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絶対に出来ないから。
そういうわけで、共に船原家へとやって来た僕ら。今思えば、こうしてここに来られたことすら彼女がいてくれたからかも。一度決めたこととは言え、僕一人なら理由を付けて逃げ出すことも出来た。
だけど、彼女が――蒔野さんが一緒となると話は別。今更ながら、出来ればこれ以上情けないところは見せたくないし……何より、僕の支えになりたいといってくれた彼女の想いを無下にすることだけは、絶対に出来ないから。
「…………ふぅ」
今一度、深く呼吸を整える。……いや、何度整えてるんだと自分でも思うけれど、今度こそ扉に近づきそっとインターホンに触れる。すると、ややあって応答の声が届く。彼によく似た、柔らかな男性の声が。そして――
「……こんにちは、船原さま。改めてですが、お二方にお会いしたいという手前勝手な要望をご了承いただき、誠にありがとうございます。そして、改めてですが……かつて友希哉くんの上司を務めていた、由良恭一と申します」




