十三.筋肉バニーさんはもてなしたい
「バニーガールだと!?」
【レイ、考えている暇はないわっ!】
外套を脱ぎ捨てたリーズの姿を見た時と全く同じ台詞を吐いたレイ。それもそのハズ、風の勇者リーズに案内されて入ったお店。そこは、風の谷の宿場町、賑わう表通りを抜け、人気のない山の麓にひっそりと構える店。
しかし、中に入ってみると、ラメの入った黒、青、桃色、紫色。色とりどりのセクシーなバニースーツに身を包んだバニーガールが店員として出迎える、そんな店だったのだ。
「わぁー、暗黒騎士様~~♡ リーズの知り合い~?」
「いや、さっき知り合っただけだ」
「え~~? そうなの~? 名前は~?」
「レイだ」
「きゃあ~~~かっこいい~~♡」
どうやら銀髪の暗黒騎士スタイルは女子に人気らしい。そして同様に……。
「いや~ん。エルフちゃん可愛い~~。それにいいもの持っているわね~♡」
「え、えっちぃのは嫌いですぅ~~」
バニーちゃんに密着され、目をグルグル回すアン。ふかふかなソファーに座ったレイとアンを取り囲むバニー達。そんな状況にもかかわらず、リーズは平然と食事を注文している。
「ミッチー、この子達にもいつものを頼む」
「はーい。おっけー、リーズ」
注文を受けた桃色バニーが勇者へウインクする。どうやら親しい間柄らしい。困惑するアンとレイの様子を見たリーズが、ようやく二人へ補足する。
「あ、勘違いするなよ。此処はそういう店じゃないからな。この子達は、私の故郷から連れて来た子達なんだ。出稼ぎのため、此処でひっそりとレストランをやっている」
「そ、そうなのか」
「リーズとはみんな幼馴染なの。よろしくね~♡」
四名のバニーガールは、人里離れたリーズの故郷から中心部である風の谷へと来ているらしい。故郷の料理が食べられるのと、お客さんも少ないため、リーズはよく利用しているそうだ。
【うーん、おかしいわね】
『どうしたんだ、ルシア』
ルシアの念話に心の中で会話するレイ。
【だって、これだけ可愛くて美人のバニーが出迎えてくれるお店でしょう? 普通なら冒険者の男共が放っておかない筈よ?】
『まぁ、確かにそうだな』
女の子が接待するようなお店と言われてもおかしくない訳で、普通に考えるとお客さんで賑わっていてもおかしくない。ルシアはお客さんが少ない理由が気になったようだ。しかし、その疑問は、すぐに解決する事となる。
「お待たせ~~ん♡ 兎耳族伝統料理――野菜たっぷり白猪肉鍋よぉ~ん♡」
「なん……だとっ!?」
刹那、レイの心臓が跳ね上がる。厨房の暖簾を捲り、大鍋を抱えたバニー。ラメが入った筋肉。反り上がった睫毛。肌に密着した黒いバニースーツと網タイツが余計に露出している上腕二頭筋と太腿を強調させている。
「レイ、アン。紹介する。ここ山里亭の料理長でありママの、デラウェアだ」
「デラウェア・プロティーンよ。よろしくね、エルフのお嬢ちゃん、そして、ボ・ウ・ヤ♡」
その迫力に思わずレイも生唾を飲み込む。
【あれは……歩く筋肉ね……】
『嗚呼……』
テーブルへ鍋を置き、上腕二頭筋を強調させつつウインクをするデラウェア。このお店にお客さんが寄り付かない理由を察するレイ。アンも開いた口が塞がらないといった表情だ。
「さぁ、騙されたと思って食べてみてくれ」
「え、嗚呼……」
白濁のスープに野菜と肉の塊。デラウェアの視線が気になりつつも、テーブルに置かれた鍋からはいい香りが漂って来ていた。レイは小皿に白猪の肉を取り、スープと一緒にゆっくり口へと運ぶ。
「う、美味い!」
「本当です、このお鍋、美味しいです~」
