ジェーンと固死の病
ブライアンは最初とっつきにくいと思っていたが、意外におしゃべりだった。しかし人と話すことは慣れていないように覚束なくなるところもあった。引きこもりの研究者あるあるだ。そしてユズにはそのおしゃべりの大半を理解できなかった。ブライアンは、分厚い眼鏡の奥の金色の目をキラキラさせながら、「あの大観覧車は、風車の技術を利用していてああやって回ることで発電と蓄電を可能しています。ブレードが風を受け、ナセルの中の発電機が作動する仕組みです。初めて見ましたが、ずいぶん大きいな」と感動している。
「つまり、乗りたいってことだな。知ってるか、観覧車に乗って天辺でキスしたカップルは恋が成就するんだって」
ユズもユズで観覧車はロマンチックだと思うのだ。
「恋が成就していないのにキスをするという状況はデータによると一般的ではありませんが、観覧車に乗って気分が高揚するのはいわゆる吊り橋効果と言われています。恐怖や不安、興奮による心拍数の上昇を、一緒にいる相手への恋愛感情だと錯覚する心理現象です。戦のあとに結婚件数が増えるのも吊り橋効果ですね。」
「・・・結婚するために戦を起こすの?」
ユズの質問は飛躍していて、ブライアンはうまく伝わらなかったことに納得できなかった。
「ユズは頭が悪いですね」
ぴしゃりと言われる。まず、結婚と戦との相互関係はない。次に、戦によって与えられる恐怖心や不安感が生じる。そういうとき人間は総じて子孫を残さなければならないという本能が刺激される。つまり、戦をしているときに恋愛関係になるカップルが多いのはそういう心理状態が由来している、とブライアンは説明した。説明を聞いてもユズにはピンと来なかった。だけどブライアンは例えば、ネプティーヌとシティズンが今、紛争状態にあり、南の辺境のほうは亡命を受け入れている。そこの結婚事例はやはりフェニックスの中心街よりも多い、とデータを出してくれる。
「頭パンクしそうよ、ブライアン、もっと簡単に言って。」
「そうですね、」
ブライアンは根気強くユズに話していた。ユズには理解できていないが、ブライアンはあきらめが悪いようだ。ジェイドはその様子を微笑ましく眺め、自分は書籍に目を移す。ちなみにアレクシスは馬に乗って馬車について来ている。
「観覧車は高度が出る乗り物です。高くなれば恐怖と高揚感が生まれて、吊り橋効果が期待されます。それでキスするカップルが結ばれる、という言い伝えはデータを通して説明できるものだということです。しかし、俺はやはりある程度は関係を深めた男女で成立するものだと推論します。きっとどちらがかがどちらかを慕っているような、あるいは両想いの恋愛成就前のカップルの間で成立するのではないか。恋愛論は多種多様ですから、データに当てはめるのは難しいところがありますよ」
「だけどとてもおもしろいわ!」
ユズがそういったのに、ブライアンは満足したように笑う。彼女が話を理解してくれたのだ。頭の良くない彼女が。それはある種の達成感だった。
「良かった、ユズ。なんでも聞いてくださいね」
マリエッタは、今日はスタンシャインの屋敷に休暇をもらって、家にいた。ジェーンは車いすを上手に動かして、挨拶してくれた。ジェーンの髪の毛は少し濃い目のハニーブラウンで、ユズと同じような長めのボブだった。二人で並んでいれば姉妹のように見えなくもない。マリエッタがユズに対して娘のように接してしまうのはしょうがないのかもしれない。
「はじめまして、ジェーンです。」
鈴の鳴るような美しい声だった。
「ジェーンは12歳のときに発症したの。若い子がなるのは珍しいと聞くのですけど」
大体、固死の病は20代、30代の子を産んだ女の人の患者が多い。患者の共通点はジェーンの事例も合わせると、今のところは女性である、ということだけだ。症状の進行は、今は右足が固まってしまったようだ。
「大変申し上げにくいですし、断ってもらっても構いませんが、触れることは可能ですか?」
ジェイドの申し出に、ジェーンは「ええ、どうぞ!」と快諾した。足は石になったかのようにカチコチだ。普通の病気ではない。
