二十七.フラグは立てるのではなく、立つもの
「とまぁ、こういう訳なんだ。火の勇者と水の勇者。彼等の呪縛から精霊を解き放つ――レイとアンの目的を達成するには、ポポロンの協力が不可欠だと思ってな」
「ふむふむ。そっかぁ~なるほどねぇ~~」
リーズとレイ、アンは、旅の目的をポポロンへと伝える。闇精霊と契約したレイの話、アンがエルフの巫女である事、そして、風の国を襲っていた魔族四柱の一人、〝朱雀のラウム〟を打ち破り、国を護った事。
ポポロンからすると、闇精霊や魔族四柱など、想像していなかったような単語が大量に出て来たため、最早どこからどう突っ込んでいいのか分からないような状況であった。
「いやぁ~、ボクが工房に籠ってる間になんだかすっごい事になってたんだねぇ~」
「ポポロン、突然の話で驚いたと思う。ただ、まぁ、魔族四柱の一人を倒した事で、彼等も動き出す可能性もある。俺達に力を貸して欲しいんだ」
レイ達の話をポポロンは『うんうん』と頷きつつ最後まで聞いていた。彼女が用意してくれた蜂蜜入りのホットミルクは、戦いが続いていたレイやアンの心を落ち着かせてくれる。
暫く考え込む様子だったポポロンだったが、やがて、顔をあげ、笑顔でこう言った。
「わかった! お仕事もあるから今すぐ一緒に旅立つって事は無理だけど、出来ることなら協力するよ!」
「ありがとう、ポポロンちゃん。やりましたね、レイ様!」
「ああ、アン。ポポロン、よろしく頼むよ」
改めてレイとアン、リーズと順に握手をするポポロン。協力を取り付けたところで、レイは早速ポポロンへお願いをする。
「なぁ、ポポロン。君の力を見込んで頼みがあるんだ。俺とアンの武器と防具を作ってくれないか?」
「え? レイ様!?」
その発言を予期していなかったのか、先に反応したのはアンだった。
レイは今後更に激しくなるであろう戦いを予見し、考えていた。
レイの軽鎧や魔剣はルシアの力を具現化したに過ぎない。ルシアによると闇闘気のみで魔剣や軽鎧を創り出すよりも、精霊石や特殊な金属を用いて作った、精霊の力や魔力を溜める事の出来る武具へ闇闘気を透過した方が威力は増すとの事だった。
アンは、エルフの里で着ていた白いチューブトップの服にスカートを着ているが、特出した耐性を兼ね備えている訳ではない。レイと共に戦闘へ出向く以上、彼女の強化も必須となって来る訳だ。
「成程、それくらいならお安い御用だよ。精霊石と、あの金属と……そうだねぇ~アンさんの防具なら、精魔糸も必要だね。普通なら結構高くなるんだけど、材料費の一部の費用だけいただく事にするねっ!」
「……お金は取るんだな」
「そりゃあそうだよ、こっちも商売なんだから! でも特別価格で金貨五枚にしておくよ!」
「レイ、ポポロンが一点物を作る場合、最低金貨五十枚はくだらないぞ? あと通常は1年待ちとも言われているな」
金貨五十枚。王宮直属の騎士団三ヶ月分の給料でも足りないくらいだ。ただし、ポポロンの鍛冶師としての実力と、武具に使用する材料費を考えると金貨五枚でも破格の値段である事は間違いなかった。
「わかった。それでお願いするよ」
「商談成立だねっ。あ、でもレイってば、騎士だから剣もあるんでしょ? それに、そんな漆黒の軽鎧身につけてるんだからさっ、必要ないんじゃないの?」
ポポロンは、レイの身につけている漆黒の軽鎧が普通の鎧でない事を一目で見抜いていたのだ。レイが目を閉じると、漆黒の軽鎧が靄となり、レイの隣へ人の形を成していく。そして……。
「ポポロンちゃん、初めまして。私がレイと契約した闇精霊ルシアよ~」
「うわぁ~~びっくりしたぁ! やせいの〝闇のお姉さん〟があらわれたよ!?」
