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久谷舞香
――あれは、数日前のこと。
『……あの、ひょっとして……由良恭一さん、でしょうか?』
『…………へっ?』
突如、久谷さんが倒れた日の放課後――どうしたものかと、彼女のご自宅近辺をうろうろしていたその頃。
怪しい者ではありません――そんな相当に苦しい僕の主張に被さる形で、控えめに尋ねる端麗な女性。初めまして、ではあるけれど……ある美少女を鮮明に思わせるその容姿から、彼女がどういう人か流石に分からないはずもなく。
ともあれ、少し慌てつつ彼女の問いに肯定の意を示す僕。すると、安堵したように微笑む女性。それから、徐に口を開いて――
『……彩香から、話は聞いています。初めまして、由良恭一さん。私は久谷舞香――これ以上の紹介は不要かもしれませんが、六つ歳上の彩香の姉です』




