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Episode 1  私と私の出逢い



「おかえり」

「ただいま」


 玄関の扉から姿をみせた彼女を見つめて私は、声をかけた。栗色の耳にかかるほどの髪の毛を靡かせた彼女は、私と同じ顔と容姿で、私を見つめながら……私の大好きな笑顔を見せる。私は、そんな彼女を見つめながら、自然と笑みがこぼれていた。玄関で靴を脱いだ彼女は、私の元にと歩いてくる。薄いカーテンからは、オレンジ色にと輝く夕日が、部屋を照らしている。私はベッドの上に腰を落ち着かせたまま、ただBGM代わりにしていたテレビを切る。真っ暗になったテレビ画面に映りこむのは、双子よりもそっくりな……二人の私の姿。私達は、お互いにと顔を向け、腕を伸ばして、互いの腕を握り合う。


「……乃羽」

「ノヴァ……」


 名前を……私達は呼び合う。

 

 私と同じ名前を

 私の大切な人の名前を。






それは、二つの世界の『私』の物語……。








 フローリンス歴 235年




「はあ……はあ……」



 額に張り付いた茶髪の髪、こぼれる汗、砕けた鎧に、破けた服から流れ出る血、それはともに黒く染まった土にと流れ落ちていく。左腕には力が入らず、崩れ落ちそうな身体を両足で踏ん張りながら、その片手にしっかりと剣を握り、刃の切っ先を対峙する敵にと向けている。


「はあ……はあ……」


 私が立っている場所から見える光景は、黒い台地に覆われ、空は暗雲に覆われている。太陽が閉ざされたその場所は冷気を感じ、黒く染まった大地は、固い石の台地が広がっている。草木一本も生えていない地面は、血まみれの男と女、白目をむき、泡を吹き、血を溢れさせながら、どれも皆、息絶え倒れている。その表情は惚け、絶望、快楽、絶望、幸福……思い思いの表情を浮かべているにも関わらず、皆……共通して、死んでいる。


「はあ……はあ……」


流れ出る血、疲労と体力の消耗で視界をはっきりと定めることが出来ない。しかし、その中でも……対峙する者をよく見ようと目を細める。手の中にあるその刃を強く握りしめる。呼吸を整え、刃を向け、その足を前にと伸ばす。


「貴様の命、ここで断つ!!」


 私は、体重をかけ、刃の切っ先を敵に向け、膝を曲げ、地面を強く踏み出した。私は、相手との距離を瞬時に縮める。視界にと対峙する者の姿が大きく映り込んだ。背中にまでかかる長く黒いストレートの髪の毛を乱している。彼女は大きな胸を揺らしながら、露出した白い肌からは、自分と同じように血を流し、目を見開き、こちらを見ている。私と同じように傷ついた身体であっても、彼女と私が違うところがある。それは……彼女の表情に苦痛の文字はなく、白い歯を見せ、笑みを浮かべていること。


「!!」


 大きな音ともに、私の刀を受け止める対峙するものの杖。ミシミシと音を立てながら、その黒い杖は私の刃の衝撃に震えている。対峙する者は、杖を両手で握りながら、私の刃を受け止めている。私はさらに力を加えて、距離を詰める。


「頑張るわね?ノヴァ……。そんなに私が憎い?ムカツク~~~?まったく、何をそんなに必死にもがいてるのかわからないけど、もっと肩の力抜いたらどう??男と遊んだり、お金持ちになろうとしたり、いろいろと貴女の力なら出来るでしょう?それが、こんな命を散らすような真似して、勿体な~~い」

「黙れ魔女!貴様のせいで多くの人間が死に、この世界は退廃した……お前を生かしておくわけにはいかない」


 私の吐き捨てるような言葉に、魔女は私にと顔を近づけ笑みを浮かべる。私は、そんな魔女に思い切り頭をぶつけてやる。頭突きに、魔女はひるみ、握っていた杖の手を離し、私の刃は、魔女の黒いマントを突き破り、彼女の身体を掠める。魔女のマントは破れ、露出している肌が大きく見える。その肌からは血が流れ、魔女は、黒い台地にと、崩れ落ちる。


