Episode 2 私にあるもの×私にないもの
『乃羽?またサボリ?今日は体育も出てくれたからいいけど。明日もちゃんと学校来てくれなきゃ許さないんだからね♪後、乃羽を捜しに行った教師が行方不明になっちゃって。乃羽なにか知ってる?』
蓮華からのメールを見ながら、薄着姿の私は、今日の一連の出来事を思い返していた。私と瓜二つの女…ノヴァ・インフィニティ。そして、目の前で教師が化け物となり襲い掛ってくる。しかも、ノヴァは、私たちがいる世界とは別の世界からやってきたという。私は、ノヴァと協力して教師であったものを一緒になって倒した。まるで出来の悪い漫画だ。私は、ベッドに倒れながら、大きくため息をつく。目が覚めれば、悪夢から目覚め、いつもと変わらぬ日々が私には訪れるとそう思った。でも、私には、そんな都合のいい日常は訪れなかった。私の耳に聞こえてくる足音……。私の部屋に、私以外の誰かがいることなどありえない話。その部屋の中で、足音が聞こえるということは、悪夢だと思っていた出来事が、いまだに続いていることを示していた。
「使い方がわからない」
ボロボロの衣服のまま、顔を出したノヴァが、私を見る。
私は、大きくため息をつきながら、彼女に浴室の装置の使い方を教えてやり、ベッドにと腰を落とす。ここまで連れてくるのも、誰かに見られるんじゃないかと冷や冷やしたものだ。なんとか、隠し通せたものの、ずっと隠し通せるかはわからない。これからどうすればいいのか……そもそも、私には、いまだにこの状況を理解できないでいる。どうして、ノヴァが現れたのか……どうして、私と同じ姿なのか。
「いまだに信じられないな……」
「とはいっても、これは現実だがな」
身体をバスタオルで拭いながら、やってくるノヴァ。濡らした髪の毛を拭いながら、私と同じ顔が、私を見つめる。服を着ることなく、生まれたままの姿を晒しているからこそ、よくわかる。ノヴァの容姿は普段、浴室の鏡で見る自分の姿とまったく同じ。何も変わらない……何一つ。私は、自分の身体に照れるのもおかしいと思いながらも、バスタオル一枚のノヴァをにらむ。
「せめてなにかきろ!」
「私の衣服はズタボロだし、かわりが……」
「ああ、ちょっと待ってろ!!」
私は自分の着ているジャージと下着を、ノヴァのほうにと投げる。
「私とスタイルも同じなら着れるはずだ」
「いいのか?」
「いいから、早く着ろ!!」
ノヴァは促されるがまま、私のジャージを着て、私の前に立つ。こうみると、本当に、私が目の前にいるみたいだ。綾菜乃羽として、まったく違和感がない。自分を他人の目から見ている不思議な感覚だ。ノヴァはジャージを着ながら、身体を捻ったりして、着心地を確かめているようだ。私は、目の前にいる綾菜乃羽と同じ姿をしているノヴァを凝視しながら、自分と同じ姿を第三者の視線で確かめている。そんな私の視線に気が付いたのか、ノヴァが私を見る。
「……さっきからジロジロとみて、どうした?」
「い、いや……別に。私によく似ているなと思っただけだ」
「そのことだが……」
ベッドに腰を落としている私の隣にと座るノヴァ。ベッドの正面にある、電源が付いていない液晶テレビには私とノヴァがしっかりと映し出されている。私は、そんなテレビを見てまるで双子の姉妹でも出来たかのような気持を覚える。こうしてテレビ画面を見ていると、どっちが自分なのか、自分でさえ判断できなくなりそうだ。もう一つ驚くべき光景としては、隣同士にならんで映っている私達の姿……今までまともな友人も、親の記憶も薄い私には、ここまで自分との距離を近づけてくる相手はいなかった。普通なら、一発ぶっ飛ばして距離をとるところだが、相手は自分そっくりで、どっちが自分かもわからなくなるほどで……嫌な気がしない。
「どうやら私たちは、同じ存在かもしれない」
「?」
ノヴァが真剣な表情で、私を見る。先ほどまでノヴァの容姿をずっと見ていた私は、その突然のノヴァの言葉に、頭がついていけず、首をかしげる。ノヴァは、自分の顎に片手を置いて、話し始める。
「この世界は、私がいた世界とは明らかに異なっている。文化も、科学も、地形も、自然も、なにもかもだ。にわかには信じられない話だが、私は魔女との戦いの中で、この世界に飛ばされてしまったらしい。そして、乃羽……同じ名前を持ち、同じ容姿を持つお前は、異世界の私という存在なのだろう。まだ、確証はないが……、ここは私がいた世界とは違う、平行世界」
私の目を見つめ説明をするノヴァ。
私は彼女の言っていることが理解出ず、首を再度傾げる。頭の中は???マークだし、多少理解ができたとしても、言っていることが滅茶苦茶で、訳が分からない。
平行世界?
