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転生しても受難の日々  作者: 流星明
教え子2人との再会
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第10話 商売の時間

回復した俺はマヤとホーウェン学院長と共に食堂へと向かう。そこにはファルディス家の面々が緊張した面持ちで待っていた。うん、師匠とマヤがあと一歩で死闘を演じる所だったんだから当然か。


「まずは謝罪から。この度、我が妹が無礼を働きました事は誠に申し訳ありません」


師匠の件でナージャ様が頭を下げた。他の面々も頭を下げるが、ロイ様とラングは不承不承と言った所か。確かに師匠の行いはファルディス家に不利益を与えかねない失態だし、不服に思うのは分かるとはいえな‥‥。


「いえ、私も大人げない所がありましたから。ここは双方無かった事に致しましょう。皆様、席について下さい。今後の事を話し合いましょう」


マヤの言葉を聞いて、皆がそれぞれの席に座る。すかさず使用人達がテーブルにフォークやナイフ等を持ってきた。今日はコース料理か‥‥面倒だが仕方がない。


「私としては、ファルディス家の持つ流通網と人材の使用許可を頂きたいのです。さらには劇団の後ろ楯になってくれるとありがたい。いかがでしょうか?」


マヤもなかなか強かだな。確かに互いに非があるとはいえ、彼女は皇女だ。本来ならファルディス家は罰せられてもおかしくない。それを水に流して師匠の失点を利用、ファルディス家に後援者になるようお願いしている。


「まあ、それは当家にとっても願ってもない事にございます。皇女殿下の劇団は帝国随一と名高き華やかさ。その一助となれるのは嬉しい事です。もちろん協力させて頂きますわ。しかしながら、そこまで協力するからには何がしか大きな見返りを頂きたく」


ナージャ様はお願いを受け入れはしたが、すかさず見返りについてマヤに問い質す。商家の主たる彼女からすれば、タダ働きはしたくないだろうからな。


「そうですね‥‥。協力の見返りとして、私が庇護する職人や画家等の作品の優先購入権をファルディス家に与える。これでいかがでしょうか?」


マヤの見返りに食堂がどよめく。泰然としているのはマルシアス様達位か。しかし、マヤの庇護する芸術家が100人単位だと聞いた時は驚いた。ガチのパトロン過ぎるだろ! 何でも、美術品が大好きで前世の頃からやってみたかったらしい。


作品は贈り物や賄賂、買収なんかにも使える手頃な手札になるからと怖い事を言ってたが。高級な芸術品大好きなお偉いさんなんて、前世でも数多く見かけたしな。


「ま、マヤ皇女殿下の庇護する職人達は、世に傑作と呼ばれる品を次々と出しています。私としても、この取引は悪くないと考えますわ。ただ‥‥」


多大な利のある見返りを提示され、動揺するナージャ様が師匠を見る。彼女は必死な様子でうなずき返した。皆からしぼられたのか、師匠憔悴してるな。あとでフォローはしておこう。


個人的にはマヤとファルディス家が組む事は悪くないと考えている。マヤは皇位継承争いから身を引いているしな。ファルディス家としても、皇族との取引は望むところだろう。


最近、皇后一派の息がかかっている商会が力を伸ばしてきているからだ。帝国1位の看板は、そう簡単に譲れはしないだろうし。


「条件を提示致します。ユウキ=ファルディスは当家に迎え入れたばかりの人間です。そして、我が妹アイラの夫にと考えておりました。皇女殿下もユウキをお求めになるのでしたら、正妻はお譲り致しましょう。ただし、側妾としてアイラを添わせる事をお許し願いたく」


俺からもマヤに頼んでいた事だ。師匠を捨てるような事は絶対にしたくない。彼女がいなければ、君とも出会えなかったと言ったら不満そうだったけど受け入れてくれた。たぶん大丈夫のはずだ。


「その事については、ユウキとホーウェン学院長からも説得を受けました。アイラ=ファルディスが彼の妻になると私は認めましょう。‥‥うぅ、強力なライバルが」


マヤの答えにホッと胸を撫で下ろすファルディス姉妹。マヤを説得したかいがあったな。2人が戦ったら、下手すれば帝都が滅びかねない対決になりかねないし。マヤさん、君の事も大切にするから心配するな!