「魔法病だろうな」
ジェイドは見解を言う。
「俺もいろいろ本を読みましたが、石化が一番近いです。バジリスクやゴルゴンの蛇の石化を疑い、星の妖精草、医学的になら金銭草の実験は一通り試しました。効果はさほど感じられませんでした。必要なら手配しますが、ジェイドに何か策はありますか?」
「呪いの種類が分かれば、薬を作ることや解呪することは可能なはずだ。」
「石化に特化して集めたデータを掘り起こしましょう。」
今回ジェーンに発症したことは、ある程度のものしか知らない。これがフェニックス領に伝われば、女性を中心にパニックが起きかねない。それを防ぐためにもなんとか特効薬の開発は急務である。ジェーンは元気そうだった。右足が固まっただけであとはどこも問題なさそうである。ユズは彼女の車いすを引っ張りまわして、庭のあちこちを駆けていた。
「したいことはない?例えば馬に乗りたいとか、遊園地に行きたいとか、バニーガールになりたいとか!」
「ええー?そりゃあ全部やってみたいでしょー」
ていうか、なんでバニーガール?とジェーンは笑った。マリエッタが勧めてくれた、とユズは大幅に誤った解釈をしている。お母さんったらもう、とジェーンが言えば、マリエッタはそんなことはなく!と慌てて否定していた。ジェイドと話して自分はバニーを諦めたが、他人をバニーにすることは協力できると思うのだ。
「そうよね、全部やるべきだわ!」
「ユズって意外と刹那主義なの?」
「せつなって?」
「うーん・・・私ってもうすぐ死ぬじゃない?それを私以上に実感してる感じがするっていうか。今を楽しませてくれようとしてるわ」
ジェーンが言う。過去も将来も考えないで、彼女はジェーンに今したいことを聞いてくれた。だって、今彼女は生きている。生きているうちにやりたいことが山ほどあるはずだ。ユズはおのずとジェイドのほうを見た。ジェイドは難しそうな表情で、ブライアンと話していた。
「それはすごくありがたいわよ、お母さんは泣いてばっかり。うんざりしちゃう」
「そうなのか」
「そりゃあ悲観したら、私はこの年で死にたくはないわ。恋だってしたいし、お母さんを悲しませたくもないし、やりたいことだってたくさんあるのよ」
「私は、本人が一番苦しくて、辛いのだと思うのよ。だから、勝手に将来を決めて悲しんだり泣いたりはしない、そんなこと本人に失礼だ。」
「ユズって、ほんと、良い人ね。ありがとう、私、希望を捨てない」
ユズのことはマリエッタからある程度は聞いていて、会ってみたいと思っていた。明日には左足も動かなくなっているかもしれない。この病気を患ってから、一日寝る前はとても怖い。次の日は指、そのうち目も開けられなくなるし、口も動かなくなる、恐ろしい病だ。最後は心臓まで固まって死んでしまう。
「私は、生きるわ。その時まで生きたって後悔しないで言えるようにね」
ジェーンは強い心を持つ女の子だと、ユズは胸が痛くなった。抱きしめてあげたいけれど、初対面の子にそれはどうなのか・・・と一応我慢して、髪の毛を撫でてやる。
「さ、カジノへ行くよ。私は、ポーカーで勝ったことがないの」
「それは、絶好のカモってやつね!」
ジェーンは快活に笑った。
「ジェイド、私はジェーンとカジノに行ってくるね!」
「連れて行ってやれなくて悪いな、俺はこのままブライアンと図書館へ向かう。アレクがいるから大丈夫だろ」
「ジェイド、夜になったら迎えに来てね、来てくれなきゃバニーガールのアルバイトするからね」
「・・・アレクがいるから大丈夫だよな!?」
「・・・話が見えんが、バニーガールは許可しない方向で合ってるか。」
アレクシスは引きつってジェイドに確認した。
「バニーガールというのは、年がら年中発情しているウサギをイメージしていると言われ、女性がウサギの耳や尻尾をつけた衣装をまとうことで、いつでも受け入れる準備が万端だと暗喩していると言われます。ただ、カジノバニーはディーラーですし、ユズにアルバイトが務まるとは俺は思いません。コスプレがしたいのであれば用意しますが、どうします?」