ノヴァと私は同一人物??
私はノヴァの言葉を聞きながら、彼女の額に、自分の肩手を当てて、もう片方の手を自分の額にと当てる。
「……熱はないようだな?」
ノヴァは、そんな私の行動に、拳を握りしめる。
「お……お前!人の話を聞いているのか!!?」
「お前の説明が長すぎるし、滅茶苦茶なことを言っていて理解が追い付いていないんだ!!もっとわかりやすく説明しろ!!」
「こっちが丁寧に、話をしていれば文句か!?まったく、同じ私の癖に、頭の出来は違うようだな?」
「なんだと!?お前が私のように頭が良ければ、懇切丁寧に伝えるぞ!」
「ふん、随分な良いようだ。誰のおかげで、あの危機を乗り越えられたと思っている?」
「そういうなら、誰のおかげで、薬とか用意したと思っているんだ?」
「……わからずや」
「……アホ」
「「……お前ぇえ!!!!」」
私と、そして異世界の私の言い争いは、隣の住人から壁を叩かれるまで続いた。
リアル・ファンタジー
Episode 2 私にあるもの×私にないもの
Side 綾菜乃羽
目を開ける……カーテンから漏れた光が、朝ということを現していた。私は、閉じそうになる目をこする。おぼろげな視界に入ってきたのは、私と瓜二つの女であるノヴァ・インフィニティ。ノヴァは小さな寝息を立てながら、目を閉じていた。私と同じ顔をした彼女の寝顔がそこにはあった。昨日は、言い争いの後、夕食をまともにとることもせず、そのまま、私のベッドで眠ってしまっていたのだ。仕方なく、私は、ノヴァの隣で一緒に寝る羽目となった。同じ自分同士で……一緒に眠る。異様な光景でありながら、私は、いつもよりも……よく眠ることができた気がする。
「……こうしていれば、普通の学生だな」
よほど疲れていたのだろう。いまだに彼女は起きるそぶりはない。私は自分の寝顔など見たことがない…当たり前だが。だからだろうか……私にはその表情は新鮮だった。あれだけ騒いでいても……モンスターと戦っていても、こうしてみれば、こいつも私と同じ女子学生なのだろう。私は、起きようと、身を起こそうとする。だが、身体が動かない。
「?」
気がつけば、目の前のノヴァが私の体をしっかりと抱きしめている。
「お、おい……」
私は脱出を試みるが、ノヴァは背中にしっかりと手を伸ばし抱きしめられてしまって、抜けだせない。それは、昨日……校庭裏で出逢った際、彼女が私に向かって倒れそうになった時、抱きしめた時と同じ感覚。もし、これが別の誰かならば、きっと私は、突き飛ばしてでも離れようとするのだろう。でも、目の前の私を見て……私には、そんな気は起きなかった。
「……」
私は、小さくため息をつきながら、目の前のノヴァを見つめる。この少女が、あんなモンスターと一人で戦っていた。血まみれの姿で、彼女は一人で戦っていたということか。同じ私なのに……こいつは随分と立派な奴だ。私は、彼女の髪の毛を撫でながら、ふと、そんなことを思った。
「……お前、そっちの趣味があるのか?」
私は、その言葉に、ノヴァの顔を見る。
先程まで寝ていたノヴァの目がパッチリと開いており、私を睨むように見ている。私は自分が今、ノヴァの髪の毛を撫でているという状況を改めて知り、苦笑いを浮かべるしかなかった。
ベットにて暫くの間、言い争いをした後、私とノヴァは、改めて寝ていた時の姿のまま、テーブルにと腰かける。私は、仕方がないので、ノヴァのためにも料理をつくってやる。とはいってもパンを焼いたりする程度なのだが……。誰かのために料理を作ることなんて、私には初めてだった。
「……今日は、昨日行っていた場所にはいかないのか?」
背後から聞こえるノヴァの声。
「お前を残していけるわけがないだろう?」
「やはり、そっちの趣味があるのか?」
「違うと言っているだろう!?」
私は振り返り、ノヴァに怒鳴りつける。
そんな私からノヴァは、視線を逸らす。
「私のせいで、お前が、お前の生活を犠牲にしてしまうというのは、私としても辛いな」
「ノヴァ……お前」
