中2①
長くなりそうだったので、わけました。
実行委員会に出たため、遅れて部活に行くと、みんなが同情の眼差しで見てきた。特にみちる先輩。『何かあったら私も手伝うから。』と言ってくれた。優しくてキュンとしたのは言うまでもない。
これからも度々こうして部活に遅れたり、近くなると出られなかったりする期間があるが、致し方ない。この手が!この手があのときパーを出さなけりゃ…っ!
部活が終わり、帰り支度をみんなで終わらせると、弓道場の外には副会長が待っていた。静流先輩と帰るつもりなのだろう。仲良いな。
お疲れ様ですーと挨拶をしてみんなと一緒に横を通り過ぎようとしたら、声を掛けられた。
「舞、実行委員になっちゃったんだって?僕は担当じゃないけど、なるべく手伝うから!一緒にがんばろう?」
「でも副会長だって色々仕事あるじゃないですか。」
生徒会役員は書記2名と会計1名がそれぞれ行事を受け持つことになっている。今回の実行委員は会計担当だったので、書記の2人は体育祭と文化祭を担当するのだろう。そして、会長・副会長は統括する役目。決して暇ではないはずだ。
「でも僕は去年もやってるから。舞は初めてな上に部活もあるだろう?僕が手伝うことで少しでも部活をやる時間が増えてほしいんだ。静流が、舞はどんどん上手くなっているから楽しみだって言ってたし。」
なんと!静流先輩がそんなことを!自分ではよくわからなかったが、(なんせまだ巻藁練習に入ってないから。予定では6月中旬ぐらいからだとか。)上達してるらしい。嬉しいぞ!
「……じゃぁ、たまにでいいんで、お願い出来ますか…?」
その嬉しさのまま手伝いを頼むと、副会長はちょっと焦った様子で、『う、うん。』と言ってくれた。やっぱまずかったか?
副会長と話をしていたせいか、他のみんなは帰ってしまったらしい。なんと薄情な!でもまだ追いつくかなーと思ったら、副会長がまた送ってくれると言い出した。日はまだあるから大丈夫なんだけどね。
今日は何故か無口な副会長と帰りながら、(女子に遠巻きに見られてる副会長だが、慣れている人だと結構しゃべる。)明日の部活OFF日は何しようかと考えていた。もうすぐ家に着くという頃に、副会長が徐に口を開いた。
「あ、あのさ舞…。龍から、その、映画のチケットもらっただろ?あれ、もうすぐ終わっちゃうみたいなんだ。だから…今週の日曜日一緒に観に行きませんか!?」
あうち!忘れてたよ!!そーいえば梨子先輩がカップルシートがって言ってたな。その後の杏望先生の攻撃にやられてすっかり抜け落ちちゃったけど。
どーしよ。本音を言えば、映画は観たい。せっかくのタダ券だし。でも……わたし映画は1人で観たい派なんだよねー。映画に入り込んでる時に話しかけられるの大っ嫌いだし。だから家族とも友達とも行かない。1人で行って余韻に浸りたいのだ。でもでもタダ券…。うぅ~
悩んでるわたしを見て、副会長は勘違いしたのか、『やっぱり僕とは行きたくないかな…。』と言い出したので、本当のことを告げることにした。そしたら副会長ってば、
「じゃぁ話しかけないよ!約束する!なんなら存在感を消せるように特訓もするよ。」
いや、そこまで頼んでない。隣に誰かいるのは普通だと思うんだ。と突っ込まざる得ないことを言った。
ならまぁいっか。と了承したわたしは、日曜日、映画館のあるショッピングセンターの前で待ち合わせすることにした。映画久々かも~とほくほくで家に入ったわたしは、副会長が『静流と作戦会議しとかないと。』と急いで帰路に着いたことを知らなかった。
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何事もなく日々は過ぎて、(1個だけあった。実行委員を決めた日、休んでた森木さんが栗坂先輩に自分も何か手伝いと言っていたのを目撃した。すげなく断られていたけど。情報漏洩の心配があるもんね。)日曜日になりました。
一応出かけるんだし、(しかも相手はどこに出しても恥ずかしくないイケメンさん。隣に極力並びたくない)いつもは下ろしているだけのボブヘアーに赤い色のカチューシャを付けて、白いワンピースとグレーのカーディガンを上から羽織り、これまた赤いパンプスを履いて待ち合わせ場所に向かった。本当はショーパンの方が好きなんだけど(若いうちは足を出してなんぼじゃと思ってる)、オカアサマに新しく買ってきたワンピースを着てほしいと涙ながらに迫られた。お母さんが選んだからってダサいということもないので(むしろ可愛すぎて似合うか不安)、それを着たのだ。ちなみに化粧なんてしません。まつ毛をちょちょいと上げてマスカラしただけ。せっかくのキレイな若い肌にファンデなんてお肌を悪くするだけだもん。
待ち合わせ場所に着くと、すでに副会長が待っていた。
……回れ右をしてもいいですか?
副会長に声を掛けてる女の子が1組、予備軍たちが5組くらい、その様子をチラチラ見ながらさっきから同じとこを行ったり来たりしてるのが数えきれないぐらい。
副会長の顔からはいつもの笑みが消えている。この状態に辟易してるのだろう。それでもめげない女の子たちの中に突っ込んでいけとおっしゃるわけですか!?ムリです。
どうしようか迷っていると、副会長がこっちに気づき、嬉しそうに駆け寄ってくる。わたしは救世主ではない。
「おはよう、舞。」
「おはようございます。お待たせしてすみません。」
「ううん、僕が嬉しくて早く来すぎちゃっただけだから。それにしても…私服だと印象違うね。」
そりゃそーだ。わたしの趣味ではない。
そう言う副会長は、タイトなパンツにVネックの長袖を着ただけのシンプルな格好だ。そのシンプルさが余計に美形を引き立てているわけだけども。
とりあえずお礼を言って歩き出したが、視線が突き刺さる。前世の死因のナイフよりも鋭いと思うなハハッ。
その視線からはなんであんな子が…っていうのがもろにわかる。わかってたことだったけど、泣いてもいいですか?
そんなわたしとは裏腹な副会長は、楽しそうにお店を見ながら『ここ、後で入ってみよう』とか言ってた。後でも何も、映画を観たら解散しよう。うん、わたしのためだ。と心に決めた。
映画のことをすっかり忘れてたのは私です。何事もなく日々を過ごさせようとして気づいた。
ちなみに、舞が手伝ってくれますか。と言ったときに副会長が焦ったのは、はからずも上目遣いで見られたためです。