野性的な猪の肉。口に含んだ瞬間、肉汁が溢れ、旨味成分が広がっていく。野菜と肉の出汁がしっかり染み込んだスープも具材と馴染んでおり、食べれば食べる程クセになる味だった。
「気に入ってくれてよかったわ~ん♡ じゃあ、ゆっくりしていってね!」
厨房へと下がっていくデラウェアの後ろ姿も、それはそれは迫力と貫禄のある様子であった。
「美味しい料理と一緒なら、話も弾むだろう? 此処は私の知っている子ばかりだ。お客さんも私達のみ。よって、周囲の目も気にする必要はない」
「成程、気を使ってくれていたのか」
どうやらこっちの事情を察してのこの店だったらしい。リーズの合図で、それまで接待……ならぬ接客をしていたバニー達もバックヤードへと下がっていく。
レイとアン、そしてリーズ。三人だけとなり静かになったところで、兎耳族郷土料理の味を堪能しつつ、レイはリーズへ火の勇者とパーティを組んでいた事や、彼等に裏切られた事、闇精霊と契約した事など、これまでの出来事を話していく。
「闇精霊っ!? 君、まさかあのルシアと契約したの?」
「あのルシアって、ルシアを知っているのか?」
「嗚呼。私が契約したシルフから話は聞いている。私達、勇者がそれぞれ力を借りている四大精霊とは別次元の精霊。それが闇精霊ルシアだと」
別次元という言葉に、レイにも心当たりがあった。ルシアが自らを説明した際、〝混沌〟と〝死〟を司り、混沌流へと逝き着いたあなたの魂を導く存在だと告げていた。事実レイの魂はルシアによって拾われ、こうして新たな生を受け、彼は今此処に存在しているのだから。
「そうか。リーズは風の精霊シルフと契約しているんだな」
「そうだな」
「俺が一緒に居たグラシャスは火の精霊イフリートと契約していた。俺もルシアと契約して、初めて精霊の力の凄さに気づいたよ」
「私達が扱う精霊の力なんてごく一部だぞ? それに、火の勇者……彼の場合、契約とは言えないしな」
「あの、リーズ様。それってどういう意味ですか?」
それまで二人の話を聞いていたアンがリーズへと尋ねると、鍋のスープをひと口飲み、ひと呼吸置いた風の勇者が答える。
「アンは巫女だから、聞いた事があるんじゃないか? 契約と封印の違いを」
「はい、契約は精霊と契約する事で彼等彼女等が持つ闘気や魔力を借りる事が出来る。契約と封印の違いは、そこに協力や信頼といった関係性があるかないか」
そう、レイもルシアから、精霊武技と精霊術の違いを聞かされた事があった。つまり、グラシャスと精霊イフリートとの関係は……。
「私は風の精霊シルフと契約している。そして、火の勇者グラシャスはイフリートを封印している」
「成程、やはりそうか」
レイは、エルフの里の族長に言われた言葉を思い出す。
――お主の脳裏に浮かんでおる勇者ともう一人、精霊を縛っておる勇者がおるぞよ。お主の目的とは違うかもしれんが、そやつと接触する事があったなら、止めて欲しい
(やはりグラシャスが精霊を縛っている一人で間違いはないらしい)
「でも、リーズ。なぜ、グラシャスがイフリートを封印していると知っている?」
「簡単な事だ。シルフから直接聞いたからな」
彼女はそう告げた瞬間、パチンと指を鳴らす。次の瞬間、彼女の背中から風が巻き起こり、淡い翠色の翼のような形を象ったあと、そのまま大人の女性姿へと変化していき……。
「ハイハァ~イ。此処からはワタクシ、シルフちゃんが説明するねぇ~~」
宙に浮かぶ淡い翠色の姿をした女性――風の精霊シルフが顕現し、足許にまで伸びた髪を靡かせつつ優雅に微笑んだ。
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