意外と、人情的なところがあるようだ。
私としては意外なところだと言える。
「だから、私がお前の代わりにその場所にいってみようじゃないか!なんだか面白そうだしな?」
私はこの自分と瓜二つの女に殺意を覚えた。
ああ、そうだな、こいつは私だった……私がそんな優しいことを言うなんてありえないことを私は失念していた。
「それにだ……。いちお、またモンスターが襲ってくるとも限らない。お前が一人でそれを食い止め、倒すことができれば問題はないが……」
「学校に行きたいだけだろ?」
「それもあるが……心配も本当だ」
「……ふぅ、半分くらいなら信じてやろう」
私は、焼いたパンとスクランブルエッグを皿に載せ、彼女が待つテーブルにと置く。私たちは、向かい合って二人でその朝食をつまむ。
「なかなか美味いじゃないか」
「どーも」
私はもりもりと食べている、ノヴァを見ながら自分の料理をこうやって誰かにふるまい、褒められるということに、嬉しいという感情が湧きおこる。だが、それをノヴァにはみせまいと、身体を横に向け、顔を見せないようにとする。
こいつが、学校にといったとしたら……こっちの生活がまるでわかっていないノヴァが無事に学校でやっていけるかどうかといわれれば非常に疑問符がつく。だが、彼女の言っている通り、またあんな得体のしれない化け物に襲われても困る。どっちにしろ、困ってしまうわけだから……。
「……仕方がない、か。行かなかったら行かなかったで面倒だしな」
頭に浮かぶ蓮華の顔。
「おお!さすがは私。話がわかるな」
「ただし!!」
私は、顔をノヴァテーブル越しに身を乗り出してノヴァを睨む。ノヴァはそんな私の表情に怯えた顔を浮かべている。
「私もついていく。私の姿・恰好で変なことをされたらたまらないからな」
「か、かまわないけど。どうやってついてくる気だ?」
「それは……」
Side ノヴァ・インフィニティ
登校道。
制服姿の私の姿は、誰がどう見ても、綾菜乃羽にしかみえないことだろう。容姿はそのまま、乃羽だから、制服を着て少し彼女に近づければ、誰も私を別人だと思う奴はきっといないだろう。誰がどう見ても今の私は、綾菜乃羽……そのものだ。私は、人通りの多い道を、背後を気にしながら歩いている。電信柱に隠れながらこちらを見ている不審な影が気になって仕方がない。しかも禍々しい殺気を溢れさせている。
「はぁ……本当にこのまま、ずーっとついてくる気じゃないだろうな?」
乃羽の視線がずっと私の背中にと突き刺さっている。私はやれやれといった感じで、学校の前にとやってくる。遅刻も遅刻の時間なのだが、乃羽曰く、こんなことは普通だし、学校行かないこともあるから別に平気……とのことだが、いきなり遅刻で不安だ。まあ……乃羽の真似をして過ごせばいいのだろうが。
時間は10時20分……。
校庭では身体を動かしている生徒がいる。私は、そんな生徒を横目で見ながら、自分の下駄箱にと向かう。前もって場所は地図で提示されている。とはいえ、この自分の恰好で……自分の学校がわからずに地図を見ているという生徒というのは問題な気がする。
「まぁ、なるようになるか」
私は、そこで靴を履き替え、教室にと向かう。
廊下は静まり返っている。どうやら、どこの教室も授業中のようだ。学校や授業と言う言葉は私の世界にもある。まあ、こんな巨大な場所ではなく、教会などで授業をしたり、私の場合は、剣士の授業が行われていた。まあ、今ここにいるものたちのように、誰かと一緒に過ごしたという記憶は私にはないが……。私は、周りを見渡しながら、冒険のような気分で地図を眺め目的地にとたどり着いた。
「はぁ……宝箱とかそういったものがないと、なんだか気乗りしないな」
「お前がいる世界とは違うんだから当たり前だろう」
「うわ!!」
突然の背後からの声に驚く私。そんな私の口を乃羽が抑える。私は目を見開いて彼女の顔を見て気持ちを落ち着かせる。
「いきなり声をかけるな…びっくりするだろうが!」
「お前がのんびり歩いているから見ているだけだ!」