ブライアンはつらつらとユズが好きそうな話を、小難しく言って、最後はジェイドにバニーガールのコスプレ衣装がいるかどうかと聞いてきた。
「え・・・いや、いらん!断じてそれはいりませんので!」
ジェイドは一瞬迷ってしまった自分を恥じた。
「そうですか。」
ブライアンもバニーガールを生で見たことはなく、少し興味はあった。ユズがコスプレをしてくれるなら、それはそれでありだと、彼自身は思っていた。研究熱心だが、彼もまた17歳の男児であった。
「アレク!ユズを頼むぞ」
ジェイドはブライアンを引っ張って、図書館のほうに行ってしまった。
アレクシスはジェイドに言われるまでもないと思っていた。ジェーンの車いすを押すユズについて行った。
昼でもカジノの中は暗くて、ネオンのようなものがキラキラしている。これじゃあ昼なのか夜なのかはちょっとどうでも良いような雰囲気がした。ジャラジャラとスロットではコインが流れ出て、ブラックオアレッド?とルーレットが回されていて、ビンゴをやっている一角もあれば、ダーツで盛り上がっている一角もある。
「ここは、フェニックスでは一番大きなカジノね。場末にいけば、当たり前に人が賭けられていることもあるわよ」
ジェーンが説明している。カジノは楽しい反面恐ろしい一面もあるようだ。賭け事とはそういうものだと理解して臨むべきだ、とジェーンは言う。
「うちのお母さんは私の入院金を稼ぎたくてカジノに手を出したら、大負けして今はディーラーに、ってとこよ。まともに公爵家で稼いでいたらまだましだったのにね。あの人ってユズと一緒で嘘つけないタイプだから、カジノには向かないわ。」
ジェーンは肩をすくめた。かくいうジェーンは父親の血なのか、いかさまが横行するルーレットで20万ジュピターを稼いでいた。父親は今、南側の軍にいて、噂ではネプティーヌへ派遣されているとのことだ。
ガヤガヤとした喧噪の中、ユズは憧れのバニーガールを見つけた。カジノのバニーガールの服は、メイド服みたいでスカートもミニではあるが、丈があって、いうほどエッチな感じではなかった。
「ねえ、アレク、あれなら私も着ていいと思わない?」
ユズがこそっと耳打ちをしてきて、アレクシスはどきっとした。
「いやアウトだろ」
あんなに短いスカートをほかの女が着るのは何とも思わないが、彼女が着るのは目に毒というやつである。ちょっとかがめば見えてしまう。自分だけが見るのではない限り、到底許せるものではない。アレクシスは思考がバカになってしまっていたので、慌てて脳内からバニーガールの衣装を着たユズを追い出す。
「可愛いわ、ウサギだわ」
ユズは目を輝かせてバニーガールを見ていた。彼女は先ほどブライアンが言ったことを聞いていなかったのか、聞いても理解しなかったのか・・・まあそんなところも可愛くはあるのだ、とアレクシスはため息をついた。
「お兄さん、イケメンね、これどうぞ」
バニーガールがアレクシスに飲み物をくれる。このバニーガールは先ほどのバニーガールと違い、露出も多いし、レオタードだ。大きな胸も滑らかな足も嫌というほど強調されていた。ユズはジェーンの車いすを持って、興奮している。
「お、大きいね」
「ユズったらもう、とっても可愛いわ」
ジェーンは慣れているのか、ユズが同じ女性であるのに悩殺されそうなのが、とても新鮮で面白かった。ちょっと待って、寄せても上げてもあんなけしからなくはならんだろ、何を食べたらあんなになるんだ、とユズはバニーガールの胸にくぎ付けである。アレクシスはゴン、とユズに拳骨を落とした。
「刺激が強いなら、いつでも出れるんだぞ」
「まって、アレクはなんとも思わないの?見慣れてるの!?」
「こんなとこはお前の付き添いじゃなきゃ来ねえ。」
「なら、アレクも初バニーってことでしょ?く、悔しい、、私だけ動揺してしまったじゃない」
ユズはパタパタと赤い頬を扇いで、ジェーンの車いすを押す。ポーカーが盛り上がっているので見物をする。知っている人がいた。
「エリーは女王なの。ここらで勝てる人はいないわ。」
「公爵令嬢がこんなとこに入り浸っていいもんなのか。」
