Episode 3 私の孤独×私の孤高
既に日は落ち、辺りは夜の闇にと包まれていた。
告げられた立体駐車場で、私は立っていた。
その腰には剣を装備して……。
元々出入りも少なく、夜中ということもあり、静寂にこの場所は包まれていた。
だからこそ選んだのだろう、この場所を……。
私は目を閉じて、妖気を認識し、捉える……徐々に妖気が濃くなる。
「……」
私は目を開けた。
瞬間、私の目の前から、床を突き破り、その巨大な身体を現す甲冑の騎士。
私は身を引いて、剣を抜く。
「……乃羽はどこだ!」
私は大声で怒鳴りつける。
乃羽の姿が見たかった。
私に食ってかかり、私と張り合う乃羽の姿を……早く見たかった。
甲冑騎士は、その手に、乃羽の姿を見せる。
「乃羽!!」
私の声に、乃羽は、ゆっくりと目をあける。彼女の眼は腫れぼったかった。どうやら、泣いたのだろう。恐怖からか……イヤ、違うな……悔しさから。私はなんとなく察することができた。負けず嫌いな私のやりそうなことだ。恐怖から涙を流すなんてこと……乃羽がそんな風になるとは想像が出来ない。私の知っている乃羽なら。
「……ごめん」
乃羽はうつむきながら、小さな声で告げる。私は、乃羽の姿が見れただけで、昂ぶる気持ちが落ち着く。後は、彼女を助け出すだけ。そこにどんな罠があろうとも私は打ち砕く。乃羽の姿を見ることができるだけで、私は、それが出来ると思えた。
「すぐに行く」
「……早くしろよな」
私たちの間で交わされるのはこれくらいでいい。私の後悔や、乃羽の後悔の話なんかお互いに聞きたいとは思わないことを、私たちは知っているから。まだ、出逢ったばかりなのに、随分と私たちは、お互いのことを知っているな。これも、相手が私であるからだろうか。
リアル・ファンタジー
Episode 3 私の孤独×私の孤高
Side ノヴァ・インフィニティ
甲冑騎士は、乃羽を後ろにと置くと、剣を私にと向ける。甲冑騎士の持つ巨大な剣が私めがけ振り下ろされる。回避した私……その剣は私の背後に止めてあった車を真っ二つにしてしまうほどの力を持っている。甲冑騎士は、狭い駐車場内で、私を狙い、剣を振う。周りの車を次々と真っ二つにし、数台は外にと弾き飛ばしながら、私の動きを封じていく。車を次々と切り捨てながら私の逃げ場所を減らしていく甲冑騎士。私は、甲冑騎士を見ながら、剣を向けた。
「……私を串刺しにするならもっと本気で来い」
私は、まっすぐ甲冑騎士にと向かっていく。
巨大な体格差を前にして、それは無謀といわれるかもしれない。だが、今の私は……ただ、あるものしか目に映っていなかった。甲冑騎士の奥にいる……綾菜乃羽の姿。私にはそれしか見えていなかった。甲冑騎士の持つコンクリートを貫くほどの剣。私はそれを避ける。何度もその狭い立体駐車場の中を剣が私を狙いつきだされていく。私は何度も身をかわし、飛び、転がり、避けていく。動きを読みながら、私は、剣を振う。
「!?」
甲冑騎士の剣を握っていた腕が切り落とされる。あふれ出る紫の血液。駐車場内を染める中。私は、制服を染めながら、剣を持ったまま、切り付けた腕から、甲冑騎士の身体をよじ登る。腕から、肩、そして頭にとよじ登っていく。私は、剣を強く握りしめその首を跳ねる。紫の血が天井にと噴水のように噴き出す中、私は、甲冑騎士から飛び降りて乃羽に元にと駆けつける。
「……遅い」
乃羽が顔をあげて私を見つめる。私は笑みを浮かべ、乃羽を拘束している縄を切り裂く。疲れていたのか、乃羽の体が私の前にと倒れ込んでくる。私は乃羽を抱きしめ、乃羽の身体をしっかりと包みこんだ。彼女の存在をしっかりと確かめ……視線を合わせる。彼女の顔を見て私はようやく安堵した。乃羽は、顔をあげ、私の背中にと手を回し、強く包む。同じ私の身体が……お互いを強く認識させる。私は、乃羽の身体を包みながら静かに息を吐いた。
「!!」
乃羽が、私の身体を支えたまま、横にと飛ぶ。コンクリートの床に倒れ転がりながら、私は乃羽をしっかりと抱いたまま、視線を向ける。そこには首をはねられたはずの甲冑騎士が、私たちが先ほどまでいた場所を剣で叩きつぶしていた。床には穴が開いている。
「ちっ……まだ生きていたか」
跳ねられた首からはウネウネと蠢く触手が揺れている。私は剣を手から離してしまったことに気がついた。乃羽を抱きしめたときに離してしまった。私は、武器を取りに行こうとするが、乃羽を置いておくことができない。
「なにしてるんだ!!早くいけ!」
乃羽は、私が離れようとしないことに怒鳴る。胴体から蠢く触手が私たちを狙い、伸びてくる。私は乃羽を引っ張りながら、コンクリートの床の上を走り抜ける。触手はコンクリートを貫き、車を貫きながら、私たちを追いかける。さらには、握っていた巨大な剣も再び振るいながら、私たちを狙う。私はしっかりと手を離さないように……乃羽を掴みながら、怒鳴っている乃羽にだけ聞こえる様、小さくつぶやく。
「お前を……おいていけない」
甲冑騎士から見えない場所にと移動し、私はそこで、乃羽を置いて再び剣を取り戻して敵をせん滅するべく再び立体駐車場に出向こうとした。
バシッ!!
