追想
学生なんてお金もない単位もない、あるのは時間と魔力だけだ。
どうにかしてこの有り余った時間を刺激的に過ごしたい、そう思っていた、つい先日までは。
それが今や魔力も底を尽きかけ、平和な学園生活はおろかこの短い命さえ危うい状況だ。
考えても仕方ないが、俺の平穏に亀裂が入り始めたのはきっと先輩の雲隠れからだろう。
あれは先輩が卒業した年のある気だるい朝、燃焼魔術訓練をペアのダリアと済ませた。
遠くの山は黄色に霞み、火は風に煽られ、まるで蛇のように蠢いていた。
俺は防衛魔術を専攻しているのだが、防衛なんて言葉は聴こえがいいだけで、実際のところ訓練のないようは戦闘魔術だ。
例えば、便利な電撃、これは物体の動力源として使うことがあるのだが、これを空中に放電し、人にぶつけるというクレイジーな使い方を教えられる。
もちろん、この極東魔術高等学校には他のまともな学科が存在するのだが、俺がこの正気でないところにいるかというと、魔力の容量や判断力等の要素によって学校側が指定してきたということがある。
つまり、俺には防衛魔術の適性があると示された訳である。
のだが、正直なところ対人魔術は苦手だ。
特にダリアらソーサレスには魔術をかけづらい。
むこうは容赦ないが…
また、この学園は学校といいながらも教員は覚醒者の名を持つ校長1人であり、その校長さえも長く学園を離れている。
覚醒者というのは特に魔術に秀でているらしい。
詳しくは知らんが。
なんてことを考えていると長身の男、ルーカスが声をかけてきた。
「おい、サヴァン、あの丸太湿気ってなかったか?
くすぶるところまではいくんだが火まではでなかった。」
「よう、ルーカス。ダリアは火柱を立ててたぞ。どうも振動をさせるイメージで力を流すらしい。」
「なるほどねぇ。」
返事をするなり大男は身体を小刻みに揺らす。
いや、そういうことじゃなくてイメージだって…
こいつはわざとおどけて見せているのか、はたまた真面目に振舞っているのかわからんな。
「早く昼飯食って昼からの演習の準備しようぜ。」
ルーカスが早々にイメトレを放棄して言った。
昼食の後、俺はダリアと落ち合うために第2演習所へ移動したのだが、そこにいたのは幼馴染のリナリアとその親友であるアリスであった。
「探したよ、ダリアがサヴァンならここに来るって聞いて…」
「よ、なんか用か?」
リナリアの大きくぱっちりとした目をながら返事をすると、丸い頬がゆっくり赤くなっていく。
「え、えっと…」
「サヴァンくん、シオンさん最近見かけてない?」
痺れを切らしたのか、代わりにショートヘアが似合う小柄な女子が口を開いた。
「シオン先輩…?あの変人の?」
シオン先輩といえば、在学中に、世界は1度滅びている、古代兵器は実在するとか騒いでいた。
そして彼は強かった。同じ防衛魔術科で彼以上の実力者は俺は見たことがなかった。
その強さへの妬みと虚言癖から彼は変わり者として怖れられ、避けられていた。
だが少なくとも俺やアリスは後輩への接し方やその強さに尊敬の念を抱かざるえなかった。
「それは失礼でしょ、シオンさんが今、行方不明みたいで、ほら、あの人政府の秘密を暴くとかおっしゃってたじゃない?」
アリスが笑ってる場合じゃないのよと言う。
「演習終わったらシオンさんの家に押し入るからね。サヴァンくんもついて来るのよ。」
なんて強引な…
「そ、それなら私も」
なにやらもじもじしている。
返事してないんですが…
と、わざとらしい足音が近づいて来る。
どうやら演習時間のようだ。
「サヴァン、私と早撃ちをする約束をしただろう。行くぞ。」
ダリアも黙っていたらかわいいんだが、その言動から人を寄せつけない雰囲気を醸し出している。
「演習前にごめんね、ダリアちゃん、ほら行くよ、リナリア。」
はわわわとよくわからんことを口走りながら、リナリアが連れて行かれた。
結局リナリアは何だったんだと口角がほんのちょっと上がってしまう。
失踪なんてシオン先輩らしいじゃないか、それに先輩は強い、そんな心配杞憂に終わる、そうこのときは思っていた。




