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予言の紅星2 予言の子  作者: 杵築しゅん
イツキ修業 編

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イツキの故郷

 馬車は間もなく、国境に差し掛かる。

 俺にとってはいつもの道だが、イツキにとっては初めて見る景色ばかりだ。


「イツキ、お前が赤ちゃんの時にも、ここを通ったんだけど、覚えて無いよなぁ?」

「う~ん……なんか悪いおじさんに会ったような……」


 おいおいイツキ本当に?本当に覚えてるのか?そんなはず無いだろうとは思うけど、イツキだから絶対無いとは言えないな、う、うん。俺は一人で、首を横に振ったり縦に振ったりする。

 俺達は、ハキ神国からの出国を問題なく終え、ミリダ国の国境に向かう。


 国境の検問所に着くと、教会の馬車を見た友人イザクが、笑顔で出迎えてくれた。


「珍しく馬車なんだな。急ぎの用なのか?」

「まあそんな感じだ」


レガート国の上級学校時代の友である俺達は、握手を交わして肩を叩きあった。 


「ハビテ、早く僕も降ろしてよー!」


馬車の中から、イツキの文句が聞こえてきたので、ドアを開け、両脇を抱えてから地面に降ろしてやる。


「おい!まさかあの時の赤ん坊か?でかくなったな」


イザクは大きくなったイツキを見て、感慨深そうに言う。


「僕はイツキよろしくね」


イツキの天使の微笑みパワーが発動し、検査官から警備隊員、当然イザクまで満面の笑顔になっている。

 そうだろう、そうだろう。イツキの笑顔には、癒しの力が込められてる。そして抱き締めても、抱き締められても元気が出る力まであるんだよ!

 勿体無いから、当然お前らには触らせないけどな!

 軽く手続きを済ませて、残念がる友人に手を振って、俺達は再び馬車に乗り込んだ。



 次の目的地ダリには、色々な工業製品を売っている店が並んでいる。イツキの勉強にもなるので、少し寄って見学したり、買い物したりしようと思う。イツキの欲しがる物があれば、何か買ってやろう。


「イツキ、次の街ダリに着いたら、買い物をするぞ」

「買い物?買い物ってなあに?」


 そうか、本教会から出たことがないから、当然買い物もしたことないよな。


「説明するより、見て覚えた方が良いだろう。一応お金の説明だけしとくぞ」

「うん、わかった。僕頑張るよ!リーバ(天聖)様が、イツキはたくさん勉強して、修業をしたら、立派な人になれるって言ってた」

「うっ……修業をしたらかぁ……そうだな、頑張れ!」

 

 修業の意味なんて、まだ分からないだろうになぁ・・・お前に出された修業の課題を見て、俺は倒れそうになったけど、リーバ様は「イツキならやれるはずだ」って譲らないし、「絶対に甘やかすな」とか無理なことまで念押しするしなあ。

『は~っ、俺にこの指令がこなせるんだろうか……』

 

 確かにイツキの成長は、普通の子供とはかなり違うと思う。

 今だって、お金の数え方を直ぐに覚えてしまった。

 一度教えると、大抵のことは覚えているし、本人も覚えることが楽しいようだから、良いんだけど・・・

 反動として、頭の中がいっぱいになったら、所構わず寝てしまう。体に無理してるからじゃないかと、つい心配になるよ。




 馬車は無事にダリの街に到着し、今夜はダリ正教会の【教会の離れ】に泊まることにした。

 ミリダ国の政情不安は、まだしばらく続きそうで、昼間でも警備隊や軍部が、不審者の見回りに忙しそうだ。

 ハキ神国からの侵略や、貴族間の揉め事、国の基幹産業である工業製品の情報漏洩など、国王も頭の痛いことだろう。

 その点【教会の離れ】だと、煩わしい身分確認や、旅の目的を調べられることもないので安心だ。


 

