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4。instringe

「ねえ、なにして遊ぶ?」


今朝と昨夜、体で『遊び』の意味を思い知った少女は、その言葉さえ恐れることになった。体をふるえるその姿は、女王に愛しく見えるだけ。


「し、仕事、国事はっ…。」


話すたび快感が訪れる。ただの単語でこんな快感。なら、もし平叙文を終えたらー。


「そんなことより、儂はきみと話したい。」

「でもっ、国が、だめ…。」

「この国は元々台無しだ。心配はいらない。」


断固たる声が少女を驚かせた。今の国の状況を認知している人とは思えないぐらい、女王の声は淡白だった。


「儂はきみを愛している。だから儂はきみをー。」

「ちっ、ちがっ…。」

「おや?」

「それは、ただの間違いっ…!」


これ以上話すのは無理だった。体が燃え尽きて、指さえ動けない。ぐったりとしている少女の体の重みを女王は受け取った。


「儂の『愛』が、ただの間違い、だと?」

「ひゃ、いっ…。」

「おもしろい。」


感情ごと否定された女王は、瞳の奥からひらめきが放たれてー。


「ねえ、教えて。きみはなんで儂のこの気持を、間違いだと思う?」

「あひぃっ、ふぅっ!」


耳を犯す声が、リミットまであと少し。少女の魂はもうぼろぼろ。もはや考えることも答えることもできない。


「あっ、はぁっ…!」


少女の体が震え、なんとなく、足の方が濡れている気がした。満足感に沈んだ瞳から力が抜ける。後傾姿勢になった少女は果てしなく愛しい。


「陛下。」


だが、突然の邪魔で女王の幸せは尽きてしまった。


「急な報告があります。」

「へえ。」


全てがにこりとする。だが、目が笑ってない。冷たい空気に気づいた少女は、ふと、昨日のことを思い出す。もし、昨日みたいに、突然攻撃したらー。


「陛下っ…。」


喘ぎながらも頑張る少女を見て、女王は首をかしげる。もう考える力さえ残ってないはず。話すたびに快感を呼び起こしたから。なのに、今の少女の涙は、なんだか違う臭いがする。


「わたくしのせいで、陛下が働かないとー。」


自分のせいで国が崩れる。少女は知っている高利貸に売れる大人と望まなくても捨てられる子供の数を。まるで、少女みたいにー。


「…大嫌い。」


こんど動けないのは女王。衝撃の現実を否定しても、変るのはなにもない。驚きすぎたあまり少女の感度を操ることさえ忘れ、おかげで少女はすこし正気に戻った。固まったまま、なにも言わず少女を見ていた女王がようやく声をだした。


「よかろう。なら、一緒に行こう。」

「そんな!」

「大丈夫。きみは儂のものだから。」


顎を触る手がまた快感を呼び起こしても、少女はしゃっくりを抑える。


「だめです。」


少女の瞳が初めて光る。少女はこれ以上、捨てられる人を見たくない。捨てられた人だけが、いずれ捨てられる命を救える。


女王はなにも話せない。彼女は猛烈に感動していた。煌めく瞳は、目が死んでいる時とはまた違って、生きている事が感じられて。それが、愛しすぎてー。


「ああー。」


突然近づいた女王が少女の足を触れた。感覚は操られてないのに、素肌と素肌が触れる感覚で、少女は意識を失いそう。唇を噛み、我慢する顔を見たら、もう無理ー。


「綺麗な肌だ。断ち切るにはもったいない。」

「えっ?」


聞き間違いだと思ったが、聞こえてくる返事は現実を呼び覚ました。


「束縛具はだめ、あざができる。」


女王の瞳に脅威が閃く。初めて感じる『愛』の感情に女王はもう狂っていた。


「いい方法を思いついた。きみが逃げたら、ここにいるものを殺す。戻るまで、一時間に一人ずつ。」

「そんな、どうして…。」

「当たり前だろう?」


女王はそっと傾げて、幸せが満ちた笑顔を見せた。


「きみがこわれると、もったいないから。」


おかしい。おかしすぎる。怖いほど束縛されたい。魂の最後の一粒まで捧げて、完全にあの人のものになりたい。人形みたいに弄ばれて、犬みたいに可愛がれたい。


「ーっ。」


このままでは思わず頷いてしまう。理性が行動を止める。これは間違えた事。してはならない事。だから、我慢しなければ。


でも、女王に少女の答えなどいらない。少女が賛成しなくても、決して見逃せないから。


「素直にここで待ってろ。儂がきみの足を切れないように。」


軽い快感が心に触れる。恐怖より快感を感じる自分は、狂ってしまったのか。ではないと、これもまた、女王の支配下。またはー。


「まさかわたくし、被加虐嗜好がー。」


ぼーっとしているうち、再び誰かが扉を叩いた。女王は自分以外の人が入らないように結界まで仕掛けた。皆の無事のため、聞かないふりをしようと思ったがー。


「そこにいるんだな。」

「子の声は…。」


外からメイド長の声が聞こえる。歪んで、震えすぎて、見逸れるぐらい。


「お前の荷物を運んできた。はやく出てこい。」

その声に、秘密をばれたような感じ。本当はずっとここにいたいから、荷物をそろえようとした。だってあの人と一緒なら、体が縛られたままでも、幸せになれるような気分。


人形遊びでもいい。特別な人形になれるなら。その手に全てを任せるなら。


(いいだろう、逃げることではなくて、ちょっとだけの抜け出しだから。)


迷っていた手が扉を開け、外へ踏み出した時ー。


「捕まえろ。」

「!?」


口をふさぐ激しい手つきで、少女は意識を失った。

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