見つけたよ
ロゼッタが先頭に立ち、水が示す道を辿る。
ロベルトが、レーガやサモンがはぐれないように気を配りながら、ロゼッタを追いかける。
サモンは大きく欠伸をして、子供たちを追いかける。
「ふあ~ぁ、そんなにこっちを見なくたって、はぐれやしないよ。私が見失うと思ってんのかい」
「どっちかって言うと、僕らが先生を見失わないようにしてるんだ」
レーガがロベルトの行動の真意を説明する。
サモンはレーガたちを見失っても、妖精魔法で捜せる。だが、レーガたちは魔法の応用は教わっていないし、広い王都を手分けして探すとなると、お互いを探せなくなる。
余計な労力の削減と、仲間の守護。
それが目的なのだ。
「あっそ。まぁ、言われてみれば、仲間の位置を知る魔法は三年生の単元だったねぇ」
「それに、ロベルトは魔法が使えないから、余計不安だと思うんだ」
群れの仲間を確認する狼のように、街中の鏡、地面の水たまり、すれ違いに振り向いて、と、ロベルトはこまめに後ろを確認する。
しかも、あまり目立たずにやってのけるのだから、剣術科の教えも侮れない。
レーガ、ロゼッタと違って魔法が使えない分、身体的な部分で補っていかなくてはならない。
サモンは興味なさげに「ふぅん」と言った。
ゴブレットの水は、小さなテントの前で止まる。ロゼッタはサモンの方を振り返った。
「ここみたい」
ロゼッタはサモンにゴブレットを返す。サモンはテントの隙間から見える男の顔を確認した。
資料の男に間違いない。一人だけなのは物足りないが、仕方が無い。
今は、授業中だ。
「ロゼッタ。男の身柄拘束でA判定。テント内封鎖でB判定。逃亡後確保で、C判定」
「ちょっと、先生待ってよ。私にやれって言うの!?」
「当り前だろう?」
ロゼッタの慌てっぷりに、サモンは首を傾げる。この男、本当に分かっていないのだ。
「今は妖精学の授業中だ。教員が先頭切っても意味が無い。ロゼッタ、アンタがやるんだ」
「そんなの、法律違反よ! 『十八歳以下の学外における魔法の使用は一切認めない』」
「だから、そういうルールはコメマークまできちんと見なさい」
サモンが杖で地面を小突くと、砂が風に流れ、文字を浮かべる。
ロゼッタが言った通り、魔法の使用は認められないと書いてある。
だがその下には、『ただし、課外授業等の教育・保護者の監視下であれば許可される』と、小さく書かれていた。
サモンはもう一度、ロゼッタに言った。
「今は、授業中だよ」
ロゼッタは緊張した様子で、「最低ね」とサモンに冷たく言う。
「生徒が怪我をするようなことはしないんじゃなかったの」
「怪我をさせなければいいんだよ。契約上はそうだからねぇ」
「本当、最悪な先生ね」
そう言って、ロゼッタは杖を握りしめる。
サモンは追加で、「妖精魔法をメインに」と課題を付け足す。
ロゼッタは不服そうな顔をするが、今は妖精学の時間なのだ。他の魔法はご法度だろう。
ロゼッタは杖を構えて、目を閉じる。
テント内封鎖でB判定は確実。なら先に、テントから出られないようにしよう。
その後で、テントに飛び込んで、男の身柄確保。
(でも、どうやってテントを封鎖するの?)
ロゼッタが考えている後ろで、サモンは杖を握って腕を組む。
レーガが助言しようとすれば、魔法で口を塞ぎ、ロベルトがサポートしようとすれば、魔法で動けなくする。
「ストレンジ先生、どうして止めるんだ」
「当り前だろう。今は彼女の課題だ」
ロゼッタに課されたのは『妖精魔法に対する苦手意識の払拭』と、『妖精魔法の基礎の構築』。
ロゼッタは戦闘魔法を得意とする反面、妖精魔法が苦手だ。
それは、戦闘魔法は属性と使用用途、魔法の展開方法が決まっていて、扱いやすいのだ。
水は空気内に含まれているものを『集める』
風は流れているものを『掴む』
それを呼び出す動作が決まっていれば、高度な魔法でも応用できる。
けれど、妖精魔法はその動作が戦闘魔法とは違う。
家事サポートは『お願い』・『協力』・『ご褒美』
悪戯は『一緒に』・『遊ぼう』・『驚かせよう』
空を飛ぶのは『楽しい』・『空の色』
動作が一つではないし、間違えると魔法が変わる。単純に覚えにくい。
ロゼッタが妖精魔法を苦手とする要因はここにあるのだ。
それゆえに、ロゼッタは『妖精魔法が使えない』と誤認し、より魔法に対する苦手意識を強めている。
サモンは「ロゼッタ」と、彼女を呼んだ。
「……サポートはするよ。もちろんね。そうでなければ、教員がいる意味が無いだろう。もしも、自力で頑張りたいなら、私は見てるだけにするがね」
サモンがそう声をかけると、ロゼッタは不安そうに振り向いた。
レーガやロベルトも、緊張した面持ちだ。その真ん中で、サモンだけが平気そうな顔をしている。
「失敗したら、どうするの?」
サモンは欠伸をした。
「おや、失敗する予定なのかい?」
アンタは平気だろう? ――そう言いたげなサモンの顔に、ロゼッタは少し安心した表情を見せた。
サモンは意地の悪い顔で、杖をくるりと回す。
「妖精魔法は信じれば使える、簡単な魔法だよ。柔軟にお考えなさい。アンタがするのは、魔法の展開を気にすることでも、使う呪文に悩むことでもないのだから」
そこまで言うと、ロゼッタは笑った。
いつもの、自身に満ちた笑顔だ。
「大丈夫よ、私出来るわ」
「その意気だ」
ロゼッタが前を向くと、サモンは杖を下ろす。
レーガとロベルトの魔法も解けて、二人も警戒態勢に入る。
ロゼッタは深呼吸をした。
「妖精の悪戯―—『出入り禁止』」
ロゼッタが呪文を唱えた。杖の先から、紫色の光が飛び出して、テントを囲む。
ロゼッタはテントに突入した。サモンも続けてテントに入る。
ロゼッタは、驚く男に向かって、さらに呪文を重ねた。
「悪戯―—『妖精の雪遊び』!!」
ロゼッタの背後から青年ほどの妖精が現れ、ロゼッタと杖を重ねるように腕を伸ばす。
吹きつけられる吹雪は、テントの外にいても足が震えてしまうほど冷たかった。
風が止み、雪が溶け、ようやくロゼッタが杖を下ろした。
「……どうでしたか。ストレンジ先生」
そう尋ねるロゼッタの表情は、輝いて見えた。