 イツキを連れて町に出ると、初めての買い物に興奮したのか、あっちの店こっちの店と、俺を引っ張って行く。


「ねえねえハビテ、すごいよ!この箱の中から出て来た赤色の物が、こっちの箱に入ったら、違う形になってるんだ!」

「それは飴だ。なんか良い匂いがするだろう?赤い飴が、こっちの箱で冷やされて、固まって出て来るんだ」


「すごい、すごい」と言いながら、瞳をキラキラ輝かせて喜んでいるイツキを見ると、連れて来て良かったと、俺まで嬉しくなる。


「店主、大きめの赤と青の飴を3個づつ入れてくれ」

「へい、まいど」


先程から感動しきりで騒ぐイツキを見ていた店主が、笑いながら飴を袋に詰めていく。


「いいかイツキ、今からお金を払うぞ。店主1個いくらだ?」

「1個30エルだよ」


 俺は財布を出して、小銭を手の平の上に並べる。


「さあイツキ、これが10エルで、これが100エル、全部で・・・」

「180エルかなぁ。30エルが6個だから180エルで合ってる?」


 俺と店主はびっくりして、まじまじとイツキの可愛い顔を見る。

 イツキはどうしたの?っていう顔で、こてんと首を傾げる。


『その顔が可愛い過ぎだけど、本当にお前は4歳児なのか?』


「いつから計算を覚えたんだイツキ?」

「う~ん、わかんないけど、いつも食堂でミユナさんがやってたよ」


 そう言えば、ミユナさんが業者に食材注文する時、横で楽しそうに見てたな。ふう。 

 気の良い店主は、「小さいのに偉いな」っと言いながら、黄色い飴をイツキの口の前に差し出してくれた。

 イツキが俺の顔を、うるうる目で見るから、食べても良いぞと頷いてやる。

「あ~ん」と大きな口を開けて、飴を口に入れて貰い「おいひーね」と笑う。あ~可愛さに癒される~。


 

 次は大きなおもちゃの店に入ることにした。

 本教会には子供のおもちゃらしい物など、殆ど無かったので、きっとイツキが喜ぶだろうと期待しての選択だ。


「…………」

 あれ?イツキどうした……?

 店に5、6歩入った所で固まってるけど、大丈夫かぁ?もしや眠くなったとかかな。


「ハビテ・・・これなーに?」


店中をぐるりと見回し、たくさんの種類のおもちゃが並んでいるのを見て、目をぱちくりさせている。


「ここにある物は、おもちゃと言って、子供の遊ぶ道具だ」


そう言いながら、俺はいくつかのおもちゃを手に取り、実際に遊んでみせる。

 

 ボタンを押すと、小さな玉が出て来て、10点とか30点とか書いてある的に、玉が転がって当たると、的が倒れるというおもちゃを試してみる。

 次に、版の上に兵隊と怪物?が5体づつ並んでいて、版の左右のレバーを、押したり引いたりしながら、相手を倒すおもちゃをやってみる。


「わーい楽しいね!」2人で出来るおもちゃで遊べて大喜びだ。連れて来て良かった。


「そのおもちゃは、この春の新作で、まだどこの国にも置いてないんですよ」


笑顔の店主が出て来て、自慢気に言う。

 確かに見たことのない商品だな。これを買えばイツキも誰かと遊べるだろう。少し高そうだが、教会で子供達を遊ばせるためという名目で、買わせて貰おう。


「イツキ、これ買おうと思うけど、どうだ?」

「えっ、いいの?これなら馬車の中でも遊べるね。うれしいなぁ」


 イツキも気に入った様なので支払いしよう。ここはファリス(高位神父)の権限で、教会払いにさせて貰おう。

 今年から神父の身分証明書に、年齢欄が出来たので、若いファリスでも、あまり怪しまれなくなった。


 さあそろそろ帰ろうかと、イツキを探して店内を見ると、何かを手に持って、じっと立っている姿が見えた。

 何か気になる物でもあったのかと近付いてみると、中古品売り場でイツキがポタポタと涙を流している。


「どうしたイツキ?何かあったのか?」


 慌てて近寄ると、イツキは首を横に振り、手に持っていた箱を俺に渡す。

 それは、片手で持てる位の、小さなオルゴールだった。このオルゴールの、何を見て涙を流しているのだろうか?

 俺は不思議に思い、全体を確認しながら、緩んだネジを、少しずつ巻いていく。

 そして流れてきたメロディーをじっと聴いてみる。


 ん?これは【レガートの子守唄】だ!


「ハビテ・・・ぼく・・・このメロディーを、聞いたことがあるんだ・・・ずっと・・・ずっと前に」


そう言いながら、イツキは何かを思い出そうとしているようだ。

 もしも、もしもこのメロディーを、本当に聞いたことがあるとしたら、レガート国民が歌ったとしか考えられない。何故ならこの歌は、レガートの首都ラミル地方のみに伝わる古い子守唄で、他国では歌われていないはずだからだ。


『もしイツキが本当に聞いていたとしたら、それは母親のカシア以外に考えられない』

 カシアはラミルから来たと、カイ正教会のトーマ様がおっしゃていた。

 イツキの記憶力って……


「イツキ、このメロディーは、お前の母さんが、お前のために歌っていた子守唄だと思う」


 泣いているイツキをそっと抱き締めて、初めて母親の話をする。


「おかあさん・・・?ぼくの?」

「そうだ。今から向かうレガート国が、お前とお前の母親の故郷なんだよ」


 俺はその小さなオルゴールを、自分の金で買って、イツキにプレゼントした。

 その日からイツキは、どこに行く時も、必ずオルゴールを持って行くようになった。



 明日はいよいよ、イツキと俺の故郷、レガート国に入国だ。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次話からレガート国での生活が始まります。

明るいテンポで進行させたいと思っています。

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