仲間はどこに?
レーガとロベルトがテントに入ってくると、目の前の光景にあんぐりと口を開ける。
男は言葉の通り、凍り漬けになっていた。
「判定は、そうだなぁ……B+」
「どうして」
「奴をご覧なさい。氷漬けじゃないか。これじゃあ話が聞けないよ。加減なさい」
「……先生、私『身柄確保』はしたわ」
ロゼッタの言う通りだ。
サモンが言ったのは、『身柄確保でA判定』であって、その手段も程度も、サモンは何も指定していない。
サモンは大きくため息をついて「Aだよ。ちくしょう」と、花丸のシールをロゼッタにあげた。
ロゼッタはそれを大事そうにポケットに入れた。
サモンは杖で男の額を叩く。
「起きとくれよ。アンタに話があるんだからさ」
しかし、魔法が解ける様子はない。
ロゼッタの戦闘魔法の成績から考えると、それもそうか。
サモンは杖でもう一度、男の額を小突く。
「もうお終い」
サモンが魔法を解くと、男はハッとしてサモンを押しのけてテントを出ようとする。だが、ロベルトが咄嗟に男に足をかけて転ばせた。
転んだ男の腕をねじり上げて、その場に押さえつけた。
サモンはため息をつくと、男に杖を向けた。
「『操り人形劇』」
男はむくりと立ち上がると、サモンの前まで歩いてくる。
テーブルにあった縄で自分の足と椅子の足を括り付け、後ろに回した手に手錠をかける。
ようやく男が体の自由を取り戻す。遅すぎる抵抗を睨み下ろして、サモンは問いかけた。
「お前がロウラント・ラグトーアだね?」
「それが何だってんだ」
「捕まえた妖精たちはどこにいる?」
「知りたきゃ対価をよこしな。……そこにいる坊主、体が丈夫そうだな」
ロウラントは、ロベルトをじっと見つめる。
薄気味悪い笑みを浮かべると、ロベルトに向かって舌を出す。
「いい労働力になりそうだ。高値で売れるぞ」
ロベルトは剣に手をかける。サモンは「売る気はないよ」と、きっぱりと言った。
サモンはレーガたちをテントの外で待機するように指示を出し、ロウラントに向き直る。
「情報には、対価がいるんだっけ?」
サモンは生徒がいなくなったのを確認して、ロウラントに尋ねた。
ロウラントは「ああそうだ」と、強気な態度をとる。
彼の持つ仲間の情報は今一番欲しいものだ。
出来る限り正しい情報が欲しい。けれど、ロウラントが話す情報が全て真実という確証もない。
ロウラントに情報に見合う対価をよこせば、情報を提供してくれるだろう。だが、彼が欲しがっているのは、サモンが保護するロベルトの身柄。奴に渡せば、ロベルトは奴隷のように働かされる。
(いや、奴隷そのものになる)
それは避けなくては。
「私はお前に対価を支払って情報を得るつもりはないよ。ロウラント、お前には選択肢が二つある」
「ほう、聞いてやろうじゃないか」
「一つは、大人しく情報を渡して、無事に解放される。もう一つは、死にたくなるような目に遭って、情報を渡す」
「へぇ、俺に暴行でもする気か? それとも魔法で拷問? 意味ねぇぞ。俺はそんなことで喋ったりしねぇ」
ロウラントは余裕綽々といった様子でサモンを見上げる。
たかが暴力で泣いたりしない。苦しんだりしない。
その程度のことで、俺が情報を渡すと思っているのか?
そう言いたげな彼の様子に、サモンは眉を下げる。
魔法で吐かせることなんて容易い。けれど、せっかく『良いもの』を持っているのだ。
―—使わなくては損だろう。
サモンはエイルに渡された資料を掲げた。
普段はしないような、爽やかな笑みを浮かべて。
「ちょっと、聞きたい事がたぁっぷりあるんだけどねぇ」
***
テントの外で待機するレーガたちは、サモンの帰りをけなげに待っていた。
だが、サモンが一向に出てくる気配がない。
レーガは「ちょっと覗く?」と二人に尋ねた。
ロベルトはサモンの言いつけを守ろうとする。ロゼッタも同意見だ。
けれど、テントの中から、ロウラントの悲鳴とサモンの愉快な笑い声が響いている。
サモンが魔法で嫌がらせをしているのだろうか。それとも、三人には想像も出来ないようなことをしているのだろうか。
三人は顔を見合わせて、テントに突入した。
だがそこで行われていたのは、恐ろしい事ではなかった。
顔を真っ赤にして叫ぶロウラントと、それを面白がるサモンの姿があった。
サモンはけらけら笑いながら、資料の内容を読み上げる。
「『二年前、母親と口論した際に『飯がまずい』と言った。その後、母親に『お前の下着を誰が洗っているのか』と怒鳴り返されて戦意喪失』……自分の服くらい自分でお洗いなさいな」
「うるせぇ! 若気の至りだ!」
「若気? アンタ、42歳だろう。二年前が若気か? 母親は現在7……」
「うーるーせーぇー!!!」
ロウラントをこれでもかというほど揶揄い、資料を大声で読み上げていた。
ロウラントは止めることも、抵抗することも出来ずに叫ぶしかない。
サモンはここぞとばかりにロウラントで遊んでいた。
ロウラントが「もうやめてくれ」と言っても、サモンは聞こえないふりでをして、次々と恥ずかしい話をほじくり返す。
サモンはロウラントが降参しても続けた。
エイルが調べ上げた情報を余すことなく使って、ロウラントを屈服させた。
ロウラントの拘束を解くと、彼はもう抵抗する力もなく、だらんと床に座って情報を提供してくれた。
「密猟者の卸先はみんな一緒だ。『デュークの錬成釜の店』だ。地下にある、元オークション会場で今は取引をしている。部屋に入るには、合言葉が必要だ」
「ほほぅ、その合言葉は?」
「……『かくれんぼしよう』」
ロウラントはそう言い残して倒れた。
ロベルトはロウラントの首に触れ、脈を図る。
気絶したことを確認すると、ロベルトはサモンをじっとりと睨んだ。
「先生、やりすぎだろ」
「ちょうどいいかと思ったんだがねぇ」
サモンは資料を脇に挟むと、テントを出る。
ロウラントに聞いた、『デュークの錬成釜の店』を探す。