「貴様を倒すことが、私の使命だ」

「ふ……ふふ、ふふふふ……きゃはははは。孤独な貴女が、何を言っているの。私を倒したところで、誰に感謝されるの?国も親も友もいない貴女の自己満足だけが残るでしょうねぇ。この世界の住人に義理なんか本当はないんでしょう?だったら私と一緒に世界を破壊尽くし、男を貪るなんていうのはどう?最高に楽しいわよ??」


 這っていた魔女はこちらにと振り返った魔女は、破かれたマント、そして幾多の攻撃で破かれた服から露出した肌を見せつける。その妖艶な身体、そして、どこか甘い香りさえしてきそうなその容姿は同性であれ、魅惑に惹かれてしまいそうになる。事実、この魔女に凋落されてしまった男、そして女も数多い。それほどにこの魔女のスタイルは人を引き付ける魔性の物と化している。


「懐柔の次は誘惑か?」

「人間は誰しも性癖があり、そこを刺激してやれば途端に突き崩せるんだけど?どこまでもつまらない女ね」


 私は、魔女の言葉など聞かず、その剣を倒れている魔女にと向ける。


「終わりだ!!レンゲ・シュタイン!!」


 刃をつきつけようとした瞬間、魔女は、落とした杖を握り、それを私の前にと向ける。そしてその杖は強い光を放った。


「くっ!?何をっ!!」

「きゃはははははははは!!!私が負けるはずがないの、こんな結末、何度だってひっくりかえしてあげるから。きゃはははははは!!」



 私たちは光にと包まれた。







リアル・ファンタジー



Episode 1  私と私の出逢い






Side 綾菜乃羽



 20XX年



 青い空に、白い雲……。

空を見上げても、そこにあるのは昨日と同じ、そしてきっと明日と同じ光景。私は、そんな永久不変とも思える空を見上げながら大きく息をつく。何も変わらない時間の牢獄の中で、私はただ、涼しい風を体で受けながら、青空をただ見つめている。


「こうして、綾菜乃羽は今日も一時間目の授業から立ち入り禁止のはずの屋上で寝転びながら、黄昏てるのでした」

「?!」


 私の視界に映り込む黒髪ストレート……長い髪の美少女が視界にと入り込む。

この美少女の名前は、祇園蓮華。私のクラスのクラス委員長であり、私に何かと絡んでくる女……私の唯一と言っていい友人と呼べる存在。学年一の成績を誇り、運動部系でもないのに、助っ人で入った陸上部では、全国大会1位の速さで走り、剣道部・空手部等も彼女は助っ人であったにも関わらず、全国大会1位を獲得する驚異的な運動神経、さらには、黒髪ストレートの清楚な印象をもたれるためか、学校のヒロインとも称される、容姿端麗っぷり……まったくもって完璧な女である。しかも家は、有名な財閥の御息女である。欠点があるとすれば、私みたいな奴に興味を持つその性格だと言えるだろう。


私は片目をあけて私を覗き込む蓮華を見る。


「こんなところで、私なんかと絡んでるとまた、取り巻きが煩いよ?蓮華」

「はあー……いちお、友人として注意してるつもりなんだけど?」


 腰に手を当てて、ため息をつきながら答える蓮華。蓮華の声を聞き、私は上半身だけ身体を起こす。制服についた土やゴミをはたきながら、私は大きくため息をつく。蓮華は笑顔で私を見つめている。その視線に気が付いた私は、もう一度、大きくため息をついて口をあける。


「わかったって!蓮華委員長にいわれたんだったら、それはまぁ授業には出ないといけないよな!!」


 背伸びをしながら、私は腕を伸ばして立ち上がった。今の私の恰好は肩にかかるほどの長さの髪の毛……髪の色は栗色の茶髪で、第二ボタンまで開けた白いワイシャツと短くしたスカートを身につけている。スカートの中身はパンツを履いて見られもいいようにはしている。だが、この格好は立派な校則違反。といっても、私を注意してくれるのは、この蓮華くらいだろう。教師でさえ、私を怖がり……まともに注意さえしてこない。どいつもこいつも腑抜けばかりだ。


