろ」
「全然アレクのことは思い出さなかったけど」
アレクシスは腹が立って、ユズを締め上げる。いつものユズだ。問題ない。そしていつものユズは二言目には、
「ジェイドは!?」
である。もう慣れた。
「西の地下の医療研究所。」
「連れて行って!」
ユズはこのなまった身体ではうまく走れなそうだから、アレクシスにおぶさることにした。
「俺はお前の馬か!」
アレクシスがユズを負ぶって連れてきたら、オニキスが無言で近づいてきて、アレクシスからユズを引きはがし、頬を一発はろうと思ったが、できなくて、ぐりぐりと撫でまわす。
「無事か・・・」
「ごめん、兄上、ジェイドは!?」
ユズはオニキスを押しのけて、ジェイドのほうに向かった。
「・・・ジェイドは殺す」
アレクシスと違ってオニキスは慣れていない。ジェイドに殺意が向くのはもう避けられない。
「ユズ、目が覚めてよかった。」
エルドラドはほっとして、アルベルトと顔を見合わせた。
「・・・ジェイドも連れて帰って来たつもりなの」
ベッドの上のジェイドは眠っている。
「さっき指が動いたんだ。あとは意識が戻れば・・・」
移植術は成功した。同じ血縁で同じ血液型だとしても多少は抗体反応が起こるから、容体の急変にはずっと気を配っていたつもりだ。
「三日っていった?エル殿下も、もしかして寝てない?」
アルベルト以外は人間なので、すっかり顔がやつれている。ユズはそうとう心配をかけてしまったことに気づく。リンファはエルドラドの代わりに国の復興に着手しているようで、この場にはいない。
ジェイドの手は温かい。ちゃんと血が通ってる。ユズはどきどきしてその手を握る。
「ジェイド、ジェイド聞こえる?起きて、みんな心配してる。」
声をかける。こげ茶色の睫毛がぎゅっと揺れて、ゆっくりと目が開いた。
「・・・じぇい、ど?」
エルドラドは駆け寄った。ユズはそっと彼に場所を譲る。ユズ自身、限界で、ふらっとよろけたのをアレクシスが支える。
「あれく・・・あれく、ジェイドが」
「・・・よかった、よくやったな」
アレクシスは本心から、ユズを褒めた。
「行くぞ、家族水入らずにしてやろう」
オニキスがそう声をかけて、アレクシスはまたユズを負ぶってついて行く。ユズはお姫様抱っこは嫌だが、おぶられるのは抵抗がないようだ。
西の一階に会議室のようなところがあり、そこにいく。
「さてユズ、まずは申し開きがあるなら聞こうか。」
兄は相当怒っているらしかった。断らずに冥界に行ったことだ。そこに行くということは、すなわち死ぬ、ということである。はたから見ればユズがジェイドを殺して、後を追ったように見えるだろう。
「私は、・・・」
死ぬつもりではなく、助けるつもりで行ったのだ。兄の威圧がすごくて、ユズは彼が申し開きなんて聞く気がないのだろう、と気づいた。
「俺は・・・お前を、道連れにする奴の国の手助けをしたのか。」
オニキスは裏切られたような気持なのだろう。今の今まで怒りの燻りをアレクシスにしかぶつけられなかった。エルドラドは憔悴してこっちに謝るしかしないからだ、彼は知らなったのだ、知っていたのはアレクシスと妖精王だけで。オニキスは妖精王を信用していない。だから口もなるべく利かないようにしている。おのずとアレクシスにしか当たれない。しかし本人が戻ってきた。
「ジェイドも・・・知らないことだった。ジェイドに言ったら反対するもの。兄上だってそうでしょ。普通は反対するよ、当たり前だ。私が、本当に私が勝手にしたことだよ。アレクにも、無理を言って、口止めもして。」
ユズは自分がこういうはねっ返り具合だから、家族には迷惑をかけてきた。だから普通の女の子が言うようなわがままは言わないようにしてきた。ユズのこの武術趣味自体が、わがままのようなものだった。趣味で終わるのかと思っていた。もう16になったのだ。こうして戦場に来て、戦うことなんて、生涯ないと。それをジェイドが叶えてくれたのだ。だから、ユズはジェイドに対して忠誠を誓う騎士のような気持ちでいたことはそうだ。だったら殉死、もあながち間違いではないのだろうとも。彼が死んだ後の自分のことはちっとも想像できなかった。
「国へ、帰る。今すぐに。アレクはお前の専属からは外す。お前は・・・しばらく謹慎して、レジナルド殿と結婚するんだ。」
三日で、そういうことが、決まったのだろう、とユズは涙で前が見えなくなっていくのを堪えないで、頷いた。
「はい」
今まで、長い夢を見ていたのだ。騎士として、英雄になって、救国の戦士になることが、ユズの夢だったから。国へ帰って、ユズは武術を一切やめて、普通の令嬢としてどこかの貴族へ嫁ぐ。そして子どもを産んで、子どもを育てて死んでいく。貴族はたいてい見合い結婚で、そこから恋愛になるのかもしれないが、そうならないこともあるとは聞いていた。好きになる努力はするけれど、愛のない政略結婚だってあるのだ。レジナルドと結婚しても、彼には悪いが、彼を好きになることはない。どうしたってユズはジェイドを忘れることができないだろう。
