……ごめんね、蒔野さん。
そう、柔らかに耳をくすぐる声。既に名前は確認してたけど、確認せずともその声だけで分からないはずもなく――
「……うん、久しぶり……蒔野さん。うん、お陰さまで。蒔野さんは?」
『ふふっ、何ともテンプレートな返答ですね。はい、私もお陰さまで』
そう答えると、少し可笑しそうな声で返答が届く。あの後、お母さまの申し出を断ったという蒔野さん。だけど、それでも夏休みくらいは一緒に過ごさないかとお誘いを受けたようで。一緒に暮らすという最初の申し出を断った申し訳なさ、そして久しぶりにお母さまと過ごしたいという気持ちもあり、夏休みだけならと承諾し、ここ一ヶ月ほど北海道にいるわけで。
ともあれ、およそ一ヶ月ぶりの蒔野さんの声……うん、ほんとに久し――
『……ところで、由良先生。この一ヶ月、よほどお忙しかったようですね?』
「……ん? いや、別にそれほど……あっ」
すると、ふと届いた彼女の言葉に疑問を抱きつつ答えるも自身で留める。と言うのも……何処か不満の窺える彼女の声音からも、何を言わんとしているか流石に分かったから。
……うん、僕も思ったよ? どうしようかなって。でも、然るべき理由もないのに生徒に連絡するのは流石に教師という立場として……いや、今更どの口が言ってるんだと自分でも思うけども、それはともあれ――
「……ごめんね、蒔野さん。それから、声を聞けて本当に嬉しい。……正直、寂しかったから」
『…………やっぱり、ずるいですよ、先生』
そう伝えると、ややあって微かに届いた言葉。……ずるい、か。これでも、全部本音なんだけどね。
その後も、彼女との楽しいやり取りは暫し続いて。お母さまとの他愛もないやり取りや、来て初めて分かった北海道の魅力など話題は尽きないようで。次は是非ご一緒に、と言ってくれたけど……うん、それは流石にちょっと返答に困ったり。