「私以外、だーれも乃羽に注意しないんだもんねー。まあ、不良数十人を一人で、ボコボコにしちゃうんだから、そりゃー先生も怖がるかもね」

「私は自分の身を守っただけだし、それにきちんとテストで結果は残してる。文句ないだろう?」

「ダメだよ。学校って、みんなと仲良くして共同生活に慣れる場所なんだから。乃羽みたいに、か弱い羊を見ながら涎を啜る場所じゃないの」

「……私は狼か」

「それじゃあ、私先にいってるから……ちゃんと授業でなきゃダメだからね?」

「わかったよ」

「もし出なかったら、乃羽が屋上であんなことやこんなことをしているのバラしちゃうんだから」

「おい!!委員長が脅迫するな!!」


 蓮華は笑顔だけを残して、そのまま屋上を去っていく。私は、再び大きくため息をつきながら、蓮華の後を追いかけるようにして、でたくもない授業・そして教室にと向かう。屋上から学校内に入る扉を開けて、私は階段を下りていく。窓の外から見えるのは、緑色の木々が日差しに照らされている。


 白麗学園。


 私が通う全寮制の進学校である。

 私立の名門校だけあり、敷地面積は、東京ドーム3個分の広大な大きさを誇り、建物内では、室内水泳・テニス場等様々な施設が組み込まれている。進学率が高いということから、ある程度の頭のいいものたちがやってきていたりもすわけだ。まあ……中には、私のような少し変わったような奴がいるわけだが。

 私は、廊下を歩きながら、自分の教室で足を止めて、教室の扉をあける。私の登場に、クラスからの好奇の視線が突き刺さる。私は思わず睨み返そうとしたが、蓮華が私をジーっと光のない瞳で見つめているのに気が付いて、やめた。私は自分の机にと歩いていく。


「遅刻はしないように……乃羽」


 私を見た教師が私の顔色を伺いながら注意する。私は、『はーい』と返事をして席に座り、鞄から教科書を出しながら、教師の話を聞くことにする。視線をそらせば、こちらを笑顔で眺めている蓮華がいる。私が教室に来たことに安堵しているようだ。私としてはありがた迷惑な話だ。だいたい……蓮華こそ、こんな授業など聞いても無駄な奴の一人だ。あいつの頭の構造は人とは違っている。こんな勉強受けずとも、軽く海外の有名大学くらい受かってしまうだろう。



「まったく、神様っていうのは随分と不公平に人間をつくるもんだよ…」

「そうね……頭脳明晰・容姿端麗・運動神経もいいし」


 次の授業の移動中に、私は、隣で優雅に歩く蓮華を横目で見ながら言葉を並べる。そんな私の言葉を、蓮華は淡々と並べていく。私は横目で蓮華を見る。


「なんだ?自慢か?」

「え?乃羽のことを言っていたんじゃないの?」

「お前が言うと嫌味にしか聞こえないぞ……」


 私はそう答えながら、次の授業の体育のために、体操着を持ちながら移動していく。そんな私の背後から抱きしめてくる蓮華。私は、思わず前のめりにこけそうになりながら、強く足を踏み出し、力を入れて耐えながら、後ろから抱きついてくる蓮華を見た。


「きゃっ!!お、おい!蓮華!?」


 蓮華は笑顔で、その手を、前にと伸ばし私の着ている制服の上から、胸を下からすくうように持ち上げる。私の目の前に現れる大きな二つの球体……。私は思わず頬を赤く染めながらも、すぐに拳を握りしめ、蓮華の頭を叩く。蓮華は、私から離れると頭を押さえながら、涙目になりつつ、私を見る。


「こんな大きな胸をしているのは、容姿端麗な証拠じゃない?」

「お前は容姿端麗という意味をまず勉強してこい」


 私は蓮華に言い放つ。そんな私と蓮華のやり取りに、欲情を抱く男子クラスメイトの一人を素早く感じ取り、振り返り鋭い目で威嚇する。男子クラスメイトは、そんな私のにらみに驚いた表情で、声を上げる。



「俺が悪いのかよ!?」



 護国翼……クラスメイトの一人で、私を一方的に好きになっている男子だ。今まで2回告白されているがどれも断り、回し蹴りもついでに与えてやっているのだが、まったく懲りない奴だ……私なんかと付き合ったところで、何も面白くないし、それに……私は一人でいたい。本当なら……蓮華とこうしているのも、私は正直、いいとは思ってはいない。出来ることなら、あの屋上で、ずっと独りでいたいと……私はそう思っている。