乃羽を下ろした瞬間、私の頬に、痛みが走る。私は、頬を抑えながら、乃羽を見る。
「はぁ……はぁ……」
乃羽は大きく息を吐きながら、うつむいていた。
「ふざけるな……、私のせいでお前が助けに来て、私のせいでお前が戦えない、私のせいで、敵を倒せないっ!!」
乃羽は私の襟首をつかむ。その瞳は怒りに満ちていた。
「どこまで、私を惨めにすれば気が済むんだ!!」
私は、乃羽の為だと思っていた行動、だが、それはかえって乃羽を傷つけていた。私にはそれがわからなかった……。私は乃羽が傷つかないように、助けたいという思いで必死だったから。乃羽は、うつむき拳を握り締め肩を震わす。自分が何もできないことに対する苛立ち、それが彼女にはあったのだろう。私は、そんな乃羽を見る。
「……私には経験がある。今までの……、その違いだけだ」
「同じ……私なのにか?」
顔を上げ、一歩前に足を踏み出し私との距離を詰める乃羽。同じ制服を着ている為か、こうしてみると本当に私たちの間に鏡でもあるかのようだ。同じ身長に、同じ顔、容姿、髪の長さから、胸の大きさまで、何もかも……。違いなど見えてこない。それは、外見だけじゃない……、中身だって同じだ。
「私は……お前に負けている気がして、惨めで……同じ私なのに!!同じ……乃羽なのに」
乃羽が私を見つめながら、声を震わせて告げる。学校に行って、私が入れ替わって友達を作ろうと学校を楽しもうとしたときに見せた、乃羽の表情……。そのときの表情が、今の答えなのだろう。私は、乃羽を見つめたまま、口をあける。
「……私には、家族がいないし、友人もいない……私にはそういったものに身を寄せる権利がなかった。ただ戦うためだけに、私自身が強くなるために、孤独になった」
私は、乃羽を見つめながら告げる。
「お前の生活に憧れた。友人を作って、幸せになれるんじゃないかって……お前にはそういったことができるって、私は思ったんだ。だから……」
「……私も、家族も友達もいない。そして、孤独であることで、そういった弱さを克服できると思っているんだ。だから、私は孤独でいい……」
乃羽の言葉に、私は目を見開いた。
こいつ……私と同じ。
どこまでも……一緒。
乃羽は私を見つめながら小さく笑う。
「外見だけじゃなくて……中身まで同じみたいだな?」
「……本当に、どこの世界でも……私は」
「本当だ。どこの世界でも、私は……私」
「同じ私に嫉妬なんて、変だろう?外見も中身も一緒だっていうのに」
「ああ、まったくだ……バカだな、私達は」
私は、乃羽というもう一人の自分に幸せになってほしいと願った。でも、それは間違っていた。彼女もまた私と同じだったんだ。私達はただ経験の違いがあるだけの差しかない。私は、もう一人の私の手を握る。孤独が強さだと思い合う私達……。だけど、その中では、孤独であることを否定したい気持ちがあったのだ。
「……孤独な2人が、揃うと……どうなるんだろうな?」
「そうだな……孤独ではなくなるんだろうな」
「……でも、どうしてだろう」
「ああ、なぜだろうな」
「「……今まで以上に強く感じることができる」」
私たちは、笑みを浮かべて互いに言った。
その瞬間、コンクリートを吹き飛ばしながら、触手で立体駐車場の壁や柱を突き破り、その腕に持った剣を振り回し、姿を現す甲冑騎士。私と乃羽は隣同士に立ちながら、甲冑騎士に姿を見せ、対峙する。
「さあ、あいつには私とお前、どっちが乃羽にみえるのかな?」
「化け物にとってはどっちがどっちでもいいんじゃないか?同じノヴァだし」
「同じ乃羽だしな」
「……」
「……」
私達はお互いにと視線を向ける。
「「行くぞ!!」」
私は、まっすぐ走りながら、甲冑騎士にと向かう。触手を伸ばし私を貫こうとするが、私はそれを剣で切り裂いていく。甲冑騎士は、今度は剣を私に目掛け振り下ろす。触手と巨大な剣の連携攻撃は、私を敵に近づけさせない。だが今の私は一人じゃない。私は、二人いる!!