「エリーは身分を隠してるわ。エントリーもエリーだしね。みんな暗黙の了解よ。」
ジェーンが説明する。エリザベスは無双だったが、しかし挑戦者はあとを絶たない。
「あら、ジェーンにユズ・・・あと・・・誰だったかしら?」
エリザベスは声をかけてくれた。ユズのことはユズと呼んでくれと言ったら、エリザベスもエリーで良いと一昨日の夜話したきりだった。アレクシスは女に迫られることは多々あったが忘れられたことはなかった。実際名前も自分は知らないが相手は知っているということはざらである。この女には自己紹介したはずだ。なんで簡単に忘れられているのか、アレクシスに興味を示さない女は珍しい。それか身分至上主義で公爵くらいの位だと騎士は眼中にない、ということも考えられる。
「アレクシスだよ、一応私の騎士なのよ。」
「ああそうだったわね、ごめんなさいね、アレクシス、私はエリーよ。ここではエリーと呼んでね。」
有無を言わせない笑みでエリザベスはそういう。
「火遊びですか、隅に置けないもんですね」
アレクシスは嫌味を言った。
「私は傷物ですもの。お父様は何も言わないわ」
「傷?ジェイドが治してくれるよ」
「まあ、ユズ、ありがとう。優しいのね」
エリザベスはにこっとユズに微笑んでくれた。エリザベスはフェニックス辺境伯の分家の次男と婚約していたが、ステラによって婚約者を略奪されたのだという。そういうことは以前もあったため、今回はより強固な婚約を結ばなければならないと、婚前交渉まで踏み切ったが、それでもステラに略奪されてしまった。
「フェニックスでは割と当たり前なのよ、婚前交渉。でもエリーは結構大事に取ってたのよね。」
「そうね、絶望して、あんな強硬手段を取ってしまったわ、あなたたちには迷惑をかけた。で、私はもう結婚は諦めたから、好きに生きることにするのよ。ジェーン、あなたの病の完治に生贄が必要なら喜んでなるわ」
ステラを山に捨て、彼女の部屋をめちゃくちゃにしたことである。エリザベスは達観しているようで、希死願望もあるように投げやりなところもあるようだ。いっそ公爵なんて捨てて、平民として生きた方がまだましよね、私も旅に出ようかしら、とも言っている。
「ステラはなんであんなにエリーのものを欲しがるのかしらね。」
「欲しがったって、男が簡単になびくのが悪くないか?」
「ステラのほうが男受けがいいのは事実だわ。私は可愛げなんてもの持ち合わせていないのよ。全部ポーカーの強運に取られちゃってるのかもね」
「エリーの良さを男が分からないだけだわ」
ジェーンはフォローするが、エリザべスの失恋の悲しみはまだ癒えていないようだった。恋とは厄介な病気のようなものだな、とユズは腕を組む。恋の病は恋で治すとか聞いたことがある。ユズにはあまり経験がなかった。片恋の辛さくらいしか分からないので、なんとも言うことができない。
「アレク」
「なんだ」
「失恋した女の子はどうやって慰めるんだ?」
「知らねえわ。」
「お前、そんなだから顔しか良いところがないって言われるんだぞ」
「は?」
アレクシスは眉間にしわを寄せてユズを睨んだ。
「私が失恋したら、ジェイドに慰めてもらうわ」
「・・・・上等だこら」
アレクシスは引きつった笑顔で、エリザベスに近づいた。
「お嬢さん、でしたら俺と一夜どうですか」
アレクシスはあほだと、ユズは思った。ジェーンもそしてエリザベスもこの人はきっとこの秀麗な容姿だけで周りからちやほやされて生きてきたのだろう、そんな生ぬるい目が三対、アレクシスを見ていた。
「エリーごめん、アレクをあてにした私がバカだったわ」
「うんん、ユズ、気遣ってくれてありがとう。アレクシス?ごめんなさいね、答えはノーだわ。出直してきてくれる?」
「・・・・なんでだ」
アレクシスは振られたことに納得できていなかった。
「ジェーン、ユズ、私気晴らしにカフェにでも行きたいわ。」
エリザベスはそう提案した。ポーカーでは気晴らしにならなかったらしい。一行は、カジノを出て、カフェテリアに場所を移した。