「やっぱり、乃羽の身体は殺人的ですな~~~」

「五月蠅い!」


 私は自分が欲情の対象となってしまったことに、その目を細くし、蓮華をにらんでやるが、その視線を蓮華は笑顔でかわす。更衣室にとそのまま一定の距離を保ちながら入っていく。更衣室では、皆クラスメイトと談笑しながら、着替えている。私もまた着替えながら、この退屈な時間が早く過ぎ去ってほしいということだけを願っていた。私の視界に入る先ほど、私の胸を揉んだセクハラ犯である蓮華は、彼女の取り巻きの友人たちに囲まれながら、そのスタイル抜群な身体のラインを取り巻きに羨ましがられている。蓮華は……私よりも大きく豊満な胸が動くたびに揺れており、腹部や腰はしっかりと引っこんでいる。肩や腕はスラリと伸び、無駄な肉が見えない。女子としては憧れの的といえる。私は、誰とも話すことなく、さっさと体操着にと着替える。こういう周りがガヤガヤしているような場所は好きではなかったから……。



「……さっさと終わらすか」



 私は腕を伸ばし、軽く準備運動をしながら校庭にとでる。憂鬱な私の前、既に何人かの生徒たちが待っているようだ。体育教師がボールを持っていることから、だいたいの予想はつく。ドッチボールか……。


「折角、乃羽が授業に出てくれたんだし……ここは対抗戦でもしない?」


 乃羽の後ろから声が聞こえる。

 私はもはや振りかえることもせずに、口を開く。こんなことを言ってくるのは私が知っている限り一人しかいない。私は、背後にいる蓮華に向かって口をあける。


「まさか、お前…体育の種目まで権力使って口を出したんじゃないんだろうな?」

「さあ、どうかな?」


 蓮華の意味深な言葉を聞きながら、私はひきつった表情を浮かべる。蓮華ならやりかねないと思ったわけだ。蓮華の意志が介在しているかどうかはともかくとして……私達は、クラスを二チームに分けてドッチボールの対抗戦を行うこととなった。無論、私と蓮華が分かれてのチーム戦だ。私は蓮華とコートの真ん中で対峙することとなる。蓮華は私を見つめながら終始変わらない笑顔を見せてくる。私は、そんな蓮華の笑顔を見つめながら……。


「私がやる気を出さずに、あたってそのままふけたらどうするつもりなんだ?」

「そうね、そうしたらまた色々と秘密を言っちゃおうかな?」

「よくわかった。性格の悪いっていうところがお前の欠点だな」

「あら?そう?」

「ああ、そうだ」


 私達のそんなやり取りとともに、ボールが高く空を舞う。私と、蓮華が同じように地面をけり上げ飛び上がり宙を舞うボールを自分の陣営にとボールを落とそうと手を伸ばした。私と蓮華が競り合う中で、蓮華の胸に私の体が押される。私の手よりも蓮華が先にとボールにと触れた。


「どっちの胸がでかいって?」

「大きいというより、固いのかもしれないわね?」


 自分の胸を見つめながら蓮華はつぶやく。着地した私を前に、蓮華の取り巻きの一人、小柄な笠原真希がボールを掴み私にボールをぶつけようとする。何かと私を目の敵にしてくる女……以前も、喧嘩を吹っかけてきて、私はなんなく叩きのめしてやった一人だ。黒髪ツインテールが特徴の小柄な女子だ。彼女は、私目がけボールを掴み投げつける。私は、そんな真希のボールを片手で受け取る。真希は、呆然とした表情で私を見ている。私は、そのまま、勢いをつけて、真希目がけボールを投げ返す。真希にとボールは命中し、真希は反動で後ろにと吹っ飛ばされる。私は、勝ち誇った笑みを浮かべながら、後ろにと下がろうとした。



「えーい」



 そんな真希に代わり、蓮華がボールを投げてくる。

投げた場所は……私の後頭部。

私は思わず、その場でうずくまりながら、涙目になって、蓮華を睨み付ける。


「おい!!頭は反則だろう!?」

「ああ、ごめんごめん」

「わざとだ……この女、わざとやっている……」


 私は拳を握りながら蓮華を見るが、蓮華は悪びれずいつもの笑顔を向けるだけだ。私はため息をつきながら、再度、陣地にと戻る。蓮華がボールを持ち、私めがけボールをなげつけてくる。そのボールの勢い……男子が投げる以上の勢いの球速。しかも、蓮華は私に対してあてるつもりがあるのか、私の目の前にと投げつけてきた。私は、蓮華が挑発してきていることをすぐに察する。