「乃羽っ!!」
「はああ!!!」
私の後ろにいた乃羽は、私が投げた剣を受け取ると、巨大な剣を握るその腕を、切り裂く。紫入りの血が噴き出す中、そこからも触手が蠢き、乃羽をおそう。乃羽は、それらを切り裂いていくが、さすがに、あれだけの量をすべて切り裂くのには無理がある。私は、乃羽の近くにと走り、乃羽から剣を受け取ると、乃羽をおそう触手を切り捨てる。乃羽は、私の背中にぴったりと張り付きながら、触手の攻撃を避けていく。
「武器が足りない!」
「そんなのはわかってる!!」
Side 綾菜乃羽
せめて、あの剣が二つあれば……私は、ノヴァから距離をとると、地下駐車場に大量にある車の一つに目をつける。私は駆けだしながら、ドアが吹き飛んだ一台の車にと乗り込んだ。勿論、運転などしたことがない。だが、車を動かす方法くらいなら知っているつもりだ。私は、フロントガラス越しにノヴァが複数の触手を前に防戦している姿を見て、ハンドルを強く握る。私だって戦える。私とノヴァは違うかもしれない。だが基本は同じだ。私だって……ノヴァの力になるんだ。
スペアキーを見つけ、私はエンジンをかける。
「ノヴァ!」
私はノヴァに大きく声をかけながら、車のライトを光らせ、照らされた甲冑騎士にと目掛け車を一気に速度を上げて走らせる。私は、そのまま、席から飛び出して、コンクリートの床を転がる。車はまっすぐ甲冑騎士にと突っ込んでいく。触手で車を貫こうとするが、その勢いに押され、そのまま立体駐車場から車ごと落ちる。暫くすると爆音とともに、暗い闇の中、炎の光が見えた。
「乃羽!?」
駆けよるノヴァ。私は、なんとか身を起こしながらも痛みに思わず倒れそうになり、そんな身体をノヴァに抱きかかえられる。
「バカ!無茶して、お前になにかあったら……」
「私になにかあったら……なんだ?」
私の問いかけに、ノヴァは顔をそむける。私は、そんなノヴァの優しさに、小さく笑ってしまう。抱きしめてくれたノヴァの身体を無意識に強くつかむ。
本当に……私達は……。
炎の光が、立体駐車場の中にと差し込まれる。私は、ノヴァに手を掴まれ起こされた。立ち上がった私は、ノヴァと向かい合う。周りを見渡せば、随分と酷い光景だ。車が切断され、床はあちこち穴が開いており、なんだったらバケモノの血液が垂れている。私はため息を付きながら
「これだけ暴れたら警察とか色々くるだろう、急いで離れたほうがいい」
私の問いかけに、ノヴァもまた笑顔で頷く。
「……」
だが、そこでノヴァの表情が変わる。私はノヴァの表情の変化を見て、振り返った。そこには、燃えた甲冑を落としながら、露わになる巨大な目が現れ、その周りの蠢く触手の怪物がよじ登ってきている。それはもはや最初の甲冑の騎士とは思えない。ただのバケモノがそこにはいた。蠢く触手には気味悪さしか感じられない。
「まだ生きてるのか……」
私は、その化け物に驚きの声を上げた。その化け物は、瞬時に触手を私めがけ勢い良く伸ばす。今まで以上に触手は素早く勢いよく私目がけ飛んでくる。
「!!」
私は咄嗟に身をそらしたが、服が破け、かすったのか、血がでる。
「ううっ……」
「乃羽っ!!!」
私は床にと転げ倒れた。その私の様子を見たノヴァは歯を食いしばり、化け物にと目をやると、剣を力強く握りしめ駆けだす。彼女は、コンクリートの床に剣の切っ先を走らせ、火花を散らす。ノヴァは、そのまま炎で燃えている剣を振るい、その触手の化け物を切り裂く。
「これで……終わりだ」
ノヴァは目を見開き、そう告げると、炎の剣で、触手、そしてその胴体、体を切り裂いていく。触手が飛び散り、紫色の血が溢れ出す中、ノヴァは、巨大な目に向けて剣を突き刺す。触手が暴れ狂う中、ノヴァは、力を込めて、その触手の体を貫いた。暴れ狂っていた触手の体は、やがておとなしくなり、動かなくなる。