***
白い足だった・・・とジェイドはジェーンの右足を思い出していた。カチコチになっていることだけに着目していたが、あの白さは異常だったように思う。あの白さは肌の白さではない。
「なあ、ブライアン・・・死ぬときって全部真っ白になるのか?」
「固死の病の患者はそうですね、髪まで真っ白になります。」
「・・・色素が全部抜けるのか。」
「・・・そっちの方面で攻めたことはなかったですね。」
ブライアンはそれは興味深い視点です、と図書館で文献を探し出す。探していれば、読んだことのない本に出会って、想像以上に時間を使ってしまいそうになる。初めての外に好奇心が抑えられない。ちょっと日焼けもしたし、足がズキズキと動かすだけで痛む筋肉痛というものを初めて経験している。痛いということは生きているということなのだな、なんて考えてしまうくらいには、外部の刺激が強く、心が終始興奮していた。
ジェイドは色素がなくなってしまうことに注目していた、何か手掛かりになる実証記録はないのだろうか、席に戻ることもなく必死に文を目で追った。
・・・色素は、魔力だと聞いたことがある。ジェイドはエルドラドの髪が白銀で、綺麗だと褒めたらそう返ってきたことを思い出した。エルドラドの髪の毛は元来黒だけど、魔力が多すぎて、白銀になっているのだと。色素が抜けているのではなく、魔力が注ぎ込まれているということなのか・・・それに身体が耐えられなくて、固まるのかもしれない。そういう魔法があるものなのか、ジェイドは調べることにした。手始めに、兄貴に手紙を書く。魔法のことは専門家に聞くのが手っ取り早い。せっかく連絡が取れるようになったのだから、ジェイドは便箋に筆を走らせた。
***
結局ユズがアレクシスを連れて、図書館へジェイドを迎えに来た。図書館は閉館間際である。
「もうこんな時間か、ユズ、楽しかったか」
ジェイドはやつれ気味にユズに尋ねたら、十倍の返事が返ってくる。
「ええ、ええ、とても。バニーガールを見たの。すっごかった、あとね、アレクが振られて、ちょっとそれが、ひどくって笑っちゃう」
アレクシスはユズの頭を掴んで、握力に力を籠める。
「振られたのか?お前が?」
ジェイドは驚いたように問い返す。アレクシスはもてはすれ、振られることはないと思っていた。まあ、ユズには当てはまらないのが現状だが、通常の女性であれば、この顔に靡かない女は滅多にはいないはずである。初対面じゃなければ、性格を知っていれば、とかいろいろ要素はあるのだが。ユズはアレクシスのアイアンクローを抜けて、彼の誘い文句を一言一句違えずジェイドに伝えた。ジェイドは頭を押さえた。
「アホか、本当に顔だけで生きてきたんだな」
「・・・お前、失礼だよな、殺すぞ?」
アレクシスは未だ納得できていないのか、不名誉なことだ、とイライラする。
「お前が失礼だよ!前から思ってたが、女の子を何だと思ってんだ!」
「慰めるって、そっちの意味だろ?」
「違うわ!で、エリーは出直せって言ったんだろ、出直す気はあるのか」
「・・・出直す・・・まあ、あの女を落とすってことだろ。不名誉は雪ぐ。大丈夫だ、問題ない。」
自分で何とかする、とアレクシスは宣う。絶対問題しかないような気がする。ユズはブライアンを引っ張ってきた。ブライアンは本を読んだままほとんど引きずられている。
「身体がとてもしんどいです、熱を持っています」
「大丈夫か?外傷なら治せるが」
「筋肉が壊され、細胞分裂が起きて痛んでいる・・・冷やすぐらいの対処しかありません」
ユズは今日、運動したからだ、明日も今日以上に動けば三日目くらいで楽になる、と体育会系にアドバイスをしている。ジェイドは冷やしタオルに保冷魔法をかけて渡してやった。ここからは遺跡に戻るよりは公爵邸が近いので、ブライアン以外は公爵邸に戻ることになった。
「いいかブライアン、明日朝また走り込みからだからな、さぼるんじゃないぞ」
「ええ・・・」
ユズがメニューを言い渡して、ブライアンは無理やり頷かされていた。研究にも体力が必要!健全な精神は健全な肉体あってこそ!ユズの言っていることは一理あるので無碍にはできないブライアンであった。