「上等だ!覚悟しろ!!」


 私は、蓮華めがけボールを投げつける。

蓮華はそれをしっかりと受け止め、再び私めがけ投げつけてくる。


「さすが、乃羽。私の愛を受け止めれるのは、乃羽くらいだね」


 私もまた、蓮華の投げたボールを受け取り、再度投げ返す。


「なにが愛だ!!」


 蓮華も私も、周りの置いてきぼりを食らっているクラスメイトなど気にせず互いに向けてボールを投げつけ合う。


「酷いな、結構本気なのに……」

「なら、私に素直に負けたらどうだ?」

「そうね?でも、乃羽ってMでしょ?負けた方が喜ぶんじゃないかなって」

「お前がドSっていうところだけは知ってる……ぞ!!」

「なかなかやるわね……それじゃあ」


 蓮華の投げたボールは、自分が投げつけた力強いボールとは違い、速度は速くない。私はそれを掴み一気に距離をつけぶつけてやろうとした。だが、私の手に触れたボールはそのまま、私が掴もうとした手を弾き、地面にと落ちる。


「なっ!?」


 笛が鳴り…私はアウトとなってしまった。

 確かにつかんだはず……私は蓮華を見る。

蓮華は私を見つめ笑みを浮かべながら、腕を乃売手Vサインをする。


「回転を加えたのか?」

「力押しじゃダ~メ。頭を使わないとね?乃羽」

「ちっ……ったく、やってられない!」


 私は、渋々と外野にと回ることになる。蓮華相手、彼女を打倒せる奴は、このクラスにはいないだろう。結果は見えている。後は、暇潰しながら、適当に頑張っているよう見せればいいか。私は、ため息をつきながら、中でわいわいと騒いでいる女子達を眺める。そんな中、私の頭上を飛んでいくボール。


「乃羽!なにしてんの?早くボールとってきて?」


 蓮華の声を聞きながら、私は目を細めて、にらみながら渋々とボールをとりにいく。どうやら、蓮華は私を休ませる気はないようだ。私は渋々、ボールをとりに、体育館裏にと向かっていく。



「……はあ」



学校の隣が公園で、体育館裏とフェンス越しに繋がっていた。裏は雑草が伸び、木々に日差しが遮られ薄暗くなっていた。体育館裏から、私は公園にと足を踏み入れた。落ち葉につつまれたその場所で……落ちているボールを拾う。私はボールを手に取りながら、顔を上げた。大きく伸びた木々の向こうに青い空が見える。それは、私がよく屋上で見る……青空の姿。昨日と変わらない空、そして明日と同じだろう空。私は、こんな退屈な世界で、ただもがいている。握っているボールを見つめながら、私は、こんな遊びで、自分の気持ちを紛らわすことしかできなかった。そして、こうして誰かとつるむことで、私は自分が弱くなってしまうのではないかと不安に感じていた。


私は孤独だ。

だから、私は強い。


 孤独だからこそ、私はどんなことでも耐えられてきた。だから、こうして蓮華の気分屋に振り回されているのは、私にとってはプラスじゃない。ボールだけ、投げて、このまま帰ってしまおう……私はそう思いながら、歩き出す。



「?」


 振り返った私の前……そこに、誰かが倒れている。先ほどまで誰もいなかったはずなのに。人の形をした影はピクリとも動かない。私は、首をかしげながら倒れているその影にと近づく。


「!!?」


 さすがの私も、その影を見て、言葉を失い、思わず尻もちをついてしまった。なぜか?それはその人物が、いつもよく見るものであったからだ。そう離れたくも離れられない……私。私自身……綾菜乃羽にそっくりな容姿をした女が倒れていたのだ。しかも彼女の体からは血が流れ、何の服かわからないが、あちこちが破れ、肌が露出している。私は、おそるおそる、その倒れている少女にと近寄り、私と同じ顔をしたその頬をつつく。


「……」


 柔らかい感触、そして温かみ……どうやら生きてはいるようだ。私は、その状況を理解できぬまま、その場でその女を見ることしかできなかった。そして、その女の目がゆっくりと開く。私は、慌てて彼女から離れるようにして這うように体を動かしながら、距離をとろうとする。そんな中、女はゆっくりと身を起こし、私と視線が合った。全く同じ容姿をしたもう一人の私と……私の視線が交錯する。



