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第9話 特級危険人物と、初めての怒り


「……特級危険人物?」


カイはきょとんと目を瞬かせた。


朝の光が差し込む宿屋の食堂は、しんと静まり返っている。


さっきまで笑い声が響いていたとは思えないほど、空気が張り詰めていた。


入口に立つ騎士たちは、銀色の鎧に深紅のマントを羽織っていた。


腰には長剣。


背中には魔導銃。


街の兵士とは明らかに格が違う。


先頭の男は鋭い灰色の目でカイを見据える。


「王都騎士団・魔導災害対策部隊隊長、グレインだ」


低い声が響いた。


リナの顔が青ざめる。


魔導災害対策部隊。


暴走魔導師や災害級魔物を相手にする特殊部隊だ。


つまり今、カイは“災害側”として見られている。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


リナが慌てて前へ出る。


「あんたたち勘違いしてる! カイは危険人物なんかじゃ――」


「下がれ」


グレインの声は冷たい。


「この街で観測された異常魔力反応。高位広域術式の連続使用。測定水晶の破壊」


騎士たちが武器へ手をかける。


「十分すぎる脅威だ」


食堂の空気が凍る。


冒険者たちも息を呑んでいた。


ベルクが静かに口を開く。


「待て、グレイン。この少年に敵意はない」


「ベルク殿」


騎士団長は険しい顔を崩さない。


「貴方ほどの方が、なぜそんな危険人物を庇う」


「危険なのは力だ。少年ではない」


「制御できぬ力は、いずれ災厄になる」


重苦しい沈黙が落ちた。


その時。


「……ねえ」


カイが小さく口を開いた。


全員の視線が集まる。


カイは困ったような顔をしていた。


「僕、何か悪いことしましたか?」


グレインが即答する。


「貴様ほどの力を持つ者が、正体不明のまま街を歩いている時点で危険だ」


「でも僕、人を傷つけるつもりなんてありません」


「意思の問題ではない」


冷たい声だった。


「力は時に、持ち主の意志を超えて周囲を壊す」


カイは少し黙り込んだ。


窓の外を見る。


朝日に照らされた石畳。


行き交う人々。


屋台から漂う焼きたてパンの匂い。


街角で笑う子供たち。


その全部を、カイは静かに見つめていた。


「……こういう景色、好きなんです」


ぽつりと呟く。


「風とか、ご飯の匂いとか、人が笑ってるのとか」


グレインは黙って聞いている。


「だから壊したくないです」


その声は、とても静かだった。


「やっと外を歩けるようになったのに」


食堂が静まり返る。


リナが、はっとした顔でカイを見る。


カイは少しだけ笑った。


「毎日すごく楽しいんです」


街を歩くこと。


知らない景色を見ること。


温かいベッドで眠ること。


誰かとご飯を食べること。


全部が、カイにとっては大切だった。


「そんな場所を、わざと壊したりしません」


誰もすぐには言葉を返せなかった。


けれど。


「……綺麗事だな」


グレインの低い声が落ちる。


「力を持つ者は、望む望まないに関わらず周囲を変える」


カイは少しだけ悲しそうな顔をした。


「……それでも駄目ですか」


その瞬間。


――バンッ!!


リナが勢いよく机を叩いた。


「いい加減にしなさいよ!!」


食堂中がびくっと震える。


リナはグレインを真っ直ぐ睨みつけていた。


「この人が何したっていうの!?」


「リナ……」


「村を助けて、お風呂直して、畑も助けて、街の洗濯場まで綺麗にした! 誰も傷つけてない!」


怒りで声が震えている。


「なのに危険人物扱い!? ふざけないでよ!!」


騎士たちがざわつく。


だがリナは止まらない。


彼女はカイの前へ立った。


まるで庇うみたいに。


「この人は危険なんかじゃない」


カイは目を丸くしていた。


誰かが、自分のためにこんな風に怒ってくれる。


そんな経験は、今まで一度もなかった。

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