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勿体ないお言葉
「ところで、折角の機会だし言っておこうかな。有栖をいつも良くしてくれてありがとう、由良くん」
「あっ、いえとんでもないです! その、僕の方こそ蒔……いえ、有栖さんには本当にいつも助けてもらっていて……なので、感謝を伝えるべきなのは僕の方で……その、ありがとうございます、お父さま」
「ふふっ、僕は何もしていないけどね」
僕には勿体ないお言葉に慌て――それでも、彼の目を見つめ感謝を告げる。すると、少し可笑しそうに微笑むお父さま。……うん、その表情も何処か蒔野さんと重なって――
その後も、しばし和やかなやり取りを交わし病室を後にする僕ら。すると、ふとお父さまから柔らかな仕草で呼び止められる。蒔野さんではなく、僕一人だけを。
ともあれ、彼女に一言断りを入れ再びお父さまの下へと向かう。そして、先ほどの柔らかな――それでいて、甚く申し訳なさそうな微笑でゆっくり言葉を紡ぐ。
「――君には、本当に苦労をかけてしまうけれど……どうか、有栖のことをお願いします」