Side ノヴァ・インフィニティ



 ぼんやりとした視界の中、私の視界に入り込んだのは……どこかで見た、いや見慣れた女の顔。友人も家族もいない私にとって、その女はいつも私を見ていた。私の中で唯一人間として認識できた顔……姿。茶髪の短髪で、丸顔……鍛えられた体に、胸は大きく、動くときには少し邪魔に感じるほどで。私は徐々に覚醒する意識の中で、それが私そっくりの存在であることに気がついた。ただのそっくりと言う言葉は真実ではないだろう。瓜二つ……私そのものが、そこにはいた。私はもっと彼女を見ようとして体を動かすと、全身に身に痛みが走る。私は、目を細めて痛みをこらえながら、驚愕の表情を浮かべている……私と瓜二つ女を見つめる。


「此処はどこだ?」


 私の問いかけに、私と瓜二つの女は、ゆっくりと口を開ける。


「此処は、白麗学園の体育館裏だ。そういうお前は何者だ?」

「ハクレイガクエン……聞いたことのない場所だ」


 私は、自分の現在位置を確認出来ぬ状態に不安を抱きながらも、周りを見渡す。見たことのない木々だ。だが、周りからは濃い妖気といったものを感じることはできない。どうやら、この場所は、魔女と戦った場所とは違う場所であることは理解ができた。それに、周りの風景を見ても、こんな場所は初めてだ。一体……何が起こったというんだ。私は、混乱した中で、とにかく冷静になろうと、大きく息を吐く。


「おい、聞いてるのか?お前は誰だ?どうして私と同じ顔をしてるんだ?」


 私はこの状況を考えなくてはいけない。魔女の放った光…そこから意識が飛んでいる。なにか魔法をかけられたのだろうか。だとすれば、これは魔女の術中の内?だが、この草木の手触りは酷く現実味がある。魔女の幻覚としては、これは現実的過ぎる。


「こらっ!無視してんじゃねぇ!!」


 私の両肩に手を置き、目の前の私と瓜二つの女が私の体を徹底的に揺する。私は、頭がくらくらする中、同じように、目の前の瓜二つの女の肩を掴んだ。



「?」

「……ったいだろう!!お前!!こっちは怪我人だぞ!!」


 同じように私も揺する。徹底的に……。

 それに対抗するように、目の前の私と同じ顔の女も私を揺する。


「私の質問に答えないからだろうが!!」

「煩い!!だいたい、いきなり失礼だろう!?名前ぐらい名乗れ!!」

「私は、綾菜乃羽だ!!ほら、名乗ったぞ!いい名前だろう?お前も名乗れ!!」

「乃羽?私もノヴァだ!!ノヴァ・インフィニティ!ふん、お前よりもいい名前だな」

「同じ名前に、容姿とは、面白いな?なんだったら、その体の中身、性格も一緒かもしれないな!?」

「ああ、私もそう思ったところだ!!だが、容姿すべてが一緒だとは思いたくはないけどな!?」

「そうだな、胸の大きさは私が上かもしれないしな」

「比べたいのは山々だがこのまま、こうしていたら私は失血死だ!」


「「……」」


私の死という言葉に、ようやく冷静になったのか、肩を掴んだ手を離す乃羽。随分と言い争いをしたのか、二人して、大きく息を吐く。乃羽は、立ち上がり私を見下ろす。


「とにかく、お前を私の家まで連れていく。このまま、私の姿で、そんな河口で倒れられているのをほかの奴に見つかる訳にはいかないからな……何を言われるかわかったもんじゃない」

「それは助かる……ついでに薬諸々も処方してくれると尚嬉しいな」

「ったく、我儘な奴だ……」


乃羽が、私に手を伸ばす。私は差し出された腕を掴み、起こされる。体中の痛みのためか、それとも、体力の消耗が激しかったのか……足がふらついて、私はそのまま乃羽に抱きついてしまう。乃羽の肩に頭をのせ、私は、自分の体を支えるために、乃羽の腕を掴み、乃羽もまた私の体重で倒れないようにするために、私の背中にと手を回して、私の身体を包み込んだ。私と乃羽の身体が……重なり合う。




「「……」」




 一瞬の静寂。


 心臓が高鳴っている……それは、私と同じ体を持っている乃羽からも感じられた。乃羽の胸から聞こえる心臓の鼓動。乃羽の鼓動と私の鼓動が重なり合っている。私と乃羽は身長も同じだからか……。私の胸と彼女の胸がしっかりと重なっているから余計にそう感じることができた。その鼓動と彼女のぬくもりに、私は今まで感じたことのない感情を覚える。



誰かにこうやって抱きしめられたこと……抱きついたこと……生まれて一度もなかった。



「すまない……」


 私は一言そう告げ、彼女から身体をゆっくりと離す。

乃羽は、何も言えずただ私を黙って見つめている。私達は、お互いをもう一度見つめながら、その場の雰囲気に、どう切り出していいのかわからなかった。同じ私同士で……何を話していいのか、わからなくて。



「綾菜さん?ボール……まだ?」



 静寂を切り裂くように声が聞こえる。

乃羽は私を背中に隠す。私は乃羽の背中に隠れながら、乃羽に近寄る大人の眼鏡をかけた女を見た。乃羽といい、この女といい、私の世界では見ないような衣服をしている。一体、どんな装備品なのだろう。乃羽は私の身体をしっかりと自分の背中で隠すようにしながら……。


「あ、ああ……すまない。すっかり忘れてた」


 動揺してか、乃羽は少しぎこちない声で、ボールを掴みそれを眼鏡女にと投げて渡す。眼鏡女は、それを受け取ると、腰に手を当てて乃羽を見つめる。眼鏡の奥の目を私は乃羽の背中越しに見つめていた。


「すっかりじゃないでしょう?一体何をやって……!?」


 女の言葉が途中で途切れる……それは、私が乃羽をどかして、握っていた剣を眼鏡女にと突き刺したからだ。眼鏡女は目を見開き、自分の腹部に突き刺さっている剣を見つめ震えている。腹部からは血が流れ落ち、眼鏡女は咳き込みながら、血を吐きだす。私は、傷ついた身体を振り絞り、剣を引き抜く。眼鏡女は、足をふらつかせながら、後ろにと下がっていく。


「おい!!お前!いきなりなにしているんだ!?」


 乃羽は私の行動に驚いたのか、私の服を掴む。私は剣を引き抜き、その剣を乃羽に見せてやる。剣を染めるのは紫の色をした血液。それが、ドロドロと眼鏡女の腹部から紫色の血が流れ落ちている。私は、乃羽を自分の後ろにと下げ、剣を眼鏡女にと向けた。


「姿形を変えようとも、その妖気を変えなくては意味がないぞ」


 乃羽は目の前で、ありえない血の色を流している眼鏡女を見つめて、驚きの表情を見せていた。


「う、うそだろ……こんなの」


 呆然とする乃羽と私の目の前でふらつく眼鏡女は、その眼鏡をおとし、こちらを見る。目が金色に輝くと彼女の体が変形を始める。服から出ていた腕が上下に裂かれ、4本の腕となり、腕の長さも驚異的にと伸びていく。その顔もまた目が大きく見開かれ、口もまた耳まで裂けるほどとなり、新たな巨大な牙が口の中から外にとはみ出して生えてくる。ジャージはビリビリと破れ、足もまた長く伸びていく。私たちの目の前で、眼鏡女は、その姿を6本の長い足で地面に這いつく、まるで虫のような化け物と化す。


「お、おい私は夢でも見てるのか……」

「くそ……こんなときに」


 疲労困憊な私には、この凶悪なモンスターと戦って勝てるかどうか、自信がなかった。立っているがやっとの状態。私は剣を向け、その虫型のモンスターの動きを見定める。虫型のモンスターは、その腕を伸ばす。


「はやい!?」


 その鋭い腕を私は剣で受け止めることしかできなかった。私は、そのまま地面にと横になぎ倒される。握っていた剣が手から落ちて地面にと突き刺さった。私は、地面に倒れながら、大きく息を吐く。身体が思った以上にいうことを聞かない。しかも相手の速さに身体がついていけない。


「おい!大丈夫か!?」


 私に駆け寄る乃羽。

 彼女は私の体を抱きかかえながら大声で叫ぶ。私は、背後に見えるモンスターを見た。虫型のモンスターは、私達をその180度見渡すことができる目で、私達を捉えている。このままじゃ、乃羽が危ない。


「私のことは構わず逃げろ!!」

「そんなことできるわけないだろ!」

「いいから、いけ!このままじゃ……お前が危険だ」

「できないっていってるだろ!」

「いけといっているだろう!!」

「……ふざけんな!!」


 乃羽が大声で私に向かって叫んだ。

 私は乃羽の声に、今までモンスターにのみ集中していた意識を乃羽にと向けた。彼女は私の目を見つめたまま、大きく息を吐いている。


「勝手に巻き込んでおいて、そのまま勝手に逃げろだって?ふざけんな!お前がどこの誰か、なんでこんなことになったか、全部説明してもらうまでは、絶対に私はお前から離れないからな!」

「どうして……そんなに、私なんかに……」

「……お前が、私に似ているからだ。自分と似た奴を置いていくなんて……できない」

「それだけか?」

「ほかに何かいるか?」


 私と乃羽はお互いを見つめ合う。

 乃羽が私を助けようとしている理由はわからない……でも、こんな風に言い出したら、きっと梃子でも動かないだろう。なぜわかるか?簡単だ……。こいつが、乃羽が、私だからだ。


「……」

「……」


 暫くの沈黙の後、私は小さく息を吐く。


「……どこまでも、私と似た奴だな、お前は」

「同じ『ノヴァ』だからだろ?」

「そうだな……同じ『乃羽』だからかな」


乃羽と私はお互い笑みを浮かべ合う。

 こうして誰かと笑ったこと、いつ以来だろうか。なぜか……目の前の乃羽といると、私の今まで感じたことのない感情がどんどん湧き上がるような感じがする。不思議な存在だ。私達は、お互いを見つめていた目を、背後にと迫る怪物……怪物から発せられる殺気にと向ける。私と、乃羽は咄嗟に地面を転がるように左右にわかれる。乃羽は突き刺さった剣を引き抜くと、虫型モンスターにと切りかかる。虫型のモンスターはそれを察知し、その長い腕を乃羽にと向ける。


「乃羽!!」

「わかってる……」


 乃羽は、長く伸びた腕を、体勢を低くし、地面を擦るようにスライディングしてかわし、握っていた剣をその伸びた腕にと切りつけた。細長い腕は、剣で切られ、紫色の血が噴き出す。やはり、こいつは、速度は凄まじいが、身体の皮膚はそこまで固くはないようだ。

距離をつけた乃羽だが、彼女の体は、もう片方の手にとって叩きつけられる。


「くっ!!」


 乃羽の腹部を押しつぶそうとする虫型モンスターの腕。だが、その腕は、私が乃羽から受け取った剣で切り落とす。二本の腕を失った虫型モンスターは悲鳴をあげながら、二本の足で立ち上がり、まだあるもう二本の腕で私たちを襲う。


「ギイィイイイイイイイイイイ!!!!」


バケモノの声を聞こえてくる。私たちは視線を互いに送りながら、モンスターの懐にと飛び込む。二本の腕で私たちを潰そうとするが、乃羽が、潰そうとした腕を切り裂き、そしてその剣を私にと投げ、私がまた別の腕を切り裂く。その一連の動きに、虫型モンスターは地面にと倒れる。乃羽は、剣を握り、倒れているモンスターの腹部に剣を突き立てる。だが、その箇所だけ表面が固くなっており一人では無理だ。


「手伝おうか?ノヴァ」

「お願いする……乃羽」


 私が彼女の握る手に自分の手を重ね、二人で力を合わせて、モンスターの腹部を貫く。悲鳴を上げたモンスターは、血を溢れさせながら、動かなくなった。血を噴出しながら、まるで血の雨のように、あたりを血に染めていく。血に染まりつつ、私たちは、そのまま、地面にと大の字に倒れる。


「どうしてくれるんだ?制服が滅茶苦茶だ」

「洗えば済む話だろ?」

「ったく……勝手なこと言って。全部説明してもらうぞ?」

「ああ、私も色々と知りたいしな」



 私たちは、同じように青空を見ながらそう告げ合う。

 青空は、昨日と同じ、そして明日と同じだろう。

 

だが、私達の出会いは、そんないつもと変わらぬ日常を根本的に変えてしまうものとなった。



 私達は、お互いの方にと顔を向ける。

 私と同じ私の姿を見て……他人の気が私はしなかった。







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