第63話 王都と、圧倒的な情報量
長い列を抜け、ようやく一行の番が回ってきた。
巨大な門の下には、鎧を着た兵士たちが立っている。
近くで見ると、王都の城壁はさらに大きかった。
見上げるほど高い。
ティアは少し緊張した様子で背筋を伸ばす。
フォルまで「キュル……」と大人しくなっていた。
「次、身分証を」
兵士が事務的に言う。
リナが冒険者証を取り出した。
カイも続いて提示する。
ティアは少し戸惑ったが、以前ギルドで発行された簡易証明を差し出す。
兵士は順番に確認していく。
そして。
ティアの銀髪を見て、一瞬だけ視線が止まった。
空気が少し張る。
だが兵士は、特に何も言わなかった。
「……問題なし。通っていい」
あっさりだった。
ティアは目を瞬かせる。
以前なら、それだけで睨まれたり、嫌そうな顔をされたりしたのに。
リナが小声で言った。
「王都は人が多いからね。珍しい種族や特徴もそこまで珍しくないのよ」
「……そう、なんですね」
ティアは少し安心したように胸を撫で下ろした。
その横では。
カイが門の内側を見上げていた。
「……広い」
王都の光景が、目の前いっぱいに広がっている。
巨大な石畳の大通り。
何階建てなのか分からないほど高い建物。
並ぶ露店。
人、人、人。
馬車の音。
商人の呼び込み。
甘い匂い。
焼き肉の匂い。
香辛料の刺激。
色んな情報が、一気に押し寄せてきた。
「わぁ……!」
ティアが思わず声を漏らす。
フォルも「キュルルル!?」と驚いたように飛び回っていた。
完全にお上りさん状態だった。
リナが苦笑する。
「まあ、最初はみんなこうなるわよね」
しかし。
カイは立ち止まったまま動かない。
「……カイ?」
数秒後。
「情報量が多すぎる」
真顔だった。
「匂いが混ざってる。音も多い。人の流れも不規則」
「都会ってそういうものなのよ」
「ちょっと落ち着かない」
珍しく疲れた顔をしていた。
するとカイは、軽く指を振る。
「【調律】(コンフォート)」
ふわり、と風が流れる。
次の瞬間。
周囲の雑音が少し遠のいた。
空気もほんの少し澄む。
強すぎた香辛料や煙の匂いが薄まり、心地いい温度だけが残る。
「……よし」
「また勝手に生活環境改善してる……」
リナが呆れる。
だが確かに、かなり楽になった。
ティアもほっと息を吐く。
「なんだか、空気が優しくなりました……」
「人が多い場所は疲れるからね」
カイは真面目に言った。
その時だった。
「パンだよー! 焼きたて白蜜パン!」
「王都名物串焼きー!」
「今なら果実水半額!」
大通りの露店から、次々声が飛んでくる。
カイの視線が、すっと動いた。
「……リナ」
「ダメよ」
「まだ何も言ってない」
「食べ歩きしたい顔してる」
図星だったらしい。
ティアが小さく笑う。
するとフォルまで「キュルッ♪」と同意するように鳴いた。
完全に食欲側だった。
カイは少し考え込む。
「……でも確かに、街の食文化を知るのは大事」
「ただ食べたいだけでしょ」
否定しない。
その時。
大通りの向こうに、ひときわ大きな建物が見えた。
白い塔。
青銀色の紋章。
そして、空中に浮かぶ巨大な魔法陣。
周囲の建物より、明らかに異質だった。
ティアが目を丸くする。
「あれ……」
リナも視線を向ける。
「ああ。あれが――」
カイは静かに、その建物を見上げた。
王都魔導院。
この国最大の魔法組織だった。