「だいたい、どこまでついてくるつもりだ?私達が一緒にいる姿を見られたらまずいんのだろう?」
「わかってるから、さっさといけ!」
私は、大きくため息をつきながら、乃羽に急かされるまま、教室にと入る。周りの男子・女子たちは、私を一瞬見て、すぐに視線を前の黒板にと向けた。黒板の前に立つ教師は、私のほうを見ると、表情を強張らせながら
「じゅ、授業にはお、遅れてこないように……な?もし遅れることがわかっているのならば、祇園君のように前もって……ま、まあいい」
ひきつった笑みを浮かべて教師は授業を続ける。どうやら、私…いや、乃羽は相当、恐れられているようだ。しかも、かなりのレベルだ。一体なにをしでかしたのかは、不明だが。いや……私がもし乃羽と同じ立場だと考えるなら、なんとなく察することができる。上の立場から見れば、私のような自分の気持ちを貫き、誰の指図も聞かないような奴は、扱いずらいだろう。
「……」
周りの生徒を見ながら、私は黒板を見る。そこでは教師がよくわからない記号を書きながら、それを皆に説明をしている。乃羽はいつもこんなことを習っていたのか。私には、まったくもって理解できない。少し乃羽のことを見直しながら、授業を聞き続ける。周りの生徒たちを見てみると真面目に聞いている者、寝ている者、それぞれだ。私は、そんなものたちを見ながら、同世代の少年少女たちの様子を見ているだけでも楽しかった。だが、そんな私が見ていることを知ると、周りの生徒たちは驚きと、冷たい眼差しを私にと向けるだけだった。どうやら、乃羽への特異な視線は教師からだけではなく、クラスメイトからも向けられているようだ。
チャイムが鳴る。
チャイムが鳴ったと同時に、教師はさっさと本を片付けて、教室を出ていく。私は、このチャイムで、授業が終了するということを学んだ。授業は色々と面白かったが、先ほどから突き刺さるクラスの男女からの視線が痛い。視線だけではない、私を見ながら、何か噂話をしているようだ。それらすべてをある程度聞き分けることが出来るほどの聴覚を持っている私には、それらがすべて私、いや乃羽の悪口であることを知る。自分のことではないにしろ、乃羽の悪口を聞かされていることに、私は居心地が悪くなり、乃羽との約束をしている場所……初めて、私と乃羽が出逢った場所にと向かった。
体育館裏、そこには、乃羽が体育館の壁に背中をつけて、待っていた。先ほどまで身を覆っていた黒い布を取り払い、今は私と同じ白いブレザーの制服を身につけている。乃羽は私を見つめる。
「どうだった?私……綾菜乃羽の学校は?」
「授業というものは、楽しいが……、クラスメイトというのは、私、いや……お前を恐れている、良くは受け取ってはもらえてはいないようだな」
「そういうこと……学校なんて楽しいところじゃないさ。少なくとも、私……綾菜乃羽は」
乃羽は、空を見上げながら大きくため息をつく。
「どうする?こんな私になっても……まだ綾菜乃羽を演じるか?」
「……ああ」
「物好きだな?いやならいやでいいんだぞ」
乃羽の問いかけに、私は振り返り彼女を見ることはせずに歩きだす。乃羽もまた、私を見ることはない。私たちがすれ違う前、並んだところで私は足を止めた。
「私も孤独だった」
私は、顔をうつむけ口を開けた。
乃羽は、そんな私の言葉を聞いている。
「お前には、まだ仲良くなれる可能性が残っているじゃないか?」
「……」
「私には、そういった可能性もなかったのだからな」
私はそれだけ告げると、再び足を進める。
この世界は、平和だ。このように学べる場所があり、そして同世代の友人たちと一緒にいることが出来る。そんな環境に置かれている乃羽が私は羨ましかった。私には何もなかったのだから。皆奴隷になり、皆死に絶えた。そんな中私の周りに合ったのは、武器屋の親父、宿屋の亭主、そんな大人ばかりだった。だから、私は例え忌み嫌われていようと、仲良くなる可能性があるこの状況のほうが、ありがたかった。そう、だからこそ、私は、ここで、友達をつくってやる!
