表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

飼育可能は一匹まで『死飼い』

 スカイツリーとオリオン座が見えるベランダで冬の寒気を僕は受けていた。


 閉じた窓の後ろから声が聞こえてくる。


 「ねえねえ、オリオンってサソリから逃げてる人だよね」


 高くて幼い女の子の声。


 僕は彼女に答える。


「違うよ、あれはサソリじゃない、蝦蛄しゃこだ。パンチを繰り出そうとしてるだろう」

 

 きゃーっと女の子の声は笑う。


 「シャコ!!」


 しゅっしゅ、とシャドーボクシングのようなつもりなんだろう、女の子の声は愉快そうに転がる。よたよたゆっくり、パンチングも腕でしていて。

 頭と腕だけ閉められた窓から出して、シャドーボクシングもどきを続ける。

 もちろん、足は部屋の中で浮いているのだ。


 ーー僕は独り暮らしの賃貸マンションの四階で、童女の幽霊を飼っている。


 


 ペット相談可の物件だった。


 当初僕は犬を飼う計画を立てていて、柴犬のブリーダーともやり取りしていた。

 保護犬を迎え入れる選択も考えたが、単身者で有ること、犬を飼った経験が無かったこと等から、諦めるしかなかった。


 柴犬のパピーに会いにいく約束をとりつけ、犬舎に到着したあと、ドキドキと不安を抱えながらいざ柴犬にご対面、となった時に彼女は現れた。


「いけないんだー、ペットは一匹しか飼えないんだようちは!」


 僕と柴犬の犬舎のゲートの目の前に、幼い女の子の像と声がぱっと出てきたのだ。


「え」


「だからぁ、あたしがいるんだから、お兄さんはワンコ飼えないの! 見てってもいいけど、あたしがペットなんだから飼っちゃダメなんだから、おーやさんに言っちゃうからね!!」


 女の子の姿はハッキリしている。声も甲高いがキッパリ聞こえる。


「あ、ここの、ブリーダーさんの、えっと森田さんちの子かな? ごめんね、ワンちゃん僕が連れてっちゃうの、悲しいよね」


 大人として、目の前の童女に向き合うことにした。そうしたら。


「ちーがーうーのー! あたしを飼うってなってるんだからワンコダメなの!!」


 そう駄々をこねながら、女の子は僕の身体を突き抜けて走っていってしまい、今度は背後から声が聞こえてきた。


「4かい、は『しかい』なの! 死んでる子を飼うんだもん、あたしはだからあそこで待ってたもん! お兄さん、ナイケンの時にあたしとごあいさつして笑ってくれたもん!! だからあたしと住むの決まってるの!!」


 僕は管理会社に連絡しよう、と思いながら、何故か柴犬に会うことの方を諦めてしまっていた。

 いやだ柴犬が良い

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