「……」
すべてが血にと染まる中、ノヴァは、大きく息を吐く。私は、そんなノヴァの殺気迫る勢いに、驚き何も言えなくなっていた。私が傷ついた瞬間、彼女はまるで何かが宿ったかのように、猛然と敵を殺しにかかった。ノヴァは、振り返り、私を見る。そこにいたのは、いつもの、私と同じ顔をした……ノヴァがいた。
「……」
「……帰ろう」
私は、そんなノヴァの顔に安堵してそう告げる。
紫色の血にまみれた、モンスターが光になって消えていく中、私たちは、駐車場を後にした。帰ったら、何をしようか……そうだな、汚れた体をきれいにするために、一緒にお風呂に入って、そして疲れた体を癒すために、一緒に眠ろう。私は、いつの間にか、ノヴァと一緒にいることが当たり前のような考え方にとなっていた。同じ孤独を抱えた私達。孤独を同じように忌み嫌う私達……。そんな二人が一緒に過ごすようになれば、私は孤独ではなくなるのかもしれない。私は、そんなことをふと思いながら、心が満たされていく感覚を知る。そんな胸が熱くなるようなことになったのは初めてだった。
「ったく……明日は学校休み決定だ。体中痛いし……」
真夜中の道を、私はノヴァと寄り添いながら歩いている。
先ほどから黙っているノヴァに対して、その場の雰囲気を和ますために告げた一言だった。ノヴァは、そんな私の気持ちをくみ取ったのか、私にと身を寄せる。肩がぶつかり、腕が重なる。私は無意識に、ノヴァと重なった身体が熱くなるのを感じ取った。
「……すまない、私のせいで。お前に迷惑をかけて」
「気にするな。私とお前は同じノヴァなんだ……だから、お前の問題は私の問題だ」
「心強いよ、お前がいると……本当に」
「お前からそんな言葉が出ると気持ち悪いな」
「気持ち悪くても……いい」
ノヴァと私の視線が重なる。
私たちは笑みを浮かべ合い、そのまま自分達の家にと戻っていく。
時刻は、5時。
長い一夜だった……。
既に、空が明るくなり始めるころ……河川敷を私達は歩いていく。私達は、互いに肩を触れ合わせながら、身を寄せるようにしながら歩いていく。私は此処一連のことを思い出していた。私が拉致され、そしてノヴァが助けに来て……戦って、化け物を倒した。そこで、私は思い出した。大事なことだ。私が立ち止まると、ノヴァも立ち止まる。私はノヴァのほうを見る。ノヴァは私と同じ顔で不思議そうな表情を浮かべた。
「……ノヴァ、私を殴れ」
「はっ?」
「私はお前に嫉妬して、お前を殴った。お前もまた同じような想いをしているのに!」
「そんなこと……私は気にしていない」
「お前が気にしていなくても、私が気にしている!同じ自分同士で借り貸しなんて絶対に……嫌なんだ」
そんな私の言葉に、ノヴァはようやく笑みを浮かべた。その笑みは、異性ならきっと心を動かされるような……そんな笑顔だった。私は彼女の笑みに一瞬、『可愛い』と思ってしまって、慌ててノヴァに意識を戻す。
「お前は……我ながら本当に、男っぽいというか、なんというか」
「五月蠅い!はやくしろ!」
「わかった、歯をくいしばれよ!」
ノヴァは、私から離れると拳を握り、その腕を私めがけ振り上げた。痛みが走る。だが、私はこれでよかったと素直にそう思えた。私はまだ、彼女の隣には立てていないのかもしれない。だけど、私は彼女の背中に手を伸ばせる距離を走っている。彼女は、そんな私に対して、少しだけ速度を緩めてくれている。だが、彼女はその速度を徐々に早めるだろう。私も彼女を追いかけるために、距離を同じく速度を速める。今はそんな関係でいい。だけど、ノヴァ……私は、
「……私は、必ずお前を捕まえて一緒に、隣に……たつ。隣に立って……一緒に、走る」
私は、殴られた衝撃で、ふらつきながら、ノヴァの体に支えられながらそう告げる。ノヴァは、ため息をつきながら私の背中を包み、小さく口を開く。
