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休暇期間も残り3週間と言ったところで、僕はハリソン殿下、キャロリアーナ嬢と共にアカデミーに訪れた。
農業科で畑を見て、成果について説明を受け、収穫した野菜と小麦を見たり、調理をして試食をした。(※もちろん毒味済み)
一番目を輝かせたのはキャロリアーナ嬢だった。
「一緒に植えるだけで害虫対策になる上に、大きく育つなんて、凄いですわ。小麦だけじゃなくてその野菜も収穫できるなら、反対する貴族も居ないわよね?どうして今まで知られていなかったのかしら!」
その喜びの声に応えたのは、補助をする女性教員だった。
「私が生まれた村ではよくやっていたのですが、こちらで働く事になって畑のお世話をする際、何となく口にした所、教授に勢い良く食いつかれまして…」
驚きましたと口にするその教員は、照れ臭そうにそう話してくれた。
ハリソン殿下は、キャロリアーナ嬢の様子に嬉しそうに目元を緩めながら、口を開いた。
「一部の地域に埋もれている知識を研究して広め、国が豊かになるならこれほどの事はない」
「全くですわ、殿下。こうしてその始まりを殿下と共に経験できる事も……とっても幸福な事ですわ」
そういうと見つめ合う二人。
普段からキラキラしいのに、威力をアップさせた上、蕩ける笑みを浮かべたハリソン殿下と、目が輝きっぱなしな上に頬を染めるキャロリアーナ嬢。
確かに成果は素晴らしい上に、味もより良く感じる。その上野菜も瑞々しい。それを国民に還元するというのも素晴らしい。
……が、それ、この皆が集まっているど真ん中で繰り広げる必要って有りましたかね?僕は慣れていますが、周りは今にも砂が流れ出そうですけど。
「ハリソン殿下、キャロリアーナ嬢。お話戻しても?周りが困っておいでです」
そう言うとやっと我に返ったキャロリアーナ嬢は、ハリソン殿下からパッと顔を逸らして手で顔を隠していた。そんな仕草もツボだったのか、顔を逸らしても甘〜い視線をやめないハリソン殿下。
僕は二人を放置する事にして、アカデミーの面々と話す事にした。
「で、試食会で出すメニューはこちらで良いと思います。知人の商会に手を貸してもらうように話しているので、大凡の分量が分かりましたら教えてくださいね」
「あ、はい。分かりました」
いいんです。僕の後ろの人達を気にしなくていいんですよ。
***
織布科では、色々な布を見せてもらい、今回展示会に出す布の説明も受けた。
王家に認められた防刃のもの、撥水効果を上げたもの、空気のように軽いものなど。それを使った展示用の服も順調で、2週間後には見られるという。
順調そうで何よりだ。後でフランシーヌの所に行ったついでに進捗を聞いてみようと心にメモをする。
工芸科に移動し、作品を見せてもらった。
ここでは、万年筆の進化したものが出来ていた。
インク補充式でも十分驚いたが、インクの入ったカートリッジを取り替えられるようになり、且つペン先を簡単に交換できる。
僕と殿下がその素晴らしさに感動したのは言うまでもない。
最後に薬学科に移り、薬の性能をあげる製法の研究を聞く。
薬学は今回展示会に出さず、国民への還元方法を考える事になっていたが、視察なのでついでのようなものだった。
全て終えてから、ハリソン殿下ご一行と別れて、アカデミーの中へと戻っていったのだった。