第42話 新しい服と、快適な朝の始まり
翌朝、ティアはふかふかのベッドの中で、心地よい目覚めを迎えた。
「……夢じゃ、なかった」
真っ白なシーツを握りしめながら、彼女は隣のベッドで静かに寝息を立てているリナと、窓辺で外を眺めているカイを見つめた。
カイの肩には、フォルが丸まって「キュルル」とご機嫌な音を鳴らしている。
「おはよう、ティア、よく眠れた?」
カイが振り返り、淡い灰色の瞳で穏やかに微笑んだ。
「はい……、こんなに柔らかいベッドで眠れたのは、生まれて初めてです」
「それは良かった、疲れが残ってると、歩くのがしんどくなるからね」
カイが実用的な理由で満足そうに頷くと、リナも大きく伸びをしながら起き上がってきた。
「ふわぁ……よく寝た! さあ、今日はティアのお買い物よ!」
リナの元気な声に背中を押され、三人は朝の活気に満ちたアルトの街へと繰り出した。
大通りの一角にある仕立て屋に入ると、色とりどりの布地と美しい服が所狭しと並んでいた。
「わぁ……綺麗……!」
ティアは目を輝かせたが、すぐに自分の着ている借り物の服を気にして俯いてしまった。
「大丈夫よ、今日からあなたは自分の服を着るんだから」
リナがティアの手を引き、次々と可愛らしいワンピースやブラウスを合わせ始める。
「リナ、その赤い服は少し生地が重そうだよ、歩く時に疲れると思う」
カイは少し離れた場所から、服の「快適さ」について的確な指摘を入れていく。
「それなら、この淡い青色のワンピースはどう? 生地も柔らかいし、ティアの銀髪にすごく似合うわよ」
リナが提案した服を見ると、カイも納得したように頷いた。
「うん、それなら風通しも良さそうだし、締め付けがなくて楽そうだね」
ティアは恐縮しながらも店主にお願いし、試着室へと案内された。
数分後、少しはにかみながら出てきたティアの姿に、リナは感嘆の声を上げた。
「すごく可愛い! ティア、まるでどこかのお姫様みたいよ!」
淡い青のワンピースは彼女の透き通るような白い肌を引き立て、銀髪の美しさを際立たせていた。
「……カイ様、あの、おかしくないでしょうか……?」
ティアがもじもじしながら尋ねると、カイは彼女の前に歩み寄った。
「とても似合ってるよ、でも、新品だから少し生地の糊が残ってて、ゴワゴワするね」
カイが指先をワンピースに向け、小さく魔法を紡いだ。
「【清浄】(クリーン)」
淡い光が服を包み込むと、布地の硬さや微かな埃が抜け落ち、ふわりと肌に馴染む柔らかい質感に変わった。
「……わあ、服がすごく軽くなりました……!」
「これで完璧だね、チクチクしないし、これなら一日歩いても疲れないよ」
カイの徹底した「快適さ」へのこだわりに、ティアは胸の奥が温かくなるのを感じた。
「ありがとうございます! 私、この服を一生大切にします!」
「一生なんて言わなくていいよ、着心地が悪くなったら洗えばいいし、破れて動きにくくなったら僕が【修復】(リペア)するから」
カイの淡白で、けれどこの上なく頼もしい言葉に、リナがクスクスと笑い声を漏らす。
「さあ、服も決まったし、次は美味しい朝ご飯を食べに行きましょうか!」
新しい服と、温かい仲間たち。
澄み切った青空の下、ティアの新しい人生が、快適に整えられた道の上を歩み始めた。