私は、気持ちを新たにして、教室にと戻っていく。
教室の中にと足を踏み入れた私。
待っていたのは、相変わらずの冷たい視線……。
でも、私は、ここで立ち止まる訳にはいかない。私が、ここで乃羽のためにも、力を出さなくちゃいけない。友達なんて……作ったことはないが。それでも、私とは別の世界で生きているノヴァに。もう一人の私に幸せになってほしかったから。私には適えることができなかった夢だ。それを、かなえさせてやりたい。
「ね、ねえ?」
声をかける私。
私の姿を見た女子生徒たちは、そのまま私に冷たい目をしながら、そのまま、私の前から立ち去っていく。私はそんなことで挫けない。今まで幾度ともなく死線を潜り抜けてきた。乃羽のためにも……ちがうか。これはある意味、私のためだ。私のために、こんなことをしているんだ。自分を救いたかったのかもしれない。
「なあ?」
私は、卑怯だ。
乃羽を、隠れ蓑にして……こうして、私を救おうとして。
「……」
私は孤独だった。
それは、仕方がない。
そうして育てられてきた、ただ戦うために、魔女と戦うために……そのために、私は弱さを捨てるために、友人も恋人もつくれなかった。そうすることで魔女に付け入るすきを与えてしまうからだ。私は、耐えた。自分の欲望を捨てて、ただ魔女を倒すことだけにすべてをかけた。私は……そのためだけに生きてきた。
「……」
教室にはもう誰もいない。
私はただ一人、教室に残って立っていた。
「……乃羽。私は、お前に……幸せになってほしい」
Side 綾菜乃羽
私、綾菜乃羽を演じようとしているノヴァを横目で見ながら私は、小さくため息をつく。ノヴァが言った言葉。この世界は、自分の世界と別の世界であり、私とノヴァは同じ存在であるという話。もし、ノヴァの話がもし本当だとしたならば……。
「……お前が孤独なのに、私が孤独でないわけがないだろう。同じ存在なら……」
乃羽は冷たい目をして、ノヴァの後姿で囁いた。
私は、体育館裏のよりかかっていた壁から背中を離す。
せいぜい希望を持ってそして存分に打ち砕かれるがいい。そして、私と同じ気持ちを味わうがいい。同じ私なら……知るべきだ。そうすれば、きっと自分がいかに愚かなことを考えていたかわかるはずだ。
「ふっ……、何を考えているんだろう、私は」
ノヴァにだけ幸せになってほしくないようなことを私は考えている。それはきっと、私の心が病んでいるから。私が、アイツ……ノヴァにだけ幸せになってほしくないと考えているからだ。私は孤独だ。この無茶苦茶に繋がり、絡み合った人間関係の中で、私はその糸に全身に絡み取られながら、その糸のほぼすべて繋がってはいない。繋がっていると言えば……蓮華、蓮華くらいなのだろう。でも、それさえ私は拒んでいる。なぜか?決まっている。孤独は強さだ……。だから、私は孤独であり続ける。誰かと群れれば弱くなることを私は知っているからだ。群れれば幸せなのだろう。きっと……。でも、それは私を弱くする。だから、できない。
「……だから、もう一人の私に幸せになってほしくないんだろうな」
嫉妬……ノヴァという名前の自分に嫉妬。
ばかばかしい、これじゃあ、本当に、私……。
「……ふぅー……ふぅー…」
薄気味悪い息の漏れる声に、私はうつむいていた顔を、ゆっくりと上げる。
体育館裏のフェンスを越えた公園の先、それは、あのカマキリ女が死に絶えたのとちょうど、同じような場所だ。そこにいるのは身長は2mほどもある巨大なもの……者と言うのはそれが性別を判断できなかったからだ。西洋騎士の銀の甲冑姿のバケモノが、私を前にして立っている。私は、向き直るとその甲冑のバケモノと対峙する。
「化け物か……私を狙って!?」
甲冑の騎士は、長い剣を私にと向ける。私は、悲鳴を上げようとした。だが、唇を大きく噛む。此処で声を上げれば……私は、ノヴァに助けられるだろう。でも、それは私のプライドが許さない。自分よりも学校生活に慣れて、自分よりも強い私……。なら、私はなんだ?私、綾菜乃羽は……なに?私は、ヒロインじゃないし、ヒロインになんて、なりたくもない!!私は、落ちていた清掃用の掃除用具である箒を、膝で折り、武器にして、そのモンスターにと向ける。
