二十四.新たな旅立ち
あれから数日が経った。魔族を退け、平穏を取り戻した風の国。魔族が倒されたという事実を知った兎耳族の住民達。風の谷はお祭りムードだった。
レイとアンは、勇者リーズに風の谷を案内され、キャロット宮殿や、聖なる水が流れると言われる清風の滝など、観光名所を巡り、束の間の休息を堪能する事となる。
冒険者ギルドでの手続きも終え、晴れてレイとアンのパーティとなったリーズ。
そして、いよいよ風の谷を旅立つ日。風の勇者リーズの旅立ちとあって、親しい者達が見送りに来ていた。
「リーズ、もう行っちゃうのね……気をつけて行って来るのよぉ~」
「ママ、泣かないでくれ。何かあった時は風精霊の翼による空間転移で戻るから」
白いハンカチで長い睫毛がカールした瞳を押さえ、別れを惜しむデラウェア・プロティーン。涙ぐみつつも見送りに集まった山里亭の兎耳達。普通なら涙を誘う光景なのであるが、大胸筋をピクピクさせるデラウェアの様子にレイは思わず苦笑してしまう。
「レイちゃ~ん。リーズをよろしくねぇ~」
「ああ。勿論だ」
「あの子、ああ見えて、可愛いところもあるから」
「ん……?」
小声でレイに耳打ちするデラウェア。その様子を見ていたリーズが慌ててママへ突っ込みを入れる。
「おい、ちょっとママ! レイに何か吹き込んでないだろうな!?」
「何でもないわよ~ん。風の谷の事は任せておいてって言っておいたのよ」
「そうか。分かった。ママ、留守中面倒をかけるがよろしく頼む」
「ええ、任せておきなさい!」
すると、リーズが指を口に咥え、指笛を鳴らす。上空より大きな銀色の翼をはためかせ、先日の攻防戦でも活躍した巨大な鷲が舞い降りる。風の勇者の横に舞い降りた鷲。
リーズが頭を撫でてあげると、銀翼鷲は心なしか嬉しそうに金色の瞳を細める。
「この子は私のペット、銀翼鷲の銀次郎だ。これからよろしく頼む」
「よろしく頼む、銀次郎」
「よろしくね、銀次郎ちゃん」
レイとアンが声をかけると、甲高い声をあげて返事をする銀次郎。四~五名は乗れそうな巨大な背中。
風の勇者リーズはシルフの力に付随した精霊術による空間転移が使えるが、レイとアンが一緒に移動出来る訳ではないのだ。高速で国を渡る事が出来る銀翼鷲は、レイにとっても貴重な移動手段であった。
「さぁ、そろそろ行こうか」
「嗚呼」
「はい、レイ様!」
銀翼鷲の背に乗る三名。風の谷の清き風を思い切り吸い込み、翼を広げる銀次郎。
「気をつけるのよ~~ん」
「「「行ってらっしゃいませ~~」」」
銀色の翼は上空へと舞い上がり、こうしてレイ達は風の国を後にする。見送る兎耳達があっという間に小さくなり、眼下に風の国の雄大な自然が姿を現す。
「レイ、アン。しっかり掴まってるんだぞ!」
「す、凄いですね~! こんな景色見たの、初めてですぅ~!」
「だな」
この世界は広い。大自然を噛み締めつつ、まだ見る新しい世界に思いを馳せるレイとアン。
先頭に乗ったリーズがレイへ次の目的地を確認する。
「レイ、目的地は一旦土の国でいいんだな?」
「ああ、それでいい。土の勇者はリーズと親交もあるんだろう? 仲間は多い方がいいからな」
この足ですぐに火の勇者グラシャスや、水の勇者ロイドを止めに行ってもいいのだが、まずは〝精霊と仲良くやっているもう一人の勇者を味方につける方がいいのでは?〟という話になったのだ。
「よし、ここから一気に飛ばすぞ! 頼んだぞ、銀次郎!」
気合の入った銀翼鷲は風となり、半日近くの遊覧飛行。
土の国を囲んだ岩山へ差し掛かり、あっという間に国境へと差し掛かる。
◆◇◆
独立国家――土の国。
土精霊ノームの加護を受け、独自の発展を遂げた国家。
岩山に囲まれた大地からは豊富な資源が採れ、霊鉱石、神剛石、精霊の魔力が籠った精霊石といった、希少な鉱石を元に創られる、武具の精製も盛んに行われている。
「見えて来たぞ。あれが、土の国の中心、自然の要塞と言われるグランディ城だ」
リーズが指差す先、岩山に囲まれた巨大な城が見えて来る。
「私、土の国って初めて来ました」
「ああ。俺もだ」
アンの発言に同調するレイ。
長い年月をかけ、断崖絶壁を切り拓いて造られたグランディ城。通常土の国へ向かうには、複数の山を越えて行かなければ辿り着けないため、陸路で向かうにはかなり困難な場所に位置している。
外敵から攻められにくい城。これこそ土の国が独立国家として発展して来た由縁なのであるが、レイも銀翼鷲のような空から向かう方法が無ければ、この地へ向かおうとも思わなかったかもしれないのだ。
「よし、土の勇者が住んでいるグランディの城下町に着陸するぞ。銀次郎!」
銀次郎の咆哮と共に降り立つ三人。
こうしてレイ達は、土の国――ドワーフの国へと到着するのだった。




