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最終話:描く理由
「……」
静かな部屋。
ペン先が、迷いなく動いている。
「……」
タブレットの上。
線が、自然に繋がっていく。
「……」
表情。
間。
空気。
「……」
全部、そこにある。
「……」
(……描けてる)
弓乃は、小さく息を吐いた。
「……」
少し前まで。
同じように描いていても、どこかで止まっていた。
「……」
迷って。
崩れて。
「……」
(分からなくなってた)
「……」
何を描きたいのか。
どう描けばいいのか。
「……」
全部。
曖昧だった。
「……」
でも。
「……」
今は違う。
「……」
迷いは、ある。
「……」
不安も、消えていない。
「……」
それでも。
「……」
(……描ける)
「……」
ペンが、止まらない。
「……」
そのとき。
「……まだかかりそうですか」
「……」
声。
「……」
振り向く。
陽斗。
「……」
ドアのところに立っている。
「……」
少しだけ、笑う。
「……」
「……もう少し」
「……」
「……じゃあ待ってます」
「……」
「……中で?」
「……」
「……邪魔じゃなければ」
「……」
弓乃が、少しだけ考える。
「……」
それから。
「……いいよ」
「……」
陽斗が、中に入る。
「……」
少しだけ距離を取って、座る。
「……」
何も言わない。
「……」
ただ、見ている。
「……」
弓乃は、もう一度画面に向き直る。
「……」
ペンを動かす。
「……」
(……見られてる)
少しだけ、意識する。
「……」
でも。
「……」
(……いいか)
「……」
そのまま、描く。
「……」
線が、伸びる。
「……」
感情が、乗る。
「……」
迷いも。
不安も。
全部。
「……」
(……これでいい)
「……」
ペンが、止まる。
「……」
最後のコマ。
完成。
「……」
「……できた」
小さく言う。
「……」
陽斗が、少しだけ立ち上がる。
「……」
近づく。
「……」
画面を見る。
「……」
しばらく、何も言わない。
「……」
それから。
「……いいと思います」
「……」
弓乃が、少しだけ笑う。
「……」
「……それ、前も言ってた」
「……」
「……ちゃんと、いいときしか言ってないです」
「……」
「……そっか」
「……」
静かな時間。
「……」
陽斗が、ふと口を開く。
「……」
「……なんで、描いてるんですか」
「……」
弓乃が、少しだけ止まる。
「……」
(……なんで)
「……」
少し前なら、答えられなかった。
「……」
でも。
「……」
今は。
「……」
「……好きだから」
小さく言う。
「……」
「……描くのが」
「……」
「……楽しいから」
「……」
「……」
陽斗が、静かに聞いている。
「……」
「……あと」
少しだけ間。
「……」
「……伝えたいから」
「……」
「……」
「……今の気持ちとか」
「……」
「……全部」
「……」
言葉にする。
「……」
「……だから」
「……」
「……描く」
「……」
はっきりと。
「……」
陽斗が、少しだけ笑う。
「……」
「……いいですね」
「……」
弓乃が、少しだけ照れる。
「……」
「……陽斗くんは?」
「……」
「……なんで、いるんですか」
「……」
少しだけ、意地悪に聞く。
「……」
陽斗が、少しだけ考える。
「……」
それから。
「……見てたいからです」
「……」
「……弓乃さんのこと」
「……」
「……」
弓乃の手が、少しだけ止まる。
「……」
でも。
「……」
すぐに、また動く。
「……」
少しだけ、笑う。
「……」
「……そっか」
「……」
それだけで、十分だった。
「……」
静かな部屋。
「……」
ペンの音だけが、響く。
「……」
でも。
「……」
一人じゃない。
「……」
これからも。
迷う。
崩れる。
悩む。
「……」
それでも。
「……」
描き続ける。
「……」
仕事も。
「……」
この気持ちも。
「……」
どちらも。
捨てない。
「……」
だから。
「……」
描ける。
⸻
――迷いも、不安も、全部抱えたまま。それでも、描き続ける。