「かかってこい……こっちは、色々訳がわからなくてイライラしてるんだ!!誰だろうが、戦うなら、全力で潰してやる!!」
私は、剣を振う甲冑騎士の真横への攻撃を、身を低くし、転がりながら避ける。しゃがみこんだ私は、棒をその甲冑にと突きたてた、だが、まるで効果がない。甲冑騎士は、剣を地面にと向けて突き刺す。私は身を返し、それを避けると、立ち上がり体勢を立て直す。
「はぁーはぁー……ったく、固い奴だな。こっちにももっとマシな武器があれば」
こんな棒では相手にならない。私は、握っていた棒を強く掴みながら、甲冑騎士の動きを見る。私は大きく息を吐きながら、呼吸を整え、再度敵の懐にと飛び込む。棒を握った私は、甲冑に包まれた敵の体を見ながら、その関節の隙間目掛け、棒を突き上げる。
「!?」
甲冑騎士の関節から、紫の血があふれ出る。ダメージがあったようだ。私は、このまま懐に飛び込み、敵を打倒そうとする。そうすれば、きっとノヴァは驚くだろう。私だって、お前に負けないところがあるのだ。そういって腰に手を当てて自慢してやる。私は、そのまま、周りの突き刺せるものを手にしながら、剣を振り回す甲冑騎士を前にして、その体を回りながら、次々と突き刺していく。
「グオオオオオオオオオオオオ!!!!」
声を上げる甲冑騎士を前にしながら、私はとにかく我武者羅に攻撃を続けていく。私は孤独だ。だから強い……それは、何かを失う恐怖がないからだ。私が今、この瞬間いなくなっても誰も傷つかないし、苦しむこともない。だから私は自分を捨てて、強くなることができる。
「はあああああ!!!」
私は、孤独でいい。
孤独だから……私はこうして今まで生きてこれたんだ。ノヴァのように……上手く立ち回れたりなんかできない。お前は……私に、仲良くなれる可能性はある、そういったな。私にはなかったんだよ。そんな可能性。もしそれを認めてしまえば、私は、潰されてしまう。自分の弱さに……家族がいなくて、一人で生きてきた私。私を愛するものなど、誰もいなかった。だから、私はそんなものをいらないと思った。求めれば寂しさと辛さに潰れてしまうから。
「私は強い!」
血が噴き出す中で、私は、甲冑騎士が膝をついたのを見た。
「このまま、終わりにしてやる!」
ノヴァ……私は、お前よりも強いんだ。
「さすが、この世界のノヴァ。ただのなんの魔力もない人間なのに強いのね?」
私はそのどこかで聞いた声を聞きながら、意識を落としてしまう。何か攻撃を受けたのだろうか。何をされたかもわからないなんて。悔しい……私は、膝を落とし、地面にとそのまま倒れる。
私は……また、負けたのか。
虚ろな意識の中で、私は思う。
私は、ヒロインになんかなりたくない……
ノヴァと一緒にいるなら、後ろにいるんじゃなくて、隣に立ちたいんだ。
私は悔しさに、目から涙を零す。
こんな姿、絶対に見られたくない。だから、私は……。
Side ノヴァ
強力な魔力を感じたはずだったのに……私が来た時には、もうそこには、乃羽の姿はなかった。私は拳を握りしめる。自分の弱さに、自分の不注意に。ただ、私は友達を作ろうとすることで必死だったから、肝心なことを忘れてしまっていた。結果的に、私は乃羽を危ない目にと合わせてしまっている。私は自分の間抜けさに苛立ちが募った。体育館の裏には、まだかすかに、乃羽の気配が残っている……。乃羽の気配を私は覚えてしまっている。ベッドの上で……隣で眠って……あんなに近くにいたのだから。
ドクン……。
乃羽のことをおもうと胸が締め付けられるような感覚に陥る。私は自分の胸を掴む。痛い……胸が。そんな乃羽の気に混じり、妖気の残骸がある。私は、そこで体育館の壁に刻まれた文字を見た。
『24時に弥生立体駐車場にて待つ』
私は、それを見ながら、拳を強く握りしめた。
「……待っていろ、乃羽」
私は一人、静かな声で告げる。




