最終話 終末世界の装身姫兵《ボーン・トゥ・ビー・ガール,テイク・オフ》
~おわび~
「ぼくは先輩のなんなのさ。」をご愛読いただき、まことにありがとうございました。
本作は執筆者一身上の都合により、本話をもって打ち切りとさせていただきます。
本編続話をお待ちいただいた方がおりましたら、非常に申し訳なく思っております。
また新作を作っては打ち切ることが何度も起こるとは存じ上げますが、その都度読んでくれ読んでくれとせがみますので、申し訳ありませんが今後ともお付き合いいただけると幸いです。
それでは長くなりましたが、本作最終話をお楽しみください。
終末世界の装身姫兵
ウォオオ――――ン……
黒光りする毛皮を纏った異形の"怪獣"が、ドーム型都市の上空= 50 メートルを優に越す天井に、その手だか足だかわからない異形の触腕をへばり付かせて騒々しい唸り声を上げている。
「うっひょお」
その咆哮と市内に響き渡るサイレンと避難勧告を聞きながら、先輩はそのくりっとした綺麗な紺碧色の瞳をらんらんと輝かせ――まるで見たい生放送配信の 5分前に画面を食い気味に見つめる子供のように、その光景を眺めている。
実際先輩は子供の、それもだいたい 14 歳ぐらいの女の子の義体を好んで使う変態で、ぼくはと言えばその変態的嗜好とは裏腹のやたらと大人びた、されど熟れた果実のような美しさではない豊満な美女の義体を先輩に強要されて断りきれずに使っている、哀れな人間だ。よって「それ」を見つめるぼくの眼は、どんな色であろうと僅かばかりにくすんでいるように思える。
「今日も大きいですね」
少々呆れ気味に呟くぼくに対し、先輩はその輝く眼差しをたたえたまま、若干鼻の穴を大きくしつつ、
「あぁ。黒くて、でかくて、野太い奴だな」
これである。
この星が、気候変動でまともに住めなくなった古巣を捨てた人類の新天地――「 新地球」と呼ばれ、その「旧地球」で生物が完全に死滅してから約四半世紀。
その罪による罰なのか、この世の男と言う男が化物と化す恐怖のウィルスがこの星で発見され、それは瞬く間に全世界へと及んだ。それが今からおよそ15年前のことである。
最初それは「狼人間病」などとも言われたが、次第に元男性達は巨大化・暴走の一途を辿り、元々環境保全の為に作られていたこのドーム型都市は、人類をその元男性――「オス」から残された女性たちを保護する為のシェルターと化した。頑丈な作りだったのが幸いしたらしい。
この新地球に存在する、特殊な力量場を発する物質「ネームレス」のお陰で、大抵の攻撃ではこのシェルターは壊れない。それに、かつてこの物質を巡って行われた大きな戦争の結果生まれた一連の義体技術と、その後戦争根絶の為に病的なほどにスポーツ化された模擬戦争「装身姫兵」システムが、得てして脅威を打ち払う為の力となった。
しかし結局の所、男性の「オス」化は生殖機能によるもの、というところが最も厄介だった。
各地の精子バンクがこのオス化を引き起こす「化物化ウィルス」の餌食となった結果、化物が湧き出すドラム缶と化したのは記憶に新しい。
よって、もともとの肉体から脳だけを取り出して、機械で出来た体を乗り回して遊んでいるような男どもにはまったく影響は無かった。実のところ、先輩がそのわかりやすい例である。
オス化したのは義体化をしなかった老人連中や若い子供、中途半端に義体化して生殖機能を残していた男性達だった。昨日可愛かった近所の子供が明日犬か狼のようになって食い殺された、なんていうのはもう笑い話にもならない。各地でそういう話を聞いた元男どもが、それを知って無いところが縮み上がったような気がして、そうか無いからならないんだ、と安堵したという笑い話ならある。
ぼくはと言うと、レズの両親がコウノトリにお願いした結果、「女の子じゃ離婚のもとになるから」と女として生まれたのに男として生きる羽目になった哀れなオトコモドキである。
どんなに技術が進んでも、女同士では女しか生まれないらしい。それは今も同じで、しかも肝心の男の素が全部化物化してしまったので、本当に世の中には女か、それ以外しかいない。
この星で人間の男性を見たら、それは 100% 男の義体かロボットだし、7 割半「お遊び」用だと思う。
更に最悪なことには、世の中にレズビアンというものがほとんどいない、自分さえ楽しく生きていればそれで良いという人間が非常に多かったおかげで、結果として人間という種そのものが滅びかかりつつある。
実際 15年前まではなんてことも無い普通の世界だったのだし、この期に及んで子を設けようという親も高が知れている気はするが。
ぼくが義体の体を乗り回すようになったのは、「大戦」に一兵卒として参戦して散々な目に遭い、同じく前線で派手にやって義体にならざるを得なかった先輩にそそのかされてからになる。義体になって良かったかは今でもわからないが、足を引きずりながら生きるよりは随分マシだったかもしれないと思う。
色んなことがあった。その後の「装身姫兵」大会で先輩と一緒に優勝して、その後燃え尽きて山に篭って延々とゲーム三昧の生活をして、そうかと思えば先輩に連れ出されてまた装身姫兵で戦う羽目になって、で、実はその連れ出しに来た先輩は先輩の元カノでぼくの お 義姉さんにあたる人が変装したもので、お義姉さんの装身具専門メーカーに連れ込まれて本物の先輩と戦わされることになったけどその先輩もぼくも二人が作った偽者の先輩とぼくで、本当に本物のぼくたちはこっそりこの街を抜け出して、そこからも大冒険の連続があって――本当に色々だ。自伝として書いたらそこそこ人気が取れるんじゃないかってぐらい色々だ。あぁ、そういえばぼくの義理の姉さんとは――
ふわっと体が浮き上がるような感覚がして、エレベータが止まった。
――さて、これまでの軌跡を軽めにおさらいしたところで、目の前の現実と向き合おう。
ぼくと先輩は、この街のドームの天井、すなわちさっきからうるさいこの「オス」のいる場所の丁度目の前に来ている。
他にもこういうエレベータがあって、既にほかの「装身姫兵」達がスタンバイしているはずだ。
装身姫兵とは、戦後に需要の無くなる恐れがあった各軍事メーカーが「戦争をスポーツに」を旗印に掲げて行った一大プロジェクトで、要するに「美少女なら何をやっても許される」を義体とそれに見合ったスケールの兵装という形で実現した、軍事アニメ内の競技のオフィシャル版の略称だ。正式名称は「装身姫兵アルバトロス オフィシャルアリーナシステム(OAS)」である。
現実世界でも電脳空間でもアニメと全く変わらない兵装・競技内容で、現実の方が若干大人向けだが、それでも老若男女幅広く楽しめるように設計された結果、大成功となった。その結果現実に異形の存在が現れるようになっても、むしろ世界がより一丸となってオス討伐に励んでくれるようになった。当然一部団体が食いついたりもするが、大体皆手遅れになってから黙った。
「こちらアルファ1。デルタ各員、準備は良いか」
「あいあいさー」
まともな返事をしない先輩に代わって応答。
「こちらデルタ2。問題ありません。いつでもどうぞ」
「よし。では5秒後に装身開始。…………装身!」
《装身!》
装身姫兵が「装身具」を装身する最大時間は僅か 1 フレーム、0.015秒に過ぎない。ではその装身のプロセスを見てみよう。
まず装身姫兵は、各々がその装身具をガレージから呼び出す為の動作を行う。これは装身姫兵ごとに違い、各個人で定められた時間内に個性を出すよう定められている。
装身コード認証……OK
装身具転送開始……OK
以下様々な認証がガレージ側でなされつつ、ネームレスの特殊な力量場を利用した転送法によって確実に装身姫兵の下へと装身具が転送される。
装身具は、装身姫兵の肢体に寸分違わず合うように転送中に調整され、装身が完了する。お好みで名乗り口上もする場合があるが、バトリングではないこのオス討伐に関して言えば、それはむしろ命取りとなるので、よほどのことが無い限りする装身姫兵はいない。
「さぁーて……」
先輩のトレードマーク、右腕のパイルバンカーが夜の月の光に照らされて、ぬらぬらと輝く。
「イくぞ、野郎どもォ!」
おぉー……と叫んだ元野郎どもが数人いることを通信で伝え聴きながら、ぼくは先輩がローラーダッシュのけたたましい摩擦音を上げてオスへ突っ込んでいくのを眺めた。
追う必要は無い。ぼくの主戦場は、空だ。
天使の羽根のように背中に並べられた「ファンネルのようなもの」を少し開いて、「ランドセル」のブースターを吹かす。ぐんと体が持ち上げられて、ぼくの身体は地上 50 mの空を飛ぶ。
触腕が至る所へ伸び始めた。下手に動くと、アレに絡め取られて命を落とす。一時期「オスにはまだ生殖機能があるのでは?」とも言われたが、後の研究でそれは否定された。オスは無性生殖の上膨張し、やがては世界を押し潰すと言われている。よって、これぐらいのサイズが何度襲ってきても、それは何らおかしなことではない。ひとまず身体を動かしている脳髄部分を壊して、その後急いで残りの部分を焼却してしまうのがよい。どうせ既に繁殖地と化している場所がいくつかあるのだ。やがてはそこも滅ぼさなければ大変だが、今はまだそこまで手が回らない、らしい。
触腕をかわし、ビットを放つ。ネームレス粒子砲が触腕ごとオスの身体を焼く。が、この大きさでは大したダメージにはなるまい。
問題は無い。本命がある。ぼくの右腕に備え付けられたチャージ式のレールガン。これを、おそらくオスの頭と思われる部分に狙いをつけて……
FIRE。
着弾。後は怒ってこちらにやたらと触腕を向けてくるので、それを頑張って避ける。場合によっては他の人に手伝ってもらう。
こっちに手が回っているうちに、先輩達陸上部隊が慣れた手つきでオスに這い上がり、心臓や脳に一発か数発ブチ込んで、終了。
だいたいいつもそんな感じだ。もっとも、オスに学習能力があれば、ある程度の犠牲を伴ってパターン構築に励まねばならないようになるかもしれないが、少なくともまだそんなことはない。
これがだいたい、ぼくらの世界の現状だ。
これを読んで、どれだけの人々が面白いと思ったかは定かではないけれど、ぼくの主観が多分に入った自伝を延々と読み聞かされるのも嫌だろうから、この辺でこの記憶媒体への記憶の流入を終了する。
何しろ、先輩に「もう少し集中してやれ」と怒られたりもしているからだ。ベッドの上で。
じゃあ、そろそろこの辺で。こっちも今、忙しいから。