「待っているよ、乃羽」
「……うん」
「だから、早く……きてくれ。な……?」
「うん……」
そこからの記憶ははっきりしていない。
家までつくと、ノヴァと私は一緒にお風呂にと入り、そのまま死んだように眠ったらしい。ノヴァもまた私と一緒に眠った。傷だらけの私達……だけど、私たちは幸せだったのかもしれない。孤独から、解放されることに。信頼できる誰かと出会えたことに。
Side ノヴァ・インフィニティ
朝……雀の音が聞こえてくる中、私は目を開ける。身体がなれてしまっているのか、早起きしてしまうのは、考えものだ。だがそうはいっても昨日の壮絶な戦闘で、疲労が少し残っているのも事実。私は、再度眠りにつこうとした。だが、そんな私の視界に入り込んでくる、静かな寝息をたてた……もう一人の私、綾菜乃羽。昨日、一番頑張った彼女、私はそんな彼女の髪を撫でながら、自然と笑みがこぼれてしまっていた。お互い、同じ悩みを抱いて、同じ苦しみを味わっていた。孤独が強さであると思っているのも私達は同じ。でも、孤独に対して……疲れ果てていたのもまた同じ。私は、乃羽と出逢えて一緒にいることで、孤独から解放されようとしている。それでいいのか、わからない。でも今は……彼女と、乃羽と一緒にいたい。私はそんなことを想いながら、私と同じ顔をした少女を見つめている。だが、そんな中、私は自分の中に湧き上がる悪戯心を抑えられなくなる。
……。
「乃羽!敵だ!!」
「!!」
乃羽は、その言葉でベッドから起き上がり、周りを見渡した。だが、そこには誰もいない。いるのは私だけだ。私は笑いをこらえながら、ベッドにうずくまっている。そんな私に対して乃羽は拳を握りしめる。だが、乃羽はそこで何かを思いついたのか、拳を収め私に背を向ける。
「今日の食事は抜きだな」
「なっ!?ず、ずるいぞ!!」
「常に暴力だけでは解決しないものだ、お前のように常に戦っているような奴だとわからないかもしれないがな」
「うぐぐぐ……」
私は、乃羽の言葉に、何も言い返すことができなくなっていた。乃羽は、鼻歌を歌いながら嬉しそうに、台所に立っている。私は、ベッドに腰をおろしながら、乃羽の背中を眺めていた。すっかり、私たちは一緒の生活に浸っている。そして、こんな生活が続けばいいと、思い始めてもいた。だからこそ不安だった。また今度のように襲われる可能性がある。私がいることで……。離れたくないからこそ……、彼女を大切に思ってしまうからこそ。
「なぁ、乃羽?」
「今更謝っても、飯はやらないぞ?」
「違う。私がいることで、また襲われるかもしれない……お前は」
「ノヴァは、私と一緒にいたくないのか?」
私の言葉を遮るように、振り返った乃羽。
私は首を横に振る。それは咄嗟に出た行動だった。無意識に……感情が先に出てしまって。そんな私の行動を見て、乃羽は嬉しそうに笑みを浮かべ、再度、台所にと向き直る。
「……私も、お前といたい」
私の胸がその言葉を聞いた瞬間、痛くなる。締め付けられるような感覚……それは、昨夜の戦いでも感じたものだった。私は、胸を抑えながら、乃羽を見つめる。
「……嬉しい」
「人のことが言えるのか?お前も、そっちの趣味じゃないのか?」
食事を作り終えた乃羽が、ため息をつきながらも笑みを浮かべて、食事を持ってくる。私は、美味しそうな匂いがする食事を見つめながら生唾を飲み込みつつ、顔を上げて、乃羽を見つめた。
「私同士で、そうなったら……ナルシストになるのかな」
「さぁね……」
私たちは、互いを見つめながら微笑み合う。
それは他人から見れば仲のいい姉妹に見えるのかもしれない。だけど、私たちは姉妹なんてほどの距離感はない。もっと近く……同じ存在なのだから。
「「いただきます」」
私達は同じ声を重ね合わせながら告げ合う。