ビスチェ風の衣装の上から漆黒のケープを羽織った闇のお姉さんがポポロンへ向け一礼する。ルシアは闘気の具現化で、ある程度衣装を変える事が出来る筈なのだが、ビスチェ姿はどうやら普段着らしい。
ルシアがポポロンへ、レイの軽鎧や魔剣の説明をする。レイが、精霊石等を使って闇闘気をより使い易い形に昇華したいという要望も伝える。
「そういう事だねっ。わかったよっ! ボクに任せといて!」
ポポロンが注文を詳細にメモしたところで、ルシアが話題を振る。
「そういえば、ノームは元気にしてる~?」
「うんうん。ノームは面倒くさがって出て来ないと思うけど、元気だよ」
「まぁ、彼はそんなタイプの精霊よねぇ~」
彼という事は、ノームは男性型の精霊という事になるのだろうか? どうやら風精霊のように露出魔精霊ではないらしい。
【リーズ、此処はワタクシもルシアに対抗して飛び出した方がいいかしら?】
『シルフ、今君が出ると収拾つかなくなりそうだからやめてくれ……』
心の中でシルフを諫めるリーズなのである。
「そういえば精霊石で思い出したけど、ボクの弟子たちがそろそろ採掘から帰って来る頃なんだけど、遅いかもだねぇ~~」
「え? 迎えに行かなくていいんですか?」
「いやいや、一度採掘始めると、二日三日籠るドワーフもいっぱいいるからねっ。心配はしていないよっ。最近ドワーフの子達が失踪する事件が国であっててね~。まぁ、あの子たちはボクが鍛えてるし、大丈夫だと思うんだけどね~」
『ハハハ』と笑うポポロン。楽観的というか能天気というか、ドワーフの気質なのかもしれない。彼女の発言で場に顕現していたルシア、レイ、そしてリーズまでもが顔を見合わせていた。
「なぁ、いまのは……」
「盛大なフラグが……」
「立ったわね」
頷く三人。土の勇者の弟子ならば、確かに鍛えている可能性はある。
が、こういう直感は当たる事が多いものである。
「え? ルシア様、何が立ったんですか?」
意外とアンものんびりした性格だったようだ。
◆◇◆
グランディの城下町から北へ半日ほど歩いたところに精霊石の採掘場がある。 レイ達は銀翼鷲の銀次郎へ乗って時間短縮。あっという間に現地へ到着する。
尚、ポポロンは自宅で留守番だ。
元々は切り立った岩山の麓にある採掘場は、長い歴史の中で自然に出来た洞窟型のダンジョンだったらしい。土の国を発展させるため、ダンジョンに巣食う魔物を討伐し、精霊石や鉱石を採掘する洞窟へと創り変えたのだそうだ。
【何かあった時のために、あいつとも連絡取っておくわ】
『ん、あいつ?』
【こっちの話よ】
ルシアはどうやら精霊同士の意思伝達で誰かと連絡を取っているようだった。
「ここが採掘場だな」
「ポポロンちゃんによると、採掘場の奥に弟子の子達は居るみたいですね」
「失踪事件があっているなら、犯人と遭遇する可能性もある。心して行くぞ」
リーズの注意喚起に頷く二人。三人は洞窟の中へと足を進める。
採掘がしやすいようトロッコまで整備された洞窟。ポポロンより内部の地図を貰っているため、一行は迷う事なく奥へと進んでいく。
途中鉱夫らしきドワーフへ声をかけると、ポポロンの弟子たちは朝から奥へ行ったきり、まだ戻っていないそうだ。
朱、蒼、翠、岩盤に埋まる精霊石の天然光が洞窟内を照らす。純度の高い精霊の魔力を吸収した精霊石ほど、光は強くなる。
奥へと進めば進むほど、外壁に案内用の松明がなくとも天然の光のみで洞窟内を探索出来るようになっていた。採掘場の最奥へと進む直前、レイと契約している闇精霊ルシアが異変に気づいた。
【これは……いけない! レイ急いで、魔属性の妖気を感じるわ!】
「なんだって! 皆、ルシアが異変に気づいた! 急ごう!」
「え? 分かりました!」
「なっ、シルフもおかしいって言っている。行こう」
そして、レイ達は精霊石採掘場の最奥へと辿り着くのだった。




