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僕がアカデミーへと戻ったのは、あの万年筆の進化版を融通してもらうためではない。…欲しいけど。
薬学科で見た物について、確認しに行くためだ。
足早に薬学科に戻ると、実験研究室に居た教授や助手の教員達は、視察の為に用意した物や資料を片付け始めていた。
僕が扉を開いて入ると、驚いていた様子で何事かと声をかけてくれた。
「オースティン様、どうされましたか?何かお忘れ物でも?」
僕は安心させるように微笑んで返事をした。
「いえ、お伺いしたいのですが、先ほど説明の中であった、検知薬についてなのですが……」
「え…ああ、はい。あれがどうかされましたか?」
不思議そうに室内にある検知薬を目にする教授に、僕は慎重に質問する。
「その検知薬は人体に影響はありますか?」
「毒性という事ですか?いえ、無味無臭で人体に影響はありません」
そう言うと、慣れた手つきで茶色い瓶に入った検知薬を手に取って僕へ見せてくれた。それに視線を向けたまま質問を続けた。
「これは……反応すると色が変わるのですか?」
「そうですね、作った薬の一部を取って、このように少量をかけるのですが、毒性があれば黒ずんでくるのです。色が黒に近ければ近いほど、その薬の強さを示します。あまりに強すぎますと、せっかく作っても過ぎれば毒となりますので。事前に新薬の強度を知るのに重要な薬ですね」
僕は自然と湧き上がる笑みを抑えながら、教授にお願いをした。
「この検知薬の反応を上げたものは、作れますか?」
「これですか?まぁ、そう難しくはありませんが」
「費用はお支払いいたしますので、是非作ってくださいますか?」
「ええ、それなら構いません」
不思議そうな顔をしながら、了承してくれた教授に、日程を決めて再度訪ねる事を伝えて、僕は急ぎ自邸に戻っていった。
***
自邸に戻ると、ウィズリーとその他諜報員を応接室に集めた。静かに話を待つ彼らを前にして、僕は静かに切り出した。
「入手可能な毒物を、出来るだけ多く集めてもらいたい」
その瞬間、全員が息を飲んだのが分かった。
トビーは先日話をした事もあり、衝撃を受けたような顔をしている。その反応に内心苦笑しながら、誤解させないように、詳細を説明していった。
「実は今日、アカデミーである薬品を知って、どの程度の効果が見られるのかを知りたいんだ。
その薬品は液状で、毒物にかけると黒く変色するそうだ。毒物の強度によって色の濃淡は変わるようなんだけど、どの程度反応するのか試したくて」
「あの、それが可能なら毒味が要らなくなるということでしょうか?」
そう質問したのはウィズリーだった。
「どうかな。実験次第だけど、毒見役の精神的な負担はかなり軽くなると思うよ。使い方はみんなで案を出し合いたいと思っている。確認のためとはいえ、薬品がかかった物を気持ちよく食べられる気がしないし」
僕の言葉に、レイは小さく笑い声をあげ、トビーは安心したのか、気を抜くように息を吐いて笑った。
「確かに!ソースでも調味料でも無いんですもんね〜。僕も嫌だな〜」
「無害と言われても複雑ですね」
トビーやレイに賛同するように、他の皆も笑い出した。緊張感の薄れた雰囲気の中、少し声を張って皆に声をかける。
「武器と一緒だよ。使い方の前に、使えるかを試したいんだ。毒物は1、2回で消費できるほど少量で良い。
あと、変な疑惑をかけられても困るので、運営している3号店を架空の人物の名前で貸し切りにしようと思う。大凡集まったらいつも通り連絡を。では皆頼んだよ」
「「「「「はっ」」」」」
軽く礼を取った面々はウィズリーを残して去っていった。
僕は残ったウィズリーに、ニコラウスの仕上がりについて聞いた。
「はい、2本連続で取れるようになりましたし、書類作成もまずまずと言ったところです。戦略はなんとか合格ラインですが、これからの経験でもっと向上出来るかと」
「それは凄いね。じゃ後の問題は、あの変わってしまった性格だよね」
「見た目もお変わりになられて、もはや別人の様です」
そうなのだ。過酷な訓練のおかげで、元々付いていた筋肉もお育ちになり、全体的にふと…ごつ……逞しくなってしまったのだ。
そして、短髪で熱血。もはや別人と言えなくも無い。
「いやぁ、人間短期間で弄ったら予想だにしない振り切り方をするものなんだね。勉強になったよ」
「いつ(ハリソン殿下に)ご報告を?」
「皆出払ったし、そこまで仕上がっているなら、明日にでも連れて行こうかな」
今頃ポツンと地下の大部屋で待っているかと思うと、少しだけ申し訳ないかなという気持ちになり、戦略の対戦相手になるべく地下に足を向けるのだった。




