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担保

「ガブリエルさん! どうか私にお金を貸してください!」


応接室の絨毯の上で、ロザリーが頭を下げ続けていた。


「おかしいでしょ? あなた達のお店も、それなりに上手くいっているのは知っているわ。一〇〇万Rぐらい、自分たちで用立てられるはず」


「……」


「しかも、私のお店を奪ったあなたが、私から借りようだなんてどうかしているわ!」


「ごもっともです。でも──あなたにお願いするしかないんです」


ロザリーの声は、震えていた。




──「そう。そのガブリエルにアンタは頭を下げるがいいよ」


クレシェント夫人の屋敷で、夫人はパイプの煙を吐きながら言った。


「どうか一〇〇万R貸してくださいって」


マリアが、少年が、少女が、それぞれの位置で黙っていた。


「そんな事できるわけないでしょ!?」


ロザリーが声を上げた。


「あらなんでだい?」


「私はあの女から、夫も家も奪ったんだよ。そんな私に金を貸すわけないじゃないか」


「だからだよ、ロザリー」


夫人が、面白そうに口の端を上げた。


「出来が悪いあんたが、商売を成功させたいんなら、そういう相手から金を借りられるぐらい捨て身にならなきゃならない。見栄を捨て、自尊心を捨て、頭を下げるんだよ。なんなら靴でも舐めたらどうだい!?」


ロザリーの拳が握られた。マリアは目を伏せていた。


「無理ならば、その店は私が貰うよ。見栄っ張りのアンタなんかいてもいなくても、変わらないんだからね」


ロザリーが、長く息を吐いた。


「……分かったわ。借りてくるわよ」


「ほう」


「姉さん……」


「大丈夫だよ、マリア。私はダメな姉さんだけど、やる時はやるからさ」




応接室に、現在が戻ってきた。


「と、とにかく、お金なんか貸せません。お帰りください」


「そ、そこをなんとかお願いします」


私は立ち上がった。


「あなたねえ、いい加減にしないと──」


その時、ロザリーが、靴を脱いだ。


絨毯の上に立ち、両手を合わせ、ひざまづく。


「!」


「この愚かな私に、一〇〇万Rをお恵みください。お金は必ずすぐにお返ししますから……」


額が、絨毯につくほど深く下がった。


──この人、一体何を考えているの?


──なぜ、ここまで……。


ロザリーの頭と手が、震えていた。


──そもそも、この人がそこまでお金に困るはずはない。もしかして、私にお金を借りること自体が目的なのかもしれない。


「……あなた、誰かに言われて来てるの?」


ロザリーの肩が、ほんの一瞬、跳ねた。


「……いえ」


──「ちなみに、私の名前は出しちゃダメだよ」


ロザリーの脳裏に、夫人の声が蘇った。


「私の名前を出して借りても、それは認めない。それ以外で借りられたら合格だ」


夫人が義眼を見開いた。


「知ってはいると思うが、私に嘘は通じないよ。この目は全てを見抜くからね」


──分かってる。ママに嘘は絶対通用しない。ママに嘘をついて、消えた人たちを何度も見ている。


「……いえ」


ロザリーは、もう一度繰り返した。


私はその震える肩を見ていた。


──理由は私に言えないということ? どうする? とにかく突っぱねる?


椅子に、もう一度腰を下ろした。


──いや……何か、これをきっかけに。




「わかったわ」


「え?」


ロザリーが、思わず顔を上げた。


「条件次第では、貴方にお金を貸しましょう」


「ほ、本当かい!?」


「ええ。ただし、一〇〇万Rと言わず、一〇〇〇万R借りてもらうわ」


「いや、そんなにいらないよ」


「一〇〇万ぐらいじゃ、利子をとっても商売にならないじゃない」


「商売?」


「そう。私は貴方の友人ではないし、情ではお金は貸さない。でも、これが商取引であれば、私は私怨を捨てて貴方と取引するわ」


私はカップに手を伸ばした。


「だって私は、商人ですから」


「返済期限は半年後。早期返済は認めない。利子は、そうね──」


少し考えて、続けた。


「一〇〇〇万の利子でどう? リスクを考えても、これぐらいは貰わないと話にならないわ」


──半年で倍にして返せと? この女、足元を見やがって。でもまあ……。


ロザリーの目の奥で、何かが動いた。


──借金なんか踏み倒せばいい。ここは頭を下げ続けるか。


「わ、分かったわ。その条件で十分よ」


「まだよ」


私は彼女を見た。


「担保を取るわ」


「担保」


「もし半年後に、利子を含めて二〇〇〇万Rを返せない時は──」


私は静かに言った。


「ブレンナールのあの店を、頂くわ」

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