第15話 彼が良いんです
10月4日。
今日は復縁後初の繋とデートの日。
そして私にとってはもうひとつ大きな予定があった。
夜繋のご両親と妹さんに会うことになっていたのだ。
今度こそちゃんと結婚を見据えた交際をする。
そう言って繋が家族に紹介してくれることになった。
嬉しかったけど、それ以上に緊張していた。
だって初めて彼氏の家族に会うんだもん。
あの日以来顔を合わせていなかった私たち。
恋人には戻ったけれど正直まだ少しぎこちなかった。
何を話したらいいんだろう。
今までどんな話をしてたっけ?
普通に買い物をするだけじゃ会話が続かないかもしれない。
そんなことを考えていた。
そこでこの日は映画を観ることにした。
まずはイオンでお昼ご飯を食べてそれから映画館へ。
選んだ作品は『アダムス・ファミリー』。
アニメ映画だった。
私はそれまでアダムス・ファミリーを観たことがなかった。
どんな話なんだろう?
そんな気持ちで観始めたのだけれど。
なにこれ…
……面白い!!
思っていた以上に面白くてすっかり夢中になってしまった。
映画が終わる頃には、最初のぎこちなさなんて忘れていた。
「あのシーン面白かったね!」
「あそこも良かった!」
「実写の映画も観たい!」
気づけば夢中になって感想を話していた。
映画を観るまでは何を話そうか悩んでいたのに。
こうして普通に笑い合えることが嬉しかった。
……やっぱり繋といるのは楽しい。
映画が終わっても夜の食事まではまだ時間があった。
そこで繋の家族への手土産を探すことにした。
何がいいかな?
せっかくなら喜んでもらえるものがいい。
二人でお店を見て回りながらあれこれ相談する。
「あれは好きじゃない」
「これは俺が好きじゃない」
……いや繋が食べるわけじゃないでしょ!(笑)
そんなやり取りをしながら手土産を探した。
あぁでもない、こうでもない。
さっきまで会話が続くか心配していたのが嘘みたいだった。
気づけば時間はあっという間に過ぎていた。
そしていよいよ約束の時間が近づいてきた。
……緊張する。
映画のおかげですっかり忘れていた緊張が、また戻ってきた。
食事をするお店に着くと繋の家族はもう到着していた。
案内された席に、ご両親と妹さんが座っている。
……うわぁ。
本当に会うんだ。
今さらだけどものすごく緊張してきた。
心臓が早鐘を打っている。
私は頑張って挨拶をした。
……はず。
正直向こうがどんな反応をしたのか全然覚えていない。
それくらい緊張していた。
何を話したのかも、あまり覚えていない。
ただ、ひとつだけ覚えていることがある。
私、卵が好きです!!
……って主張した気がする。(笑)
なぜ、よりによって卵だったんだろう。
いや、好きだけどさ。
もっと他に話すことあったでしょ、私!(笑)
そんな調子だったから、食事も全然喉を通らなかった。
せっかくの美味しいご飯なのにほとんど食べられない。
初対面なのにこんなに食べないなんて。
印象が悪くなってないかな。
そんなことまで気になってしまった。
何とか食事を終えてみんなで駐車場へ向かった。
そこで繋のおかあさんから声をかけられた。
「この子クズだけどそれでもいいの? この子で大丈夫?」
……クズ。
おかあさん、自分の息子に結構はっきり言うんだなぁ。(笑)
私ははっきり伝えた。
「大丈夫です。彼が良いんです。」
そう答えた。
ついこの間繋にはひどく傷つけられた。
許せないことだってまだある。
それでも私は繋が好きだった。
他の誰かじゃなくて繋と一緒にいたかった。
だからあの言葉に嘘はなかった。
最後におかあさんと握手をして私たちは別れた。
初めての家族への挨拶がようやく終わった。
帰り道。
緊張から解放された私は繋に聞いてみた。
「緊張して全然ご飯食べられなかったよー。変じゃなかった?」
繋はあまり興味がなさそうに答えた。
「大丈夫じゃない?」
……それだけ!?
こっちはずっと緊張してたのに!
まぁ繋らしいといえば繋らしいけど。
「ていうかおかあさんからクズって言われてたじゃん(笑)」
そう言ってみても繋は特に驚く様子もなかった。
……知ってる、みたいな反応。
いやいや。
自分のおかあさんからクズって言われてるんだよ?(笑)
もうちょっと何かないの?
でも、そんなやり取りも何だかおかしかった。
今日は本当にいろんな意味で疲れた。
復縁後、初めてのデート。
映画を観て、笑い合って。
二人で手土産を選んで。
そして、繋の家族に会った。
緊張しすぎて、何を話したのかさえほとんど覚えていない。
それでも、ひとつだけはっきり覚えている。
「彼が良いんです。」
あの時、私は迷わずそう答えた。
それが、私の本当の気持ちだった。
家に帰り着く頃にはもう限界だった。
緊張が解けた途端どっと疲れが押し寄せてきた。
そして私はそのまま眠ってしまった。
……初めてのご挨拶ってこんなに疲れるものなのね。(笑)
――第15話 彼が良いんです 終
不定期更新ですが温かく見守ってください(›´ω`‹ )