「わしからも意見を申し上げたい。職人達の作品だけでなく、劇団のチケットでしたかな? それの優先購入権も頂きたい。なに、観劇好きな方々が巷には多い。彼らの分をこちらで確保したいと思いましてな」


マルシアス様、そこに目をつけましたか。観劇するには、安い席でも金貨10枚からだもんな。高い席の象徴たる2階席が金貨50~100枚にはなるし。基本は予約制で、当日に空いている席は立ち見席等がほとんどだ。


ファルディス家と懇意になれば、良い席のチケットを融通してくれる。そんな噂が貴族や観劇好きの人々に知られたら?  仲良くしたいと近づく貴族達が増えると言う計算なのだろう。まったく、なかなかに喰えないじいさんだよ。


「ふむ、でしたら2割程のチケットを融通致しましょう。それ以上はこちらとしても困りますので」


「それで結構でございます。何せ、マヤ様の劇団は人気が高い。派閥や利害関係を越えて、同好の士が集まるサロンが出来る程です。そこに我らも入れれば情報を得たり、新たな取引相手が出来ますから」


マルシアス様の言うサロンは、マヤの母方の伯母に当たるレジャック侯爵夫人のサロンの事だろう。多くの貴族令嬢や夫人、それに男性皇族も入っているとか。


あまり近づきたくない所だな。趣味の話だけですめばいいが、絶対に政争や醜聞の話題とかが大量に出てきそうだし。


「さすがはマルシアス殿と言った所ですわ。あの父が貴方を認める訳です。ジェンナ殿やナージャ殿に‥‥アイラ殿。そして、ルパート殿など多士済々。ファルディス家が隆盛を誇るのが分かる気が致しますわ」


おっ、マヤの奴が持ち上げたぞ。マルシアス様達も褒められて満更でもない様子だな。全員俺からしたら未だはるか上の存在だ。これから追い付けるように努力するとしよう。


「お、お待ち下さい。皇女殿下、私達の事をお忘れなく。ロウ兄上を始め、私達も殿下の為に働いて見せますぞ」


うわあ、出たよ。でしゃばりラング。というか、君ね。朝しこたま怒られた事を忘れたのか? 名前を出されたロウ様、あからさまに嫌な顔をしているな。さて、マヤはどう返すのか。


「申し訳ありません。跡継ぎたるロウ様の活躍は聞いていますが、他の方々の噂は聞いた事が無かったので。これを機会によろしくお願いしますね。私の耳に届くような活躍を期待してますわ」


ラングは単純に喜んでるな。ルーは悔しそうだ。マヤの耳には彼らの悪い話が伝わっている。それを悟らせない為に、あえて噂を聞いていないといったんだぞ。しかも皇族の耳に聞こえる程の活躍って、ロウ様並みに頑張らないといけないと分かってるのか?


「は、はい。見ていて下さい! 必ずや名を上げて見せます!!」


「ぼ、僕も頑張ります」


まあ、2人がやる気になったのは良いことだよな。さて、ホーウェン学院長にも話を振るか。さっきから、楽しげにワインを飲みながら話を聞いているだけだからね。俺も少しはファルディス家の為に貢献しないと。幸い商売が出来るネタはあるしな。


「ホーウェン学院長。学院では宿舎が足りないと人伝に聞きました。もし、よろしければファルディス家が力をお貸ししますが?」


「ほう。どこから聞いてきたか知らんが、なかなか良い耳を持ってるじゃねえか。宿舎が少ないのは事実だな。皇帝陛下が実力主義を取ってから、平民の入学者も増えた。今まであった宿舎だけでは手狭になりそうなんだよ」


「そこで我が商会です。入学試験まで1ヶ月。私達に任せて下されば、何棟か作ってご覧にいれましょう。大工は手の空いてる者もいますし、資材の運搬等は私と師匠で出来ます。期間も短く丁寧な仕事も保証しますが、いかがでしょうか?」


大工達は休みに入っているが、すぐに動けるはず。それに彼らとしても仕事は欲しいだろう。とある行政責任者の不祥事で、橋の工事が中止に追い込まれたからな。大工達の仕事が失われたからには、早期に仕事をさせてあげないと。家族を抱えてニートなんて、中世の世では簡単に出来るもんじゃないし。


「そうだなあ‥‥まずは3棟程建ててもらおうか。出来次第で次を頼む。それで良いか?」


「ナージャ様。という訳ですが、この仕事受けてもよろしいでしょうか?」


俺はナージャ様に声をかける。あくまでも最終判断は、ファルディス家当主たる彼女が行うからだ。突然の商談にも関わらず、ナージャ様は少し考えた後で大きくうなずく。見れば、マルシアス様も満足げだ。


「なかなか良い話じゃないかしら。ホーウェン学院長にはアイラがお世話になっていますし、少し建設費用も安くして差し上げますね」


「ありがたい。これで寮生があぶれる心配が無くなりそうだ。最悪、倉庫まで解放するしかないと思っていたからな」


「今宵は皇女殿下とホーウェン学院長を屋敷に招く事が出来て光栄です。どうか食事を楽しんでいって下さい。当家の料理人が腕によりをかけて作りましたので」


ルパード様の言葉を合図に使用人達が料理を持ってきた。初めて手掛けた商談の成立に俺は喜びを噛み締めながら食事を摂る。


ファルディスの姓を名乗るからには、ある程度商売も出来ないといけないからな。将来的には女性2人を養わないといけないし、仕事も勉強も励まねばならん。‥‥しかし、前世以上にハードだな異世界は。




















次回、ルー視点の外伝

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