第19話 囚われた伯爵の娘
本日2回目の投稿です。
「我々はこれよりミサと今後を話し合う会議を行う、ここで待っているがいい!」
「おいおい、少しは丁重に扱ってくれよ」
そう言われて、俺が放り込まれたのは地下牢だった。ベッドや本棚にトイレ、後は浴室のドアがあるな。随分豪華な牢屋だ。あのあと目隠しをされて、ようやく外されたと思ったらこれだよ。自分がいる場所が把握できないから、テレポートも使えないし。やはり助けが来るのを待つしかないか。
「誰? 珍しいですね、子供は実験動物用の牢屋に連れていかれるのですけれど。あなた大丈夫。酷い事されなかった?」
地下牢には先客がいたようだ。黒のドレスを身にまとった女性が心配そうにこちらを見ている。神眼で見てみれば、名前はミューズ=ブレスク‥‥アルセか? あれ、何でブレスク伯爵の娘が捕まっているんだ。とりあえず話を聞いてみるか。少し猫をかぶろう、眼鏡をかけた探偵みたいにな。
「ぼ、僕はユウキって言います。変な人達に連れて来られたの。お姉さんは誰ですか?」
「‥‥あなた、それ演じてるでしょう? 無理してるのがバレバレだから、止めた方がいいと思いますよ。私はミューズ=アルセ。姓は違いますが、ブレスク伯爵の娘です」
「ちっ、すぐにバレるとは情けない。ミューズさん、何で伯爵の娘がここに捕まってるんだ? 彼らとは仲間なんだろう」
うわあ、バレると何か悲しいやら恥ずかしいやらで心が痛いなあ。それはそうと、俺の質問を聞いたミューズさんの顔が思い切り歪む。
「あんな人達と一緒にしないで下さい! 私は怒っているんです。子供を使った実験をする暗黒教団や悪事に進んで加担する家族に。子供達を逃がそうとしましたが、彼らに捕まってしまいました。情けない限りです」
悔しがる彼女を見て、勇気のある女性だと思った。あんな理性と自重を置いてきた連中が周りにいるのに、よく健やかに成長したなと感心するのは前世の性かな?
「あんな子供が歪む率100パーセントの教育環境にいながら、まともな成長をしてる。ミューズさんって、素晴らしい人だな」
そう言うと彼女は、長い赤髪を手でいじりなから困ったように話し出す。
「‥‥私は妾の子でして、最近まで家を離れていました。だから、まだまともなんですよ。急に実家に拉致同然で連れてこられたら、屋敷がとんでもない状況でして。監視の目があって、警備隊に報告も出来ず困っていたんです」
うん、本当にまともな人だ。邪神の加護は持っているのに、銀縁眼鏡越しに見える目が清らかな光を失っていない。気になる事があるとするなら、神眼で見えた蛇神の因子かな? 覚醒したら強大な力を得るってあるが、どう転ぶのかが分からない。なんとか彼女を味方にしておきたいな。
「ミューズさん、ブレスク伯爵家ってもとからこんな家だったんですか? 邪神に操られているとかではなく」
「もとからみたいですよ。私の母は召し使いとして屋敷に仕えていました。ある日、父に強制的に抱かれた上に邪神教に入信させられたそうです。怖くなった母は屋敷を逃げ出し、女神アルゼナ様を信奉する教会に逃げ込みました。いかに邪神といえど相手をしたくないのが、アルゼナ様らしいですよ。おかげで私と母は逃げ切れましたから」
おい、うちの神様ヤバくないか? 普通に考えて邪神と呼ばれる連中は、他の神の事なんて意に介さないだろう。なのに避けるって、相当怖い存在なのかも知れない。話した限りじゃ、自己中心的な愉快犯なんだがなあ。
「アルゼナ‥‥様って、意外とすごい神様なんだな。ミューズさん、ブレスク伯爵家以外に暗黒教団に加担している連中がいるか知っていますか?」
「そうですね、商会の方や極光教の神官に伯爵家と親しい貴族等も参加していましたよ。おそらくですが、この屋敷が暗黒教団の帝国支部となっていると思います」
極光教の神官さん、何をしてるんだよ。極光教はこの世界で最も広く信仰されている宗教だ。教皇中心としたピラミッドを形成してるのは、前世の宗教と変わらない。教皇が治めるビトリア聖国は、かなりの力を持っているからな。そして、聖職者が全員善人とは限らないのが世の常である。しかし、帝国支部ねえ。
「本山じゃないだけましか。〇ン〇ロイだの、ガー〇フだの、地〇教大〇教みたいなのが出てこないのは助かる。ガチの狂人で怖いもんなあ、彼ら」
「???」
おっと、ミューズさんが首をかしげているな。心の声を口にしてしまっていた。反省、反省。しかし、となるとここを潰して終わりという簡単な事態じゃない訳だ。暗黒教団との全面戦争はやりたくないな。平穏な生活が更に遠のく。今回の件は仕方ないか。近くで火事起きているのを黙って見てるような人でなしではないからな、俺も。
「ミューズさん、連中は何をしようとしているんですか? ただ邪神を信仰するだけの集団じゃないでしょう」
「彼らは帝国を打倒し、自分達の国を作ると言っていました。その為に人を魔物へと作り替える呪法を復活させたみたいです。私も明日には実験台にされる予定なの。私、魔物になんてなりたくない」
恐怖に震える彼女を見て、やはり強くても女の子なんだなと俺は実感する。神眼で見たら、職業は騎士学生3年でランクはB-だった。学院ではユイの先輩になるのかな? はあ、俺より強い女性多過ぎませんかね。
次回、ミューズとの‥‥。