表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/77

第59話 花の香りと、銀色の視線


白花街道を進んでいた商隊は、一行の少し手前で速度を緩めた。


大きな荷車を引く角獣が、のっそりと鼻を鳴らす。


先頭を歩いていた恰幅のいい商人は、ティアを見て目を丸くしていた。


正確には、その銀色の髪を。


夕陽を受けた髪は、白花街道の景色の中でもひときわ目立って見える。


「……失礼」


商人が慎重に口を開いた。


「お嬢さん、その髪……」


ティアの肩が小さく震える。


指先がぎゅっと服を掴んだ。


以前なら、その視線だけで怯えてしまっていたかもしれない。


だが。


カイが自然な動きで、ティアの前へ半歩出た。


「何か問題ある?」


いつも通りの、淡々とした声だった。


怒気も威圧感もない。


けれど商人は、なぜか背筋が伸びた。


「い、いや! そういうわけではなくてですね」


慌てて両手を振る。


「王都周辺じゃ、銀髪は珍しいもので……少し驚いただけですよ」


カイは数秒、商人を見つめる。


それから小さく頷いた。


「そう」


興味を失ったらしい。


そのまま歩き出そうとする。


商人はどこかホッとしたように息を吐いた。


すると今度は、荷車の後ろから小さな女の子が顔を出した。


十歳くらいだろうか。


ぱっちりした目でティアを見つめている。


「わぁ……綺麗なお姉ちゃん」


ティアがきょとんとした。


女の子は荷車から飛び降りると、ティアの前まで駆け寄ってくる。


「髪、キラキラしてる!」


「え、あ……」


ティアは戸惑ったように瞬きを繰り返す。


こんな風に言われたことなんて、一度もなかったからだ。


銀髪はいつも、恐れられるものだった。


嫌悪されるものだった。


なのに。


「宝石みたい!」


女の子は嬉しそうに笑っている。


悪意なんて欠片もない。


ティアはしばらく言葉を失っていたが、やがて小さく笑った。


「……ありがとう、ございます」


その笑顔を見て、女の子もにこっと笑う。


すると、フォルがふよふよ飛んできた。


「キュルッ♪」


「わっ! 小さい竜!?」


女の子の目がさらに輝く。


フォルは完全に注目される気満々だった。


胸を張って空中で一回転する。


「キュルル〜♪」


「かわいいー!」


その様子を見ていた商人が苦笑した。


「すみませんねぇ、うちの娘、人懐っこくて」


「いい子」


カイがぽつりと言う。


女の子は嬉しそうに笑った。


「お兄ちゃんたちは王都に行くの?」


「うん」


「じゃあね、王都のお菓子通りおすすめだよ!」


「お菓子通り?」


その単語に、カイが反応した。


リナが嫌な予感を覚える。


女の子は元気よく頷いた。


「甘いお店がいっぱいあるの! パフェとかケーキとか、ふわふわパンケーキとか!」


「へぇ……」


カイの目が少し真剣になる。


「あとね、春限定の花蜜タルトが――」


「場所は?」


食いつくのが早かった。


リナが額を押さえる。


「アンタ、景色より食べ物のほうが反応いいじゃない……」


「美味しいものは生活の質に直結するからね」


妙に説得力があった。


商人はそんなやり取りを見て、声を上げて笑う。


「はははっ! 面白い旅人さんたちだ!」


周囲の空気が柔らかくなる。


ティアはその光景を、少し不思議な気持ちで見つめていた。


怖がられない。


怯えられない。


普通に話しかけてもらえる。


それが、こんなに温かいものだなんて知らなかった。


「……ティア?」


カイが振り返る。


「置いてくよ」


「あ、はい!」


慌てて歩き出す。


すると女の子が、白花街道の花を一本摘み取ってティアへ差し出した。


「これ、お姉ちゃんに!」


白く小さな花だった。


ティアは驚いた顔をしたあと、そっと受け取る。


「……大切にします」


女の子は満足そうに笑った。


商隊と別れ、一行は再び街道を歩き始める。


夕暮れの風が、白い花を揺らしていた。


ティアは胸元の花を見つめる。


その横を歩いていたカイが、ふいに言った。


「ティア」


「はい?」


「さっき笑ってた方が、いつもより空気が柔らかかった」


「……え?」


「だから、その方がいいと思う」


あまりにも自然に言うから。


ティアは一瞬、言葉を失った。


それから。


「……はい」


小さく頷く。


胸の奥が、少しだけ温かかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