↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/149

第8話 測定不能と、静かな怒り


宿屋の食堂は、奇妙な静けさに包まれていた。


朝食の湯気だけが、ゆらゆらと漂っている。


冒険者たちは固唾を飲んで様子を見守り、宿の女将はカウンターの陰からそっと顔を出していた。


王都魔導院。


その名は、この国で“最高峰の魔法組織”として知られている。


そして、その紋章を身につけた老人――ベルクは、その中でも特に有名な大魔導師だった。


そんな人物が、カイを見て額に汗を浮かべている。


異様な光景だった。


「少年」


ベルクは改めて口を開く。


「少し確認させてもらう。攻撃魔法は使えるか?」


「使えません」


カイは即答した。


「生活魔法しか使えないので」


「……そうか」


ベルクは難しい顔になる。


普通なら安心するところだ。


だが逆だった。


生活魔法だけでこの現象を起こしている方が、よほど異常なのである。


「ならば、魔力測定をさせてもらえるか」


ベルクは懐から、小さな水晶球を取り出した。


透明な球体の内部には淡い青い光が揺れている。


周囲がざわついた。


「魔力量測定水晶だ」


「高級品じゃねぇか……」


「王都レベルの道具だぞ」


リナは嫌な予感しかしなかった。


(絶対壊れる)


なぜか確信がある。


カイは素直に頷いた。


「触ればいいんですか?」


「ああ。軽く魔力を流すだけでいい」


ベルクは真剣な表情で水晶を差し出す。


カイはそっと手を乗せた。


次の瞬間。


――パキッ。


「あ」


小さな音がした。


そして。


バギィィィィンッ!!


水晶が爆発した。


「「「うわぁぁぁっ!?」」」


食堂中が悲鳴に包まれる。


青い光が弾け飛び、机の上へキラキラと破片が降り注いだ。


カイはびくっと肩を震わせる。


「ご、ごめんなさい!?」


ベルクは固まっていた。


「……壊れた」


「えっと……弁償……」


「違う」


老人は震える声で呟く。


「測定不能だ」


空気が凍った。


冒険者たちが青ざめる。


魔力測定水晶は、上級魔導師ですら簡単には壊れない。


それを“触れただけ”で粉砕した。


つまり。


水晶の許容量を遥かに超えた魔力を持っているということだった。


リナは顔を覆う。


(やっぱりぃぃぃ!!)


もう隠しきれない。


絶対無理。


ベルクはゆっくり顔を上げた。


その目には、警戒と困惑が混じっている。


「少年……本当に生活魔法しか使えないのか?」


「はい」


「……試してみろ」


「え?」


「何でもいい。魔法を見せろ」


カイは少し悩んだ。


攻撃魔法は使えない。


なら。


「じゃあ、お水出します」


「水?」


カイは近くの空いたコップへ手を向けた。


「【浄水】」


ぽちゃん。


透き通った水がコップへ注がれる。


ただ、それだけ。


……のはずだった。


「……っ!?」


ベルクの目が見開かれる。


コップの水が、淡く発光していた。


透明度が異常だった。


まるで宝石みたいに光を反射している。


「な、なんだこの純度は……」


ベルクが震える手でコップを持ち上げる。


一口飲む。


次の瞬間。


「――ッ!!」


老人の身体から、ぶわっと淡い光が溢れた。


ざわっ、と食堂が揺れる。


「ベルク様!?」


「ど、どうした!?」


老人は呆然としていた。


「……長年蓄積していた魔力汚染が消えた」


「え?」


「ありえん……こんな一瞬で……」


魔導師は長年魔法を使い続けると、体内へ魔力の淀みが溜まる。


それはどんな高位治癒術でも完全には除去できない。


だが今。


たった一杯の水で消えた。


カイは首を傾げる。


「綺麗なお水の方が身体にいいかなって」


「その“綺麗”の基準が怖いんだよ坊主!!」


近くの冒険者が思わず叫んだ。


食堂に笑いが起きる。


だがベルクだけは笑えなかった。


老人は静かにカイを見つめる。


この少年は危険なのではない。


むしろ逆だ。


あまりにも“害意が無さすぎる”。


だからこそ怖い。


本人に自覚がないまま、国の常識を軽々と破壊している。


その時だった。


宿屋の外から、怒鳴り声が響いた。


「おい!! ギルドはどこだ!!」


ドタドタと複数の足音。


扉が勢いよく開く。


現れたのは、鎧を着た男たちだった。


胸元には同じ紋章。


剣と杖を携え、空気が張り詰める。


ベルクが眉をひそめた。


「王都騎士団……?」


先頭の男が、食堂を鋭く見回す。


そして。


真っ直ぐカイを指差した。


「いたぞ。“特級危険人物”だ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。