オニキスは、挨拶もしないで行くらしかった。城を出て、復興を手伝っていた騎士たちを招集して、馬に跨って、ユズを前に乗せた。
「ユズちゃん、泣いてるぞ、オニキス様!」
「うるせぇジャスパーほっとけ」
悪魔の影響受けた市街は、聖獣の加護により大方元通りになっていた。国民が総出で復興に励んでいるのも大きい。
「グリフォンの御姫様!ありがとう!」
「オニキス様―!!」
「キャー!アレクシス様よー」
馬で通ると拍手喝采で武功をたたえてくれる。ユズはほとんど涙で目が見えなかった。オニキスもアレクシスも憮然とした表情だから、ユズは少しは笑って、手を振り返す。
「泣いていらっしゃるのね」
「どうしたのかしら」
女性が寄ってきて、ユズにタオルを差し出す。近くに歩いていた騎士がそれを受け取ってユズに渡した。オニキスは黙って市街を行軍し、メビウスの国境を目指した。
「オニキス!」
リンファが駆け寄ってくる。
「どうしたの、?」
「帰る」
「え!?もっとゆっくりしていってほしいわ!そのつもりでこっちも動いているし」
「帰るったら帰る。」
「ユズちゃん泣いてるわ、ユズちゃんだけ置いて行ったら」
「むしろこいつを連れて帰るのが、当初の目的だった。」
この国の王弟にユズを攫われた日から。
「・・・エル様は?ジェイドは知ってるの、何も言わないで行くなんて」
「戦争は終わった。俺たちの役割は果たしたはずだ。」
「リンファ様!急ぎ確認していただきたい書類が」
「後にして。」
「リンファ様!」
あちこちでリンファを呼ぶ声が聞こえる。オニキスの意志は変わらないらしい。リンファでは引き止めることができない。自分はそういう存在になれていない。期待させるような態度だったけど、結局身体だけ求められていた、ということなのだろう。なら、別にこちらから近づくこともない。未亡人で子どももいるのだ。新しい命がこの腹に宿っていようとも、国へ帰ると言うこの男には関係のないことだ。
「わかったわ、本当にありがとう。さよならオニキス。」
「オニキス様帰っちゃうの?」
「また遊んでねー!」
「あの!」
ジークが恐竜のおもちゃをもって近づいてくる。
「これ、ありがとうございました」
オニキスは少し頷いて、馬を転移ゲートに向けて動かした。
***
グリフォン侯爵家には、絶えずウラヌスタリアから手紙が届いていたが、トパーズがそっとユズに渡そうとしてもオニキスがことごとく没収していった。
「オニキス、何をそんなに意地になっているんだ、ユズが今生きているんだからそれでいいじゃないか」
「くそ親父、娘が殺されかかったのに何をそんなに呑気な・・・」
「あなた、本当にユズの父親ですか?」
「お父様ってほんっと、バカなの?」
この家ではトパーズだけがかろうじてユズの味方でいてくれるだけで、母もマリカもウラヌスタリア王国にはかなり悪印象のようだった。オパールは最近戻ってきたアレクシスが剣の稽古をつけてくれるから、養成所に入り浸っている。アレクシスはユズの専属護衛は外されたが、今度はオパールの指南役とグリフォン侯爵家騎士団長を担うことになった。
「だけど、ほら、ジェイド君の成人の儀の招待状が来ている。ジュピタル王もグリフォンから是非出てほしいと。」
「俺は行かん。」
「なら、私とユズとで行って来よう。」
「ユズは行かせない。さ、結婚式の日取りを決めるか。マリカよりユズが先になるのは悪いが。」
「いいえ、兄上、ユズは縛り付けてでもスタンシャイン分家に嫁がせないとね!」
マリカは結婚してユズがスタンシャインになることはとても嬉しかった。苗字が同じなんて奇跡である。
グリフォンに帰ってきて、ユズはすっかり落ち込んで、部屋にこもっている。謹慎が明けても、以前のように騎士訓練場に行くこともない。家の中も食事は部屋に持ってきてもらって、済ませているし、着替えはドレスを着せられている。
婚約の件はユズには何も知らされないまま準備は進んでいるらしい。レジナルドから手紙は来るが、ユズは全く返事を書かなかった。結婚式はユーピテルでやるのでレジナルドがこちらへ来て、結婚式が終わったら、そのまま列車でフェニックス領まで行くのだそうだ。
「ユズ、結婚式をして、あっちのお家についてからが、初夜ね」
「・・・初夜・・・」
マリカは部屋に来て、ユズを励まそうとしていた。ユズの気持ちがあの男にあることはわかっている。だけど結婚は必ずしも好きな人とできるわけじゃない。マリカはユズが国を出て遠くへ行ってしまうより、少し離れるけれど、同じ国にいてくれたほうがいい。
だけど妹がすっかり引きこもって、気落ちして、明るさや溌溂さがなくなっているのはさすがに心が痛んだ。あの妖狐の里で話したときはすごく楽しかったのに。帰ってきてからユズとは全然話せていない。ユズは趣味の武術もしなくなっていて、白い鞘の剣が壁に飾られてある。
「・・・死にたい」
好きな人と結ばれないなら、あのとき死んでしまえばよかった。この件に関してはわがままは言わずにオニキスの言う通りにすると、決めたはずなのに。ぽつりとこぼれた言葉をマリカは聞いてしまった。
「え」
「決めていたの。ジェイドが死んだ後のこと、たった一つだけ決めてた。」
操を生涯守ること。だけどジェイドが死んでいないなら、それは無効だ。だけど、どうして彼以外の人と結ばれなければならないのだろう。苦しくて、切なくて、しんどくて、こんな気持ちになるくらいなら、死んだ方がましだ。
「・・・ユズ」
「なんでもないよ、マリカ。一人にしてくれる?」
コンコンとノックがされる。
「ユズ、レジナルド殿が来たぞ」
オニキスがユズを呼ぶ。
「会いたくない。」
ユズは布団をかぶる。
「兄上、今はだめだと思うわ」
マリカはこんな状態のユズを婚約者に会わせられないと思った。だけど、結婚式は三日後に迫っている。
スタンシャイン分家は家族総出で護衛騎士を数人連れて来訪した。
「アレク、久しぶりね」
「アレク様、元気だった!?」
エリザベスとステラがアレクシスに挨拶をする。アレクシスは目礼を返しただけだ。
「アレク、あなた大分やつれてない?ユズは?元気かしら」
エリザベスが聞く。
「分からない、俺はユズに接触禁止命令が出されている。」
「え、襲ったの?」
そういう発想が、フェニックス領だよな、とアレクシスは懐かしく思う。
「アレク!」
グリフォン家の門を叩いたのはニコラスだった。メアリーが赤ん坊を抱っこしている。
「ユズが部屋から出てこないんだって?俺たちなら・・・当事者じゃないから連れ出せるかもしないって思ってさ。ユズ、メアリーと赤ん坊のこと気にしてたし。」
「アレクお久しぶりー、男ぶりが上がったわね!ユズちゃんに会わせて!」
ニコラスとメアリーはなんというタイミングで来たのだろうか。そして彼らはユズの事情は知らないのだろう。トパーズは今、レジナルドと話している。アレクシスはトパーズに断って、ニコラスとメアリーを家に通した。母とマリカは4か月の赤ん坊に夢中になった。ユズは二階から降りてきた。
「ユズちゃん、どうした?すっごい酷い顔してる。」
メアリーはあんぐりと口を開けた。
目元のくまが酷いし、顔は真っ青だ。母はこれは、三日後に結婚式を挙げる娘の状態ではないことをいまさらながらに実感した。
「アレクも酷いと思ったが、ユズはもっとひどかったな・・・戦のあと、結構すぐに引き返したから。」
「ユズちゃーん!」
「メアリー・・・私・・・」
ボロボロ泣き出したユズをメアリーは抱きしめてあげた。
「大丈夫、大丈夫よ・・・大丈夫だから」
「ユズがいるわ!」
エリザベスとステラが入って来る。
「大変泣いてるじゃない!」
二人も駆け寄ってユズの心配をしてくれた。
アレクシスはニコラスと顔を見合わせて、ニコラスはミシェルを連れてそっとそこから抜け出す。
「アレク、ユズはそんなにあの王弟殿下が好きだったのかしら」
母エレインはおずおずとアレクシスに聞く。
「ああ・・・はい」
それを認めるのはアレクシスには癪ではあるけれど。ここの貴族の仕来りにおいて、ユズの意見が反映されることはない。
「エレインいまさらユズに寄り添おうとしてもだめだよ。この結婚の話を進めた時から私たちはユズに一生恨まれながら生きていくことになると話したはずだ。」
トパーズは厳しく妻をいさめる。
「ユズは優しいから恨んだりはしないだろうね、ただ自分を責めて、閉じこもるだけだ。オニキス、これはユズにとって本当に良かったことだと言えるか。」
トパーズだって娘が可愛い。誰よりまっすぐで、美しい心根を持って育ったと思う。
「・・・だけど俺は、許せない。ジェイドには、やれない。」
手紙がたくさん届こうとも、会いには来ない。成人の儀が終われば国王代理になるというのだから、国政が忙しいことは知ってはいるが、好きなら会いに来るくらいするだろう。もうジュピタル王国とウラヌスタリア王国はそんなに遠い距離じゃない。一週間もあればユーピテルまで来れるのだ。たとえ会いに来ても追い返すつもりではいるが。
恨むなら恨めばいい、そのくらいの覚悟をオニキスだってしている。
「俺は・・・構いませんよ。ユズの心がジェイド殿下にあっても。」
フェニックスは愛の聖獣だ。長年かかって彼女の心を解きほぐしていくことにレジナルドは特段面倒だとは思わない。
「フェニックスはなぜかユズを気に入ってますからね、グリフォンからもらえることは喜んでいます。」
フェニックスがスズメのサイズでレジナルドの肩に止まる。トパーズの頭にミニグリフォンが出てきた。
『我は断固反対だ!ユズをフェニックスにやるなんて!!オニキスの阿呆が!!』
『俺は嬉しい、ユズが俺の血を分けた子を生むかもしれない。』
聖獣内でも論争が起きているようだ。果たしてグリフォンとフェニックスで子は出来るのかどうか。
三日後に、厚く化粧をして、くまを隠して、純白のウェディングドレスを着て、ユーピテルでは一番大きい式場に行く。
ユズは朝から何も話さないし、ベールをかぶって、トパーズの隣を歩く。
憧れていた結婚とは、こういう形式的なもので、気持ちがともっていないことのなんと虚しいことかと思う。
神父の問いかけにレジナルドは「誓う」と答えて、ユズは無言でも、結婚式は進んでいく。
「この結婚に、異議のある者はいますか」
「異議あり。ユズはお兄様を愛していません」
「異議あり。フェニックスに置いて愛より大切なものはないわ!」
二人の妹が異議を唱える。ジョージはあんぐり口を開けた。普段は二人で喧嘩しかしていないくせに、今日ばかりはどうしてそんなに連携しているのか。
「異議あり。俺は花嫁を愛しています。」
アレクシスも立ち上がった。
「もう、十五年だ。この先も愛してる。グリフォン家じゃない。俺が忠誠を誓うのは、お前だけだ。」
エメラルド色の綺麗な目がユズをまっすぐ射抜いていた。
「はは・・・ユズ、俺たちの結婚はどうやら異議だらけのようだ」
レジナルドは苦笑してユズに呼びかける。
「ちょっと待ったァあああああ!」
会場の後方から走ってくる人影がある。ベタン!とバージンロードの真ん中で転んだ。恰好がつかなすぎだ。アレクシスはため息が出て、それをぐいっと立たせてやる。鼻とおでこが赤い、愛しい人がいた。
「・・・い、異議、異議あり!ユ、ユズは・・・お、れの、俺のお嫁さんだ!!」
ユズは、走り出していた。ジェイドの腕に飛び込む。
彼が、動いている。生きている。それだけで、満足だったはずなのに。これ以上を望めばきっと罰があたると思うのに。ずっとずっと心は彼だけを求めていた。
「ごめん、遅くなって。」
泣いているユズを抱きしめて、ジェイドはウラヌスの剣を取り出した。
「ユズを離してもらおうか」
ゆらりと正装を着たオニキスも剣を抜く。
「お兄さん、落ち着いて」
「お前の兄にはならん。」
「・・・オニキス様、俺が相手しましょう」
アレクシスがオニキスとジェイドの間に立ち、オニキスに向かって剣を抜いた。
「アレク、俺に逆らうのか。」
「今さっき、ユズに忠誠を誓ったんで。」
「そりゃ十五年前からだろうがよ」
オニキスはふっと笑って、勢いよく剣を振りかぶった。会場の床が地割れして隆起して、もう結婚式場が一瞬で崩壊した。
ジェイドはユズを横抱きにして会場から飛び出した。逃げながら、アレクシスがついて来ているのを確認する。
「行くぞ!」
ウラヌスの剣が光って転移魔法がかかった。
「クソジェイド・・ユズだけじゃなくアレクまでも持っていきやがって」
オニキスは悪態をつく。
「親父、成人の儀、行かないわけには行かなくなった。」
「そのようだな。」
トパーズは取り急ぎ、ジョージ・スタンシャインへの謝罪をどうすればよいのかについて頭を悩ませているのだった。
***
「で、攫ってきたと。」
エルドラドはオニキスとの関係が悪くなっているのに、さらに悪化させるようなことをしでかした弟を見つめた。
「最近転移魔法のやり方をリンファに聞いていたと思ったら・・・」
ジェイドが使えた転移は魔石を百個ぐらい補助に使っての一回きりだった。もはや魔法ではないと自分でも思う。
「ユズ、申し訳ないことをしたね。結婚式の最中だったなんて、相手の人にも、お家の方にも・・・」
ユズは首を振る。正直連れ出してくれて嬉しかった。結婚するならジェイドとが良い。ジェイドからもらった翡翠の指輪は冥界に置いてきてしまったから、ユズは漠然と、今は誰のものでもないのだな、と思っていたのだ。
「ユズが良ければ、この国で、ジェイドとカサブランカを支えてやってほしい」
「・・・わたし、は・・・そんなに勉強はできない、し、力になれることなんて、ないけど、できることをしたいです」
「わあ!嬉しいわ。お姉さんができたのね!」
カサブランカはユズに抱擁する。
ウラヌスタリアの復興はだいぶ進んでいて、5月9日にジェイドの成人の儀を行った後、エルドラドはジェイドに国王代理を引き継いで、魔術師協会のほうに行かなければならないのだそうだ。
「で、5月9日に、結婚式をしよう。延長していた結婚式ができるのは、俺はとても嬉しいぞ!」
エルドラドの一人称が、私ではなく、俺のままで、そして見たことのない満面の笑みを見せてくれた。
「え、延長?」
「ユズがここに来た日に、実は結婚式をしようと思ってたんだ・・・」
ジェイドは照れながら頬を掻いた。そんな裏話をユズは初めて知った。だからアルベルトが張り切ってウェディングドレスを選ぼうとしていたのか、と腑に落ちる。
「ユズ、実はオーダーメイドでドレスも作っているから、それを着てほしい」
今着ているウェディングドレスは既製品だった。ユズは採寸にも何も協力しなかったからだ。
「え、それっていろいろ」
「大丈夫、お前の身体のことは全部知っている」
「いかがわしい言い方だな、殺すぞ」
アレクシスが剣の柄でジェイドを殴った。こぶが出来て痛そうだ。ドラココでドレスを借りたときに採寸してもらったメモを大事に持っていたのだそうだ。
「でもでも、その時より、胸とか大きくなってるかもしれないでしょ!?」
ユズは不本意だった。ドラココにいったのは去年の6月、もう一年近く前なのだ。
「ん、どっちかっていったら痩せたか?」
ガンとユズはショックを受けた。しかし、最近ごはんを食べていないし、運動もしていないせいだと思った。
「じゃ、じゃあ、明日採寸しなおしに行こう。ちょっと調整すればいいはずだし。」
「俺が行く。お前は仕事をしろ」
「ユズといちゃいちゃするのも仕事だ」
ゴンとアレクシスはまたジェイドを殴った。
「アレクが手伝ってくれればいいと思うの。ジェイドはアレクに宰相とか近衛騎士とかやってほしいって」
カサブランカが笑顔で言う。
「・・・俺はユズに付いてきたのであって、ここで働くためでは」
「アレク、やってくれるな!ユズだって王妃代理をしなきゃいけないんだ、いろいろ手伝ってほしい!」
ジェイドの押しに、アレクシスは負けた。
***
リンファは絶賛吐き気と戦っていた。エルドラドには何度もオニキスに知らせなくていいのかと聞かれたが、一人で生むし、なんとかジークと一緒に育てると決めた。ジークは最近は書類仕事をしているリンファの隣で遊んでいる。リンファが具合が悪そうだと背をさすってくれる優しい子だ。
「お母さん、大丈夫?」
「大丈夫よ、あと二か月くらいで良くなるから、赤ちゃんがちゃんといるって証拠なの」
「赤ちゃん、弟かな、妹かな」
「さーどっちだろ、どっちでも嬉しいね」
リンファは幸せだ。ジークとまたこうやって暮らせるようになったのは、やっぱりオニキスのおかげだとも思う。
「ジークのパパはもう死んじゃったけど、この子のパパはこの国を救った英雄よ」
それはリンファにとって誇らしいことだった。
「リンファ!成人の儀で結婚式もすることになったぞ!」
「え、ちょっとそれって忙しくないですか?」
「祝いの席だ。いいことが重なっていいじゃないか!花火も上げよう!」
エルドラドが嬉しそうだ。
「・・・リンファ・・・俺と結婚するか?」
「え?」
「忙しくてあんまり帰れないけど・・・考えてほしい」
「お母さん、エル様に告白された?」
キャー、とジークは盛り上がっている。リンファは空耳だと思うことにした。エルドラドと結婚しても、あまり国に帰らないなら、別にメリットは・・・ないよな?とリンファは自分がとても淡泊な性格なのだな、と苦笑する。
「エル様は嬉しすぎてねじが飛んじゃったのね。ジーク、ジェイドがお嫁さんを連れて来たんだって。会いに行く?」
「僕、ジェイドすきー」
国民は慶事に湧き、国はとても戦争なんてあったとは思えないほど活気づいていた。一週間前には各国から要人が続々とやってきて、対応に追われたが、リンファは忙しく動き回っている方がつわりが紛れた。
「リンファ、あまり動くな、前もそうで、それで・・・だめだったと聞いたから、な、安静にしてろ」
「そうだぞリンファ、初期が一番危ないんだからな!」
「ジェイドはそういうのを勉強してて偉いと思うわ。」
リンファは冷静に対応した。
「リンファさん、兄上の子なんですよね・・・なんか、申し訳ございません」
ユズがこわごわと言う。ここに来た日よりすごく顔色は良くなって、目のくまも消えて、やつれが目立たなくなった。やはり愛する人と一緒だと、顔も明るいし、何より幸せそうだ。
「気にしないで、オニキスに言わないと決めたのは私だし。この子の責任は生むと決めた私にあるわ。」
「国で責任をもってサポートいたしますので。城にベビーシッターを置くし、なんなら託児所とか、ジークの部屋も置こうな」
「もう少しで国王代理のジェイド殿下のお気遣いには感謝いたします。」
「リンファが働きやすいように整えることが、他の人たちのためにもなることだから、遠慮なく言ってくれ。」
本当に彼には頭が下がる。リンファはありがとう、と笑った。
成人の儀、三日前にジュピタル王国からグリフォン侯爵家、ニコラスとメアリー、レジナルドが到着した。メアリーはミシェルも連れている。救国の英雄としての招待だ。すなわち超来賓で、国民からは熱烈な歓迎を受けている。
リンファは具合が悪くなったので、城の手洗い場で嘔吐していた。ジークが心配そうについてきて、背をさすってくれる。
「しばらく、お部屋で休もう?横になると良いってジェイドが言ってた。」
「そうね・・・ちょっと横になろうかしら」
リンファは今、西棟の地下の魔法医療研究所の近くに部屋を借りて、ジークと一緒に住んでいた。オニキスと顔を合わせないで良いのなら、そのほうが楽だ。会えばどうしても、心臓が痛む。彼を愛してしまったのは自分だけと言い聞かせる。彼にとっては一時の欲のはけ口だっただけだ。自分にはジークとこの子がいる。もう多くを望むまい。
「オニキス、よく来てくれた」
「・・・」
彼との間の亀裂の深さを沈黙のみで悟った。
「それと、その・・・トパーズ殿、手紙の件ですが、了承していただけますか?」
「ユズが戻ってこないですし、今も顔を見せてもくれない、私たちから言えることは何もありません。」
トパーズは他人行儀になってしまう。結婚式のことは一応知らせておこうとエルドラドは思ったのだ。ジェイドはユズを攫ってきたというし、グリフォン側からは二人は駆け落ち、という認識なのだろう。ユズのご家族には申し訳ないが、返してやることはできそうもない。
「それでも、こちらから伺うべきでしたね。本当に申し訳ありませんでした。認めていただくことはできないかもしれませんが、弟がユズさんを必ず幸せにすることは兄である私が補償いたします。ぜひ、ゆっくりくつろいでください。」
エルドラドはそう挨拶をして、次の要人のところへ向かった。
***
成人の儀、当日になった。ユズはカサブランカの隣に座って、その隣にアレクシスが座る。ここは親族席だ。アレクシスはジェイドの中では親族らしい。ウラヌスタリアは細かいことはこだわらないようなので、アレクシスもあまり気にせずにそこに座った。
「この日が、迎えられることが、なかったかもしれないなんて、ここにいる誰も思ってないだろうね」
王城の前の広い草原に式典の会場が設置された。そこを国民が埋め尽くしていた。空は青く、風は穏やかで、太陽光は暖かく降り注いでいる。ウラヌスタリアの国旗は黒に金の地で太陽が刺繍してあるのだ。
「そうだな。」
来賓の入場に国民は礼儀正しく拍手をして、親族席にいるユズたちはお辞儀をする。父親、母親、オニキス、マリカ、オパールも来ていて、気まずいけどユズはお辞儀をした。ニコラスとメアリーは笑ってユズに手を振っていた。レジナルドも来ていて、ユズはごめんなさいの気持ちを込めてお辞儀をした。メビウスの要人や、アルテミシアからはウィリアムも来ている。アルベルトも子どもの格好だけど正装を着て席に着いた。
リンファがジークと親族席に来る。
「ユズちゃん、そろそろ準備しないと。」
「ジェイドの加冠の儀を見届けてから・・・」
「そのあとすぐにエル様が国民を証人に結婚式するんだっていうのよ。アレクくん、ジークお願いできるかしら」
「はい、預かります。ユズ、ジェイドの雄姿は俺が見ててやるから。」
「意味なくない!?」
ユズは膨れながらリンファについて行った。
会場の裏側に液晶があって、そこに様子が映し出されていた。リンファもジェイドは弟のようなものだから、見たかった、というのもある。
ドレスも全部魔法で着せられる。メイドや侍女たちがユズの髪やらメイクやらに励んでいた。白いドレスは金色の刺繍が入っていて、背中が綺麗に見えて、プリンセスラインの可愛いドレスだ。
「ほんっと、ユズちゃんのためだけのウェディングドレスよねェ。こんな一生に一度しか着ないようなものなのに。」
「お似合いです、王妃様」
メイドが惚れ惚れという。
「お、おうひ、ではなくない?」
会場に割れんばかりの拍手が響く。国王代理のエルドラドから、ジェイドに成人の儀だけに用いる宝石のたくさんついた王冠が被せられた。黒い正装を着たジェイドは国民に一礼をして、スピーチをする。
「まず、今日、この日を迎えられたこと。それがどれだけ普通ではないかを実感した三年間だった。」
国民が息をのんで、ジェイドの声を聞いていた。
「みんなにもたくさん心配をかけて、すまない。3年前の5月7日に起こったこと、たくさんの犠牲があったこと、辛く長い避難生活だったこと、そして、国を救ってくれた人がいるということを、私たちは、生涯をかけて忘れてはいけない。」
ジェイドはジュピタル王国の一行に深く頭を下げた。
「みんなが希望をもち、それを願い続けたから、今があるのだと。感謝をしてもし尽せないこの日を、私は今日、迎えることができたのは、間違いなくみんなのおかげだ。・・・・意志ある所に」
道は開ける、国民が一斉に唱えて、花火が上がり、拍手喝さいした。
エルドラドが三年自分が国王代理を務めたが、至らない点ばかりだったことを国民に詫び、そして今日からはジェイドがカサブランカの成人までは国王代理を務めることを発表した。ジェイドは国民から愛されていたし、信頼も厚かったので受け入れるとまた拍手が上がった。
「それなら、」
ミランダが最前席から声をかける。
「それなら王妃がいるのでは?」
ウラヌスタリアはこういう祝いの場でも国民は自由に発言しても良いのだ。
「そうよ、ジェイド様、王妃がいるわ!」
「ジェイド様、あたし王妃になってもいいわ」
「いやよ、あたしよ!」
前列を中心に女子が諍いを起している。
「気持ちは嬉しいが、もうお嫁さんを連れて来ているんだ」
ユズは目の前の幕がいきなり上がったから、ビックリして目を丸くした。顔は薄いベールがかかっているから、国民の前にいきなり出されたけれど、びっくりしたことには変わりはない。リンファは笑って、ドレスのすそを持ってくれた。
「ユズちゃんじゃない!?」
「あのグリフォンの!」
「わぁ!素敵ねェ!」
ミランダ以外の女子たちは、あっという間に花嫁に虜になった。自分も将来こんなウェディングドレスを着てみたい、と。ジェイドはユズにエスコートを申し出て、ユズはその手を取る。ベールを挙げてもらい、ユズはゆっくりとカーテシーを披露した。歓声と悲鳴と感激の声で会場は爆発した。こんなに、人から祝ってもらうなんて、本当につい最近までは考えられないことで、涙ぐむ。
「ユズと、結婚してもいいだろうか」
「いいよー!!ユズちゃーんありがとー!」
「歓迎するわ!ありがとう!」
「とっても綺麗」
「よかったな、ジェイド様!」
「ジェイド様おめでとー!!」
ユズが、幸せそうに、ジェイドの隣にいるのを見た。トパーズはよかった・・・と涙ぐむ。トパーズ以外はやはり憮然とその様子を見つめているようだった。拍手もしない家族にユズはやはり国から出してよかったのだ、とトパーズは思った。
子どもは親の道具でもないし、人の思い通りに動かすものでもない。本人の意思があるなら、それをちゃんと聞いてやるべきなのである。自分の考え方は妻にもユズ以外の子にも受けれられてはいないのが現状だが。
ユズには、ユズの人生や、ユズの気持ちがあるのだ。それを大事にしてくれる人と一緒になれるのなら、トパーズはそれでいいと感じた。
左手の薬指にシルバーでエメラルドとセレスタインと翡翠の石がキラキラと輝く指輪をはめる。ユズもジェイドの指に同じデザインのこっちは金色の指輪をはめた。
キスのコールがされて、ジェイドはキスはそんな乗りでするようなもんじゃない、と国民を叱っている。
ユズはリンファの顔が真っ青なのに気づいて、駆け寄る
「リンファさん、座って」
「兄貴、リンファを休ませよう」
「そうだな。リンファおいで、奥に行こう。」
「ジェイド様、リンファ様大丈夫ですか!?最近よくないよね」
「仕事させすぎるなよ、ジークもいるんだしさー」
「もしかして、リンファ様おめでたじゃない?」
目ざとい女子たちは口さがなく噂し始める。
「だれとー!?俺狙ってたのに!!!」
「エル様よ!エル様もご結婚?もー幸せ続きー災難を掻い潜っただけ、幸せが続いて行くのね」
「とりあえず!今日は祭典だから、気のすむまで楽しんでくれ!」
国民はまた拍手喝采し、街はお祭りに湧いた。
「国王様万歳!王妃様万歳!」
***
リンファが、妊娠している?
オニキスはエルドラドに連れていかれたリンファを目で追った。親族席にアレクシスとジークがいる。アレクの?そんなわけない。ではエルドラドと、そういう関係になった、ということか。
「母上、妊娠すればどのくらいで気持ち悪くなるものですか。」
「そうね、二、三か月かしら。四か月くらいまではほんっと地獄よ。」
ガタンとオニキスは席を立つ。
「アレク」
アレクシスは呼ばれて起立する。
「わー、オニキス様だー」
ジークは朗らかに笑った。
「リンファはどこにいった。」
「城に戻ったと思います。転移で。」
「案内してくれ」
「はあ。ジーク、案内しろって。」
「任せて、こっち」
どうやらジークが案内してくれるらしい。
自分たちが今暮らしている部屋に案内する。
「大丈夫か、無理をしないでくれ。また君に辛い思いはさせたくない。」
「してないつもりですけど。すみません。今回はちょっと重いみたいです」
ジークの時より、二人目の子より、この子のつわりは重い。
「ジェイドの祝いの場なのに、邪魔しちゃって。宴会は、控えさせてもらいますね」
「ああ、ゆっくりしてくれ」
中でエルドラドとリンファが話をしている。オニキスはジークにしーと合図をする。ジークは楽しいようで口で手を押さえて満面の笑みだ。
「それと、こないだの話は考えてくれたか」
「・・・エル様、ご冗談だと思ってます。」
「リンファはちゃんと言わないと分からないか。君はこの戦争で、夫を亡くして、お腹の子まで亡くして、失ってばかりの君に、何もできない俺は悲しむ暇さえ与えないで、負担ばかりかけていただろう。それは、国として責任を取るべきだ、と思うんだ。」
「同情で娶られても・・・」
「君が親戚になれば、ジェイドが子どもの面倒もきっと一緒に見てくれるだろうし」
「結局ジェイド頼みなんですね」
「・・・冗談だ。あいして「ちょっと待て」
オニキスは割って入った。
エルドラドもリンファも目を丸くする。
「いまのは、愛の告白!」
キャー!とジークは相変わらず可愛い。
「リンファ、妊娠しているなら、俺の子で間違いないか」
リンファはぎくりと肩を震わせて、オニキスとは絶対に目を合わせないようにうつむく。
「じゃあ、あとは二人で話し合え」
「・・・え?」
謀られた。この男は策士である。策略にかけられたのは、リンファなのかオニキスなのかは分からないが。最初からこの状況を持ってきたかっただけだろう。
「さあ、ジーク、祭典へ行こうか。いっぱいおもちゃを買ってやる」
エルドラドはジークを連れて行ってしまう
オニキスと二人きりになって、しばらくは沈黙が続いた。
「ひ、久しぶりね、オニキス、元気だった?」
「質問に答えてもらおうか」
「・・・オニキスって、情がないわよね」
それは相変わらずだ。自分の都合だけで自分の知りたいことだけを聞ければいいのだろう。オニキスは悪くない。優しくない男に惚れてしまった自分が悪いだけだ。
「そうね、相手にしたのはあんただけだし。避妊、しなかったものね。」
「なんで言わない?黙って生む気だったのか。」
「あんたが帰るって言うから、私と一緒になる気はないってことでしょ?」
リンファは気持ちも不安定だったから、言っていて泣けてきた。
「堕胎はできない、私は三年前流産してるの、だから・・・その子が戻ってきたんだって、思って育てるわ。もういいでしょ、少し寝たいの。出て行ってくれる?」
「リンファ・・・エルが好きなのか」
ぎしっとリンファが座っているベッドにオニキスが腰かける。そっと彼女を抱き寄せて、ゆっくり口づけるくせに、聞くことはよりによってエルドラドのことだ。前もこの流れがあったような既視感を覚える。
「俺は、お前が好きだ」
オニキスはだけど今回はしっかり言葉をくれた。
「ここに残ることは出来ない。お前がジュピタルに来てくれ。ユズもアレクシスも取られた。こっちもそれ相応の人材をもらっていってもいいはずだ。」
「・・・あんたたちの喧嘩に・・・巻き込まないでもらいたいわ。」
だけどリンファは頷いて、オニキスに抱き着いた。
***
シリウス歴2519年から2521年に渡り、西地方のウラヌスタリア王国を中心とした大魔法使いたちによる戦争は、第二次魔法大戦として世界史にも残された。オニキス・グリフォン、アレクシス・アンダーソンをはじめ名を挙げた英雄のなかで、一際人気があったのはユズ・グリフォンという16歳の少女だったと言う。その東の大国ジュピタル王国の英雄と聖獣たちはその戦争の終結へ大きく貢献した。召喚された悪魔、ベリアルを討伐したことにより、ジュピタル王国の聖なる魔素が国に戻ることになり、国力を一層強め、列強各国はジュピタル王国とのつながりを求めた。
「まさか三度目もあるとはな。そしてお前も二度目か。」
「そうなんだ、一回冥界に行ってるからな、アレクはギルドの町止まりだったぞ」
ユズとジェイドはリスクーザに来ていた。ユズはもう臨月になる。やっと国の政が落ち着いてきたし、もうすぐ子どもが生まれるし行くなら今だ、と弾丸ジュピタル王国旅行に来たのだ。ドラココでメアリーに赤ちゃん用品をたくさん持たされ、今はバジリスク領である。ラルフが迎えに来てくれ、城まで通される。
「そういえばセレスの母親もここで産気づいてな。あの時は大変だった、俺に赤子の産婆術などないのだから。」
ラルフは二度リスクーザに来たからか、妊婦だからかユズにも優しくしてくれた。
「ラルフ、そんなこと言ってると当たるんだよ、」
「なんかお腹いたいなーあいたたたた」
「ユズ!?産婆はいないといっただろうが!」
そうは言っても経験者のラルフは魔獣に命令して湯を沸かさせ、寝床を整えてくれる。ジェイドはぽいと部屋から追い出させる。
「意味わからん、夫は妻の手を握って立ち会うものだろ!?」
「ただの邪魔だ、気が散る、外へ出ろ!」
「ラルフ、助太刀に来たぞ」
タマモがなぜか現れる。
『ジェイドは邪魔よ、良い感じのときに呼ぶから、それまでは外にいて』
ノルンまでそんなこと言う。
ジェイドは外で、グリフォンとフェニックスといた。
「え、なんでいるんだ、グリフォンはまだ分かるけど。」
『・・・ユズが子どもを生むと言うなら、来ないわけには行かないだろう』
フェニックスはユズ個人への思い入れが強すぎる。
ユズとジェイドの第一子はそんな中、聖獣たちに見守られながら生まれたのだった。
ラルフが感動してセレスにそっくりだ、と生まれたての赤ん坊を優しく抱っこしていた。
「俺とグリフォンとフェニックスって男だから締め出されたんだろ?おかしくないか、ラルフが立ち会えるのって」
ジェイドは膨れている。最後の最後はジェイドも立ち会えたのだからいいじゃないか、とノルンはなだめている。ここがバジリスク領だからなのか。
「ジェイド知らないの?ラルフって本体の性別は女だって」
「・・・初耳だよ!!」
「ユズ、五日はここで寝泊まりして、なんなら一年位いてくれても構わないぞ」
「妾にも抱っこさせてくれ」
赤ん坊は元気で良く泣いている。
ジェイドはアレクシスに手紙を書いた。
『だから臨月に旅行はやめとけっつっただろうが!!』
と彼はお怒りである。
「俺は、嬉しいぞ。ユズとジェイドの子に会えた。もう二度と会えないかもしれん。この子はバジリスクで生まれたなら富と名声が得られるよう、加護を与えよう。」
「なら妾も知恵の加護を」
『恵みの加護』
『愛と平和の加護を』
『セレスやオニキス・・・そしてユズのような武の加護を』
赤ん坊にきらきらと光の欠片が降り注ぐ。きっと強く優しく誰からも愛される子になるのだろう。その後バジリスクの城で生まれた子は英雄になるのだと実しやかに囁かれ、訪れる人が後を立たなくなったのは別の話である。
――――完結――――
ここまでお読みくださりありがとうございます。
いつも下克上球児のメインテーマとマイファミリーのメインテーマを聞きながら、書いていました。
最初はユズがアレクシスと離れて、ユズが人を殺してしまい、国外に逃亡して、女傑に成長し、アレクシスと敵同士で再会・・・みたいなストーリーで考えていました。激しくアレク押しだったんです。
しかしデビュタントを書いている途中にジェイドが出て来て、まんまとヒーロー枠を奪っていきました。設定的に彼が主人公の方が映えるから、やっぱりジェイドだな、と思いながら書き上げました。
番外編では結婚した二人のイチャイチャやオニキスとリンファのあれこれを満を持しての年齢制限ありで書いていきたいと思います。笑
お付き合いいただいた読者の皆様、ありがとうございました。